見出し画像

【速報レポート】3年ぶりに開催「台北国際ブックフェア2023」で感じたこと

こんにちは。
フォレスト出版の森上です。
 
出版社のマネタイズの1つに、海外の出版社に「翻訳権を売る」という仕事があります。詳しくは下記のVoicyの放送をお聴きください。
 

2014年以降、毎年2月に台北(繁体字)、5月にソウル(韓国語)、8月に北京(簡体字)、11月に東京(ブックフェアではなく、ライツ商談会のみ)で、それぞれ国際ブックフェアに足を運び(編集部メンバーが各国入れ替わりで担当)、弊社の刊行書籍の翻訳権を販売する商談に臨んでいます。
 
ただ、コロナ禍の影響で2020年、2021年、2022年の3年間は各国ともオンラインでの開催だったのですが、今年は3年ぶりのリアル開催が決定。
 
さっそく弊社としても、弊社代表・太田と私の2人で「台北国際ブックフェア2023」に出向いて商談に臨み、昨日帰国したところです。
 
今回のnoteでは、速報的に「台北国際ブックフェア2023」の状況をレポートしたいと思います。


「台北国際ブックフェア2023」開催概要

開催概要は下記のとおりです。

【ブックフェア名】
台北國際書展(TiBE)2023
 
【開催期間】
2023.1.31-2.5
 
【開催場所】
台北WTC(ワールド・トレード・センター)
 
【公式サイト】

会場は台北WTC(ワールド・トレード・センター)。東京のビッグサイトのような国際展示場。
会場の台北WTC近くから撮影した台北101。

台北のランドマーク的なタワー「台北101」のすぐ近く、東京で言うところの東京ビッグサイトのような国際展示会場です。
 
台北国際ブックフェアの場合、一般公開と出版業界関係者の商談は同時開催です。商談する場所は大きく2つに分かれます。
 
●一般エリアで自社ブースを出展して、そのブース内で商談するパターン。
●一般来場者が入場できない、会場2階に設置された「ライツセンター」で商談するパターン。

 
弊社は、ライツセンターで事前予約したテーブルで商談するパターンです。

会場の2階に設置された「ライツセンター」入口
ライツセンター内の様子。各ブースにデスクと椅子が設置されており、ここに現地出版社やエージェントが訪れて、商談する。

台湾の現地出版社とエージェントさんに、事前に設定した商談スケジュールに合わせて、弊社のテーブルにお越しいただき商談をします。
 
私たちも前日1月30日に台北入りをして、初日1月31日(月)10時~、各エージェント、出版社との商談を実施しました。ブックフェアそのものは、2月5日(日)まで開催されているのですが、ライツ関連は実質2月3日(金)までです。
 
ここからは、今回のブックフェアで感じた、日本と台湾の出版の動向や傾向についてお伝えします。あくまで、私が現地のミーティングで見聞きしたり、感じた個人的な感想であることをご承知おきのうえ、読み進めていただけたら幸いです。

日本の出版社の出展・参加状況

会場2階から見た1階の一般公開エリアの一部

毎回、一般会場に設営されている日本の出版社のブースですが、3年前よりも縮小されていたのが印象的でした。というのも、今までの国際ブックフェアで見かけた日本の大手出版社(小学館、講談社、集英社、KADOKAWAなど)の単独ブースは1社も見当たらず、小間割ブースでの出展、または、ライツセンターのデスクのみという状況でした。
また、ライツセンター内のデスクも連日空席が目立ち、いつも各国の国際ブックフェアで会う出版社のライツ担当者が見当たらず、今回の台北ブックフェアには不参加だった日本の出版社も少なくなかったようです。
 
その理由はいくつかあるのですが、現地での情報収集によると、大きく3つの理由が考えられます。
 
①コロナ禍で一気に広まった、オンラインミーティングでも十分成り立つ。
②円安の影響で、渡航費と版権販売売上と、3年前に比べると見合わなくなった。
③中国本土の国籍を持つ人は、台湾に入国できない。

※日本の出版社のライツ担当者やエージェントには、中国国籍を持つ方も一定数おり、2023年1~2月現在、台湾に入国できない状況になっています。

③は別として、①②の理由はちょっと気になるところであり、注視する必要があります。弊社も②については引っかかっていたのですが、今回のブックフェアの商談以外にも、現地の出版社や著者さんに会いに行くという別目的があったので、今回参加することに迷いは一切ありませんでした。

引き合いのあったテーマやジャンル

毎年、台湾の出版社や読者のニーズや傾向が変わります。昨年は見向きもしなかったテーマやジャンルが、翌年は引き合いが強かったりすることなんて毎度のこと。その変わりようは、日本以上に変わる印象です。
 
さて、今年の傾向は、投資・お金関連が強い引き合いがありました。特に女性向けです。日本でも同じですが、投資して資産形成をしようと試みる人、女性が増えているようで、投資・お金関連をテーマにした本はないかと多くの出版社から問い合わせがありました。
 
