ロングセラーの必要条件はなんだろうと考えてみたときに、意外にも必要なものはアレだった。
「ベストセラー」と「ロングセラー」の違いってなんでしょう?
そもそもベストセラーにならなければロングセラーにもならない。だから、ベストセラーがそのまま売れ続けたらロングセラーになると考えられます。
現実には、ドカーンと短期に売れて、その後パッタリというベストセラーも少なくありません。そんななか、ずっと読者を回転させながら売れ続けるロングセラーに育つものもあります。
両者の違いはどこにあるのでしょうか?コンテンツが優れていることは大前提として、ロングセラーの必要条件を考えてみました。
【ロングセラーの必要条件】
① 時代の変化に左右されない普遍性
② 読み手の解釈の幅の広さを持つ懐の深さ
③ 対象読者が幅広いこと
こんなところでしょうか。
ロングセラーの究極は『聖書』です。ギネスの記録によれば、イギリスだけで50億部のロングセラーだそうです。「万」じゃなくて「億」ですよ。全世界に翻訳された部数を加算したら、とんでもない数字になっているはずです。誰かフェルミ推定してください。
『聖書』はベストセラーの条件を満たしています。ですが、そもそも宗教革命を背景にしたグーテンベルグの活版印刷技術が始まった時代の刊行物なので、ロングセラー化も当然といえば当然かもしれません。
ロングセラーとなった『「心のブレーキ」の外し方』は何がスゴいか?
私がフォレスト出版に転職したころ、すでにいくつかのロングセラーがありました。代表的なのが、神田昌典さんの『非常識な成功法則』です。
そのほかにもロングセラー商品になっている書籍がいくつかあります。なかでも個人的に「この本はすごい」と思うロングセラーがあります。
石井裕之さんの『「心のブレーキ」の外し方』です。
この本は上に掲げたベストセラーの必要条件①~③をすべて満たしています。初版は2006年ですから、14年前の本ですね。
最後の謝辞のページを除くと、本文はたった146ページ。ビジネス書としては「うすっ」と思うかもしれません。刊行当時、そう思いました。でも、本書を読めばわかります。ページ数がどうこうなんて、コンテンツの善し悪しにはどうでもよいということが。
まずは「はじめに」の冒頭から。
はじめに
あなたにお会いするのを、ずっと待っていました。
本書を手に取っていただき、ありがとうございます。
これも何かのご縁でしょうから、とりあえずこの「はじめに」だけでも最後まで読んでみてください。
さっそくですが、あなたにひとつの質問があります。
「あなたには、実現したい目標とか、夢、こんなふうになれたらいいなあと憧れている何かありますか?」
もし、そういうものがまったくなくて、今の人生や自分の在り方に百パーセント満足しているのなら、この本は、あまりあなたの役に立たないと思います。
どうしてかというと、この本は、知識を学ぶためとか、楽しむための本ではなくて、あなたの目標を叶えるため、そのためだけに作られた本だからです。
(以下「はじめに」続く)
―――――――――――――――――
このたった数行の「はじめに」でヤられます。たった数行に感情を揺さぶる訴求ポイントがいくつも埋め込まれています。
まず、これ。
「あなたにお会いするのを、ずっと待っていました」
読者のハートの奥底にスッと入り込んでくる、この最初の1行。
こんな書き出しのまえがきはあんまり見たことがありません。著者にこんなふうに声がけされたらドキッとします。読者と著者との距離感が瞬時に縮まる仕掛けです。
よく、婚活やナンパに使える!的なモテ本で紹介される「決めフレーズ」で「会場に入った瞬間からあなたが気になってました」というのがありますが、それに近いかな。いや、違いますね、
そして「あなたには実現したい夢や希望はあるか?」と問いかけ・・・
「今の人生や自分の在り方に百パーセント満足しているのなら、この本は、あまりあなたの役に立たないと思います」
・・・と、断言します。
でも、考えてみてください。自分の人生に100パーセント満足してる人なんて、いますか。たぶんいませんよね。だから、ここで読み進むのを止める人はいません。
そして、次のパラグラフで、このように畳みかけてトドメを刺します。
「どうしてかというと、この本は、知識を学ぶためとか、楽しむための本ではなくて、あなたの目標を叶えるため、そのためだけに作られた本だからです」
