【フォレスト出版チャンネル#137】出版の裏側|ビジネス書編集者はどのようにデザインを考えているか?(前編)
このnoteは2021年5月25日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
今のところ、トレンドは「シンプル」にあり
今井:フォレスト出版のパーソナリティを務める今井佐和です。本日は「ビジネス書編集者はどのようにデザインを考えているのか」というテーマで、編集部の森上さん、寺崎さんとお送りしていきます。森上さん、寺崎さん、よろしくお願いします。
森上・寺崎:よろしくお願いします。
今井:早速なんですけども、売れるビジネス書って色々とあると思うんですけども、売れるビジネス書のデザインというのはどんなものがあるんですか?
寺崎:それ、正解がわかったら僕も知りたいんですけども。
今井:そうですよね(笑)。
寺崎:傾向として思っているのが、ここ10年くらいの傾向だと思うんですけで、シンプルなモノが多いかな、と。あと、色数も少ない。例えば黒と白だけとか。あるいは3色まで。
今井:確かに白地に赤とか、白地に青みたいなモノを結構見る気がします。
寺崎:そう。今日、フリートークということで、さっきアマゾンのビジネス書のカテゴリーのランキングをバーッと見たんですけども、やっぱりどれも色数が少ないんですよ。これは多分、色も情報の1つじゃないですか。だから、情報過多という時代背景から、読者もなるべくシンプルなモノを手に取るんじゃないかっていう仮説があるんですよね。森上さん、どう思います?
森上:そうですよね。最近はやっぱりシンプルなモノが多くなったなという印象があるんですけども、十数年前ってうちの本なんて典型だと思うんですけども、我々が入る前のモノなんですけども、うちの7階のフロアに10万部いった本の表紙のパネルがあるんですが、それを見るとかなりごちゃごちゃしているんだよね。
寺崎: いやー、色数多いよね。派手!
今井:ポップですね(笑)。
森上:で、特にうちのピンク(フォレストピンクと社内では読んでいるビビッドな蛍光ピンク・新書シリーズのカバーなどに使われている)が主体になっている本とかもバーッとあったりとか、情報も細かい字がいっぱいあったりとか。
今井:目立つ感じですよね。
森上:そうですね。基本的に目立つことを重視していたのが10数年前で、ここ10年以内だとうちもだいぶシンプルになってきたよね。
寺崎:そうねー。
森上:情報の選択と集中と言うか、そういうかたちになってきたかなという感じはしますね。今、ちょうど(10万部いった)表紙のパネルを見ながら収録していますけど、これを見ても色数も減ってきているよね。
寺崎:減っているね。文字数も減ってますね。帯に入っている文字が。
今井:確かにタイトルもキュッと短くなっている印象がありますね。
森上:それですよね。情報量をとにかく減らしたと言うか、選択と集中だよね。これは傾向としては大きいかもしれないですね。他社の本もそうかもしれない。
今井:ちなみにデザインによって売れる、売れないが変わったりするから、デザインが大事なんですか?
寺崎:それはもちろんそうですね。ただ、これはネットのABCテストみたいに同時に発売できないので仮説でしかないんですけど、「これが売れるだろう」と決めて売るんですけど、「ボツにしたC案だったら売れたんじゃないか」とか、そういうのは毎回ですね。
森上:いっぱいありますね。本当に正解がないので、先ほど言っていたみたいにテストができないので、そこはもう答えはずっと出ないっていうのが正直なところで。ただ、それでもそれなりには売れる状況というのはどういうものかっていうのはなんとなく把握しているので、できるだけ答えに近づくような努力はしていますよね。
デザイナーさんの人選はどうしている?
今井:ありがとうございます。ということで、最近はシンプルなデザインの本が売れるようになってきているということだったんですけども、デザインをするにあたってデザイナーさんの人選で考えていることって何かあったりしますか?
寺崎:人によって色々だとは思うんですけど、私の場合はテーマごとにお付き合いしているデザイナーさんが何人かいるので、このテーマだったらこの人だなとかいうのは一応あって、ギリギリまで迷ったりもするんですけど。あと、よくやるのが独立したてのデザイナーさん。デザイナーってデザイン事務所に所属しているんだけど、みんな独立して1人でデザイン事務所を始めるんですよ。そういう時ってやっぱり頑張るから。
今井:なるほどー!