もちろん、日本と台湾では金融システムに違いがあるので難しいですが、お金教育や投資マインド系といった普遍性のあるお金関連書籍には大きな興味を示していました。

台湾の出版状況、売れ行きランキング

エージェントや日本の出版社の担当と話していると、台湾での書籍売上ランキング状況がコロナ前に比べてだいぶ変わってきているようです。
 
以前は、各ジャンルとも、売上ランキングトップ10の半分、それ以上が日本の翻訳本だったのが当たり前でしたが、今は台湾の自国のオリジナル作品が人気が出てきており、ランキングの割合も逆転し始めてきています。特に顕著なのは、手芸や料理の趣味系実用書ジャンルのようです。
 
現地でリサーチしながら話を総合すると、以下の2つの理由が考えられます。
 
①台湾自国のベストセラー著者が出てきている。
②台湾から中国本土への版権輸出が積極的になっており、そのライツ販売金額や印税売上のメリットを感じ始めている。

①②とも、日本の出版社は無視できない状況かもしれません。つまり、日本のコンテンツの良さを感じつつも、台湾の出版社が自国コンテンツに対する自信とマネタイズ力が徐々に大きくなってきているともいえます。

また、書籍の価格にも変化が出てきています。
空き時間に台湾で人気の書店チェーン「誠品書店」を覗いてみたのですが、1冊あたり2000円近くの書籍がザラにあります。日本では単行本1冊あたり1400~1500円がメイン。フランクフルトでも感じたのですが、日本の書籍は本当に安すぎです。円安も影響しているとはいえ、これは考える必要があります。

日本のコンテンツ産業は大丈夫か?

台湾国際ブックフェアの会場には、先にもお伝えしたとおり、各社が小間割の小さなブースが集まった日本ブース(JAPANブース)が存在します。

ただ、今回の台北国際ブックフェアに参加している、フランスやポーランドなどの各国のブースに比べて、実に貧相な状況です。

以前、フランクフルトで目の当たりしたのですが、日本ブースが韓国と中国の間にあるのですが、両脇の中韓のブースは、国から大きな予算が出ていることもあり、とても豪華で華やかな一方、日本ブースはかなり貧相です。

これは、誰もが行っても感じることでしょう。
「日本、ヤバくね?」と。

ぜひ日本の政治家にも、国際ブックフェアの日本ブースを見てもらいたい。一瞬でヤバいって感じますから。日本のブースは貧相であることは、会場内で明白ですから。幼稚園児でも感じることです。

出版業界は、大手でも社員数1000人レベルの中小企業の集まりであり、小さな業界ではありますが、コンテンツ産業の源泉であることは誰もが認めるところでしょう。映像(映画、ドラマ、マンガ)、音声コンテンツを含め、原作は出版物であることはまぐれもない事実です。

世界各国は、その重要性、大切さをよく理解しています。だからこそ、国も大きな予算を出版業界に投資しています。一方、日本は……。

日本は、コンテンツ産業の源泉ともいえる、出版業界にもっと投資すべきだと思うのです。国を揚げて活性化すべきです。出版社にいる人間だから言っているわけではありません。これからの時代、自国コンテンツを世界に売っていくことは、日本経済全体の重要な柱であるからです。

一時期、言葉だけが独り歩きした「クールジャパン」は、結局どうなったのでしょうか? 業界の端くれにいる私もよくわかっていません。このまま呑気に、「日本のマンガコンテンツはスゲェから大丈夫」とか言っていると、ゆでガエル状態になってしまうかもしれません。世界各国の国際ブックフェアで明らかになる、日本のコンテンツ力。「業界の人間はもちろん、オールジャパンで勝負していかなければいけない」とヒシヒシと感じています。
 
なお、IT化が日本より進んでる台湾が、「台北国際ブックフェア」というリアルイベントでも、平日なのに、親子連れや若い女性たち、学生、おじさん、おばあちゃんまで来場し、とても盛り上がっていました。ITとリアルの使い分けやそれぞれの良さを理解しているのが台湾人なのでしょうか。

撮影したのが平日ということもあり、親子連れ、高齢者のほか、若い女性たちの姿が多く見られた。

一方、日本では、2016年の東京国際ブックフェアを最後に、2017年以降、一般の方が参加できる国際ブックフェアは開催されていません(ライツ関連は、有志が集まって、2017,18,19と東京版権説明会を開催)。 東京国際ブックフェアの中止も、集客数があまり良くなかった、採算が見合わないなど、さまざまな理由があるようですが、コンテンツ産業の源泉である出版業界のイベントを、業界の人間が盛り上げていくことはもちろん、できることなら国の後押しをもらって、再度実現できることを願う――。

そんな思いが強く湧き出た「台北国際ブックフェア2023」でした。

「台北国際ブックフェア2023」の2日目(2月1日)、現地会場から生放送したVoicy放送回を下記のアーカイブで聴くことができますので、ご興味がある方はチェックしてみてください。


この記事が参加している募集

#この経験に学べ

53,596件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?