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経理はなぜ「現状維持」が好きなのか。

会社の守りのかなめである「経理」。鉄壁のディフェンスであることが求められますが、それだけにとどまると、会社の成長を阻む存在になりかねません。

会社の数字という宝の山をもつ経理こそ、攻めの姿勢であるべき、と話す公認会計士の町田孝治さんが、経理が保守的になってしまう理由について教えてくれました。

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すぐ「それはできません」と言う経理

「経理は難しい」「数字はよくわからない」という社長にとって経理は、会社のすべての数字を任せている存在です。そのため、社長の唯一の弱点にもなり、見方によっては社長より優位に立っている存在とも言えます。
たとえば、こんなやりとりが経理との間で交わされたことはありませんか?
あるいは、もしあなたが経理だとしたら、こんなふうに答えてはいないでしょうか?

【1】社長 「新しいプロジェクトを始めたいんだけど、プロジェクトの経理まわり試算をお願いできるかな?」

経理 「今の人数では無理です。増員して仕事を引き継がないと、とてもできません。
新しい人が入社したとして、引き継ぎ期間が半年は必要なので、10ヶ月後
なら可能です」

【2】社長 「月次決算をもう少し早くしたいんだけど、どのくらいでできるかな?」

経理 「1ヶ月はかかります」

社長 「もっと早くできない?」

経理 「まず、請求書の回収に○日くらいかかり、次に給与の確定に○日、そして店舗からの報告が上がってくるのに○日はかかります。これ以上は早くできません」

【3】社長 「クラウドとかネットバンキングを使ってみたいんだけど」

経理 「自動化しても結局、確認をしなければならないので、効率は上がりません。
今のやり方が一番良いと思います」

こんな調子で、社長が何かやりたいと言っても、経理の厚い壁に阻まれてしまうという話をよく聞きます。
会社のトップなのですから「そんなこと言わないで、やってくれよ」と言えそうなものですが、経理の仕事や数字のことがよくわからないので、及び腰になってしまうのでしょうか。
「すべてを任せている経理がそう言うなら、無理なんだろう」とそれ以上強く出られず、引き下がってしまうことも多いようです。
たしかに、自分が専門ではない領域で「これでできるはずだから」と強硬に進めるのは、思い切りが必要だと思います。
しかし、経理は本当に「できない」から「無理です」と言っているのでしょうか?
もし、「できるけどやりたくない」「完璧にできる自信がない」「面倒くさい」といった理由で「無理」と言っているのだとしたら……。
経理のそのひと言で会社は大きなチャンスを逃してしまっているかもしれません。
それで、本当にいいのでしょうか?

経理は「現状維持」が好き?

経理の仕事は、ミスがなくて当たり前の世界です。
ノーミスの状態を保とうと思えば、「現状維持が最も安全」ということになります。
今のやり方で正確に数字を出せているのに、違うやり方に変えてしまったら、正しいやり方であることを検証する必要があるうえに、前回と結果が同じかどうか確認する作業も必要で、作業は倍になります。
だから、今のやり方を変えるような新しい提案は歓迎しない。
それが、経理の基本的なマインドなのです。
これには、経理のような、ミスが許されない仕事を担当する人たちならではの特質も関係しているように思います。
弊社では、社内のコミュニケーションを円滑に進める一環として、社員に『ビジネス適正診断テスト』を受けてもらい、各々のビジネスにおける認識のスタイルを可視化しています。
もちろん状況によって特性は変わってきますが、テストを受けた時点でその社員が仕事をするうえで大切にしていることが大変よくわかります。
興味深いのは、経理担当者は一般的に「均質採択」という行動特性で非常に高いスコアを示していることです。
一般的なビジネスパーソンと比べると、経理担当者の多くは「均質採択」において2倍近くも高いスコアが出ます。
「均質採択」とは、同じことを実直に繰り返す能力が高いということです。「ミスがないのが当たり前」という世界での高いクオリティは「均質採択」に支えられているといえます。
会計士なのに「均質採択」のスコアが低い私は、会計の世界では変わり者なのかもしれません。その代わり、突出して高いのが「積極行動」「適時性」「進化採択」のスコアです。
この3つのスコアが高いということは、より良い形を作っていくために新しいことに挑戦したいという気持ちが強く、それを自ら体験しようとすぐに行動に出る、という性格を示しており、経営者に多い特徴といわれています。
どちらが良いということではなく、それぞれの仕事や役割に合った性格があるということです。
その意味で、「均質採択」が高い人は経理担当者として適性があるといえます。
ただ、「均質採択」には「今のやり方を変える」ということに強い抵抗をもつという弱点もあります。
「石橋を叩たたいて渡る」ということわざがありますが、「均質採択」が高い人たちは、100回ぐらい石橋を叩いてみて、ようやく「渡ってみてもいいかな?」と思えるようになるという感じなのです。

『会社のお金を増やす 攻める経理』より抜粋・編集)

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(編集部 杉浦)

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