寺崎:次の仕事につなげようとしてやっぱり頑張るじゃないですか。最初の取引って。あえてそういう人に頼んだりっていうのをやったことも何回かありますね。
今井:デザイナーさんの得意分野もだし、状況とかも加味しながらという感じなんですかね。
寺崎:そうですね。森上さんは同じ方とツーカーの呼吸を大事にしてるよね。
森上:そうですね。僕の場合だと、本の特徴とか読者層によって方向性を決めていくじゃないですか。例えば1つの打ち合わせにおいてポップな方向っていった時にデザイナーさんとこっちのポップの違いというか、そこって言語によって認識が違ったりする場合があるので。
今井:ポップのテンションがちょっと違ったりすることがありますもんね。
森上:ありますよね。僕が信用してお世話になっているデザイナーさんでFANTAGRAPHの河南(かわなみ)さんっていう方がいらっしゃるんですけど、その方は言語ベースで共有ができる関係性があるので、河南さんにお願いしちゃうことが結構多いですね。
今井:森上さんのイメージが伝わりやすいって感じですか?
森上:伝わりやすい!デザインの方向性を決める時もそうですし、こっちが意図しているもの、前提情報を詰めていくというのが新しいデザイナーさんだと大事になってくるので、そこの部分の手間が省けると言うと語弊がありますけども、ある程度そこをくみ取っていただけるとなると、最近は新しいデザイナーさんっていうよりも河南にお願いする場合が多いですね。
デザインって企画の方向性で選ぶ場合もありますし、デザイナーさんにとって得意な分野、読者層が女性だったら女性向けが得意とか、ノンフィクションとか、そういった棲み分けで選んでいくというのが多いんじゃないかなと思いますね。
デザイナーさんとの化学反応でハマるケース
今井:お二方ともやり方が違うということだったんですけども、編集者によって変わってくるという感じなんですかね。
森上:そうですよね。
寺崎:確かに始めてお仕事するデザイナーさんとかは共通言語が培われていないから、結構ドキドキなんですよ。どうしても相性ってあって、この方とかしっくりこないなというケースも残念ながらたまーにですけどあって。なくはないですよね。だから共通言語と言うか、感覚が共通しているデザイナーさんがいると、僕も物理的に仕事量が多い事務所とそうでない事務所があるので。ただ化学反応を期待する場合もあって。
今井:なるほど。
寺崎:どう出てくるのかな、みたいな。
森上:あるよね。あと、この方はこういったテーマが得意なんだけど、あえて違ったテーマをぶつけてみたらどうなるかなとか。得意分野じゃないモノ、異物をぶつけてみるという。まあ、めちゃくちゃギャンブルだけどね。
寺崎:そうなんですよね(笑)。すごくそれがうまくハマる時もある。
今井:それがハマるとうれしいですね!
森上:ハマらなかった時はどうしようとなるけどね。
今井:やっちゃったって感じ。
森上:やっちゃったは、あっちゃいけないんだけどね(笑)。
今井:でも、てっきり私はデザイナーさんはセンスのいい人にお願いするものだと思っていたんですけども、言語が共有できる、つくりたい未来の同じものが見えているみたいな、そういうところが大事なんだなというのを改めて感じました。
デザイナーさんはどこをデザインするの?
今井:ところで初歩的な質問で恐縮なのですが、デザイナーさんって何をどこまでデザインするんですか?
寺崎:まず装丁ですね。カバー、帯、表紙、扉。あと場合によっては紙面フォーマットって言うの?中のデザイン。
今井:原稿の方?
寺崎:そう。原稿を流し込む紙面ですね。見開き2ページの。そのデザインまでする。他にも細かい仕事もありますけど、大まかに言うと装丁と中面ですね。
今井:絵とかも描いてあったりすると思うのですけど、それは別の方がされるんですか?