気になりますよね。「あなたの目標を叶えるため。そのためだけに作った」というのですから。
こんな感じで始まる「はじめに」は全部でたった5ページ。
気になる先は「この本を読めばどうなるのか」「何が得られるのか」「あなたがこの本でどう変わるのか」を一字のムダもなく展開され、最後はこう締めくくられます。
「ここまでお読みいただき、ありがとうございました。もし少しでも興味をもっていただけたなら、さっそく「心のブレーキ」を外すための第一歩を踏み出しましょう」
冒頭で「これも何かのご縁でしょうから、とりあえずこの「はじめに」だけでも最後まで読んでみてください」と始め、最後にこう締めくくる丁寧さ。
もはや、著者・石井裕之さんから読者への「手紙」スタイルといえます。「拝啓 読者様」から始まる手紙です。しかも、心がこもった手紙です。
ここでいう「あなた」は、読み手が何歳だろうが、性別が男だろうが女だろうが、すべてカバーします。そういう意味で、ベストセラーの必要条件「③対象とする年齢層が幅広い」をクリアします。
この本は各章、各節ごとに読者を引き込む冒頭のツカみがあり、巧みな構成で展開されます。しかも「一字一句」にムダない。だからページ数が少ないのです。
最初の章の冒頭もご紹介しておきます。
潜在意識はあなたを変えさせない!
お金持ちは、なぜお金持ちなのでしょうか?
モテる人は、なぜいつもモテるのでしょうか?
幸せな人は、なぜ幸せなことばかりが起こるのでしょうか?
その秘密を、これからたった一行でお教えします。覚悟して読んでください――
お金持ちがなぜ金持ちかというと・・・・・・お金持ちだからです。
モテる人がなぜモテるかというと・・・・・・モテる人だからです。
幸せな人がなぜいつも幸せかというと・・・・・・幸せな人だからです。
いえ、訳の分からないことを言ってあなたを翻弄しようというのではありません。とても重要な考え方がここに隠されているのです。
同じように、
貧乏人はなぜ貧乏かというと、貧乏だからだし、
なぜあの人は太っているのかというと、太っているからなのです。
もうちょっと詳しく説明させてください。
身体は、急激な気温の変化から自分を守るために、できるだけ体温を一定に保とうとします。暑くなれば、発汗して体温を下げようとするし、寒くなれば身体を震わせて熱を出そうとします。
それと同じように、潜在意識も、急激な環境の変化から自分を守るために、できるだけ現状を維持しようとするのです。
だから、お金持ちの人の潜在意識は、できるだけお金持ちでいようとする。身体が自然に平熱を維持しようとするのと同じで、現在の豊かさのレベルを維持しようと潜在意識が働いてくれるのです。
具体的にどう働くのかというと、たとえば、“何となく”選んだ仕事が大きな金儲けのチャンスにつながったりする。財産を失うような危険が迫っても、“何となく”それを避けて通ってしまう。そんなふうに、潜在意識が“導いてくれる”のです。
同じ理屈で、貧乏な人の潜在意識は・・・(続く)
『「心のブレーキ」の外し方』は発売1ヶ月で16万部、現在では累計40万部を超えるベストセラーとなっています。いまだに読者の声が全国から届く本でもあります。
著者の石井裕之さんは催眠療法の専門家。本書はおそらく高度な催眠療法の知見をベースにした「言葉のマジック」が随所に散りばめられています。だから、読んだあとにホントに「自分が変わった」ことを意識するはずです。そういう意味では真の自己啓発書。
でも、それよりもなによりも、著者の愛が感じられる1冊です。
冒頭に掲げたロングセラーの必要条件に、もうひとつ条件が加わることにいま気づきました。「著書に愛があるかどうか」です。それこそ『聖書』はキリストの愛なわけですから。
4つめのロングセラーの必要条件
「読者への愛が込められている(=表現されている)」
私はこの本の「おわりでないおわり」という「あとがき」が大好きです。石井裕之さんが本の向こう側にいる読者へ届けたい願い、深い愛を感じます。気になる方はぜひ、手に取って読んでみてください。
(編集部・寺崎翼)
Photo : Ben White
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