森上:そうですね。例えばイラストレーターにカバーのイラストだけをお願いする場合もあるし、中面のイラストもお願いしながらカバーのイラストも同じ方に依頼する場合もあるし。カバーのイラストは大体デザイナーさんと決めていきますね。やっぱりデザインと方向が変わっちゃうので。
今井:じゃあ、デザイナーさんが決まってからイラストレーターさんが決まっていくという感じですか?
森上:カバーに関してのイラストについてはそうです。本文のイラストの場合は、本文もフォーマットも一緒にデザインしてくれる場合もありますけど、本文のデザインは別のデザイナーさんの場合もあるんですよ。
今井:そうなんですね。
森上:そうなんです。結構多いよね。セットの場合も別々の場合もあるんですよね。
今井:たくさんの方が関わるかたちになっているんですね。
森上:そうですね。
寺崎:でも、カバーのイラストレーターに中面のイラストをお願いするっていうケースが多くない?
森上:僕は逆かな。結構本文のイラストは本文のイラストレーターっていう場合が多いかも。解説的なイラストだとカバーに使えないから。
寺崎:あー。図版とかはね。
森上:そうそう。図版とかの本文の中のイラストね。そうなってくるとテイストが違ってくるのでそこは棲み分ける場合が結構多いかもしれない。カバーのイラストってどちらかと言うとイメージっぽいことが多いじゃないですか。やっぱりイメージが上手なイラストレーターさんと違う場合があるので。そこは分ける場合が俺は多いかな。
書籍デザインにおけるイラストの立ち位置
今井:ちなみにデザイナーさんと一緒にイラストレーターさんを決めるっていうことだったんですけども、その時にイラストレーターさんの人選というのはどのように決めていくんですか?
寺崎:多いのはデザイナーさんに相談する。どの方で今回いきましょうかって。そうするとデザイナーさんの中ではイメージがあって、このテーマでその方向性だったらこの人がいいんじゃないって数名の候補をあげてくれるんですよ。それを見てこの人がいいなと思ってお願いするっていう感じですね。
今井:編集者サイドから「このイラストレーターさんでいきたいんですけど」っていうことはないんですか?
森上:たまにありますよね。イラストレーターさんがメインで、その後にデザイナーさんを選ぶとか。
今井:そちら側も。
森上:たまーにあります。
寺崎:僕もあるな。
森上:でも、そもそも論なんですけど、イラストがないカバーもあるじゃないですか。
今井:文字だけドンみたいな。
森上:そうそうそう。
寺崎:写真とかね。
森上:そうそうそう。それで、デザイナーさんと最初にお会いする時に3つの方向をまずどれでいくか、文字だけでいくのか、イラストでいくのか、写真入りでいくのか。その辺りの方向性を決めたりしますね。逆にイラストありきになるとイラストなしのパターンがなくなっちゃう。イラストを発注しちゃうわけだから。そこはいつも難しいところなんですよね。
デザインラフは何パターン出すのか?
今井:ちなみにカバーのデザインって何種類くらい出てきて決める感じなんですか?
寺崎:デザイナーさんによるんですけど、大体最低4案くらい、人によってはもっとたくさんのバリエーション、Aの1、Aの2みたいな感じで。大まかに全然タイプの違うモノを4パターン、さらに派生系みたいなモノを出してくる場合が多くて、ただ人によってはもう「これ!」っていう感じで、一応4パターン出してくるんだけど、他のデザインは色が違うだけじゃんみたいな。
森上:それ、きついんだよなー。
寺崎:こういう人を私は本気系デザイナーって呼んでいる。
今井:職人な感じですか?
寺崎:そう。「もう他は許さない。俺はこれでいきたいんだ!」 っていう。
今井:(笑)。
森上:いやいやいや。やりづらくてしょうがないんだよな、俺は。
寺崎:俺は、それはそれでスタンスとしてはあってもいいのかなと。
森上:まあ、デザイナーさんのスタンスとしてはね。
寺崎:森上さんはどんな感じ?
森上:基本的には3つのバリエーション、違う方向みたいな。例えば文字だけのモノと、写真入りのモノと、あともう一案、デザイナーさんが自由にやったものみたいな。その3つがあがってきて、それの色違いのとかのバリエーションは他にもあがってくるっていう。まずその3つのバリエーションからどうやっていくかというのを決めていく。
カバ―デザインでもっとも重視すべきこととは?
森上:多分、カバーデザインですごく重要なのは文字の置き方と文字の書体と色だと思うんだよね。この3要素。それ+αイラストなのか、写真なのか、その辺のバランスですよね。書体と色と文字の置き方で大体その本の雰囲気って変わってくる。なので、そこの部分を注視する。その時に賛否両論あるにせよ、書店さんでパッと棚で変な話、0.1秒の戦いなんですよね。
今井:第一印象ですもんね。
森上:そうなんですよね。そこで目にとめてもらえるか、そのためにやっぱり商品情報の一番の商品名である、タイトルの可読性とか、その辺りってめちゃくちゃ重要だなって思っていて。そういうのはやっぱり選ぶ時に重視しますかね。
寺崎:書籍のカバーって広告チラシみたいなものなんですよね。だから、アートじゃなくて、未来の読者、手に取ってくれる人とのコミュニケーション。だから、タイトルがその商品の名前だから、「私は〇〇です。」「私は今井佐和です。」っていうのを。
今井:(笑)。
寺崎:伝えなきゃいけないし。
今井:「お前誰だよ」みたいな感じになってしまいますもんね。
森上:そうそうそう。で、「こんな人に読んでほしいです」っていうことも言わなきゃじゃないですか。
今井:ターゲットはあなたみたいな。
森上:そうそう。
寺崎:「あなたのこの悩みに答える本です。」っていうところまで掴まないといけないので。そうすると、別にきれいじゃなくてもいいんですよ、デザインは。伝わる方が大事。
森上:これはあくまでもビジネス書っていう枠においてね。
寺崎:そうですね。アートとかね。
今井:確かに小説とかだとまた違いますよね。
森上:そうそう。そういうのは世界観がすべてっていうところがあるので。やっぱりかっこいいから、おしゃれだから、きれいだからいいとかじゃないんですよね。ビジネス書のデザインについてはね。むしろ読者の目にとまる、そのための戦いっていうのはやっぱり常にありますよね。
寺崎:そう。だから、もしリスナーの方で書店行って文芸書のコーナーできれいな装丁見て、ビジネス書のコーナー行ったら汚い本ばっかりって思っている人もいるかもしれなんですけど(笑)。
今井:いないですよ(笑)。
寺崎:それはそういう理由なんですよってことを伝えたい。
森上:そうそうそう。だから、本の種類、ジャンルによって当然違いますけど、基本の我々がメインにやっているビジネス書はもう汚くても。
寺崎:汚いは言い過ぎだ(笑)!ごめんなさい!
森上:汚いは言い過ぎ(笑)。
今井:目に入ると言うか。
森上:そういうことですね。
今井:飛び込んでくるみたいな。
森上:声がでかいっていうね。その言い方でいいのかな(笑)。なんかそんな感じがしますよね。でも、逆に声がでかいものばっかりだから、たまにスッと極端に声が小さいものが目立つと言うか。
寺崎:小声で耳にささやくようにあえてタイトルを小さくするっていう。
今井:確かに。
森上:そういう本がたまに出るんですよ。
今井:校長先生がいきなり小声で話したらみんなシーンとするみたいな。何言ってるんだろうみたいな、ありますもんね。
寺崎:まさにそれだ。
森上:そんな感じ。棚の中で妙に目立つ。みんなの声がでかいから。
今井:いずれにせよ、目立つってことが大事なんですね。
森上:そういうことです。小さくても目立てばいい。
寺崎:後ろにあるの(10万部突破の本の表紙一覧)見てください。「買わないでください!」って書いてある!(『非常識な成功法則【新装版】』の帯の文言)
森上:(笑)。
今井:気になるー!気になる!買いたい(笑)!
森上:そんなような感じです。
今井:ありがとうございます。本日はここまで「売れるビジネス書のデザインとは」ということで、デザイナーさんはどんな方にお願いするのがいいのかなとか、イラストレーターさんの話とか、本の表紙についてなどのお話を伺ってきたんですけども、明日は最重要と言われている「帯デザイン」などのお話を引き続き伺っていきたいと思います。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)
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