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「こだわり」の強い相手への対処法

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。

人それぞれに「こだわり」はあるものです。

こだわりが強いことは決して悪いことではなく、本人がそれなりに自信と確信がある証拠であり、そんな部下を持つ上司は無碍に扱うこともできないでしょう。

才能がせめぎ合う世界・芸能界に集まる人間は、それこそ人一倍「我が強く」「こだわり」の強いことは想像に難くありません。

ただ、その「こだわり」が結果につながるものならいいですが、なかなか結果につながらないものだと、まわりはヤキモキするものです。特に芸能マネージャーならなおさらでしょう。

60年以上にわたり、自分の事務所に所属するタレントや芸人はもとより、他事務所のタレントたちの浮き沈みを多く目にしてきた、芸能界の生き字引的な存在、“伝説の芸能マネージャー”として知られる川岸咨鴻さん(元・浅井企画専務取締役)は、人気放送作家・鶴間政行さんとの共著『芸能界で学んだ人の才能の見つけ方、育て方、伸ばし方』の中で、「こだわりの強いタレント」をどのように対処したかについて語っています。今回は、同書の中から該当部分を公開します。

 他人のアドバイスを素直に受け入れるのは大事であることは、すでに何度かお伝えしたとおりです。
 ただ、いつまで経っても、優柔不断に人の意見に振り回されているのも良くありません。
 まだ売れていないお笑い芸人には「前説」という仕事があります。前説は、劇場での公演やテレビの公開放送の本番前、観客に対して実施する、いわばリハーサル的な教育です。観劇する際のマナーの他、拍手のタイミング、笑いのタイミングなど、若手芸人がフリートークで行ないます。会場の雰囲気を良くするためにも行なわれますが、若手芸人にとっては、自分たちをアピールできる場でもあります。
 多くの若手芸人は、関係者に売り込むチャンスでもあるため、喜んで行きます。
 しかし、この前説の仕事を頑なに拒否したタレントがいます。
 キャイ〜ンの天野です。
 天野がウドとキャイ〜ンを結成してまだ間もない頃のことです。
 私が「ウドと一緒にあの番組の前説に行ってくれ」と頼みました。
 すると天野は、
「私は漫才をするために芸能界入りしました。前説をやりに芸能界に入ったのではありません」
 ときっぱり言ったのです。
 私も、「ああ、なるほど正論だな」と納得しました。彼の日常のふるまい、言動からして一本筋通っているので、正直に「あっ、申し訳ないことを言ったな」と思いました。

 小堺一機も似たようなところがありました。
 もっとも小堺と関根勤のコサキン(小堺と関根がコンビで活動する際の名称)は、ブレイクする前に前説をやっていたんですが、それが前説の始まりといわれています。日本のテレビ番組で初めて前説が導入されたのが「欽ドン!」で、欽ちゃんがコサキンにやらせたのが始まりです。
 そんな小堺は、当時からしゃべりが非常にうまい人間でした。
 そこで私は、ニュースや情報番組のコメンテーターやアンカーマンみたいなものをやらせたくて、一度チラっとそんな話を提案したことがありました。
 すると彼は、
「いや、ボクはコメディアンですから」
 ときっぱり言いました。しっかりした「自分」というものを持っていたのです。

 このように、どこまで「自分」を押し出すかどうか、そのさじ加減というかバランス感覚が大切です。
 自分をわきまえずに、自分を強く押し出すと、これはつまずきの元となりかねないからです。
 いずれにしても、マネジメントする立場としては、アドバイスはするけど、「あれをやれ」「これをやれ」とは強制できないから、本人がうまくいく方向へ誘わなくてはなりません。これが、マネージャーの一番のセンスが求められるところであり、重要な仕事だといえます。
 これは、どんな職種でもいえることではないでしょうか?
 才能のある、または期待している部下を、どのようにマネジメントしていくか。会社都合ではなく、できるだけ、部下の才能ややる気が発揮できる環境にもっていけるかが大きなポイントになるでしょう。

ただ、芸能マネージャーもタレントのどんな要望や意見を尊重するわけではなく、限度もあるようです。川岸さんは著書の中で、「一線を越えた『ワガママ』は、断じて認めない」と題して言及しています。

 どこまで相手に合わせるか、相手の言い分を認めるか、そのさじ加減は非常に難しいものです。マネージャーもタレントのワガママをどこまで認めるかが、大きな勝負になってきます。
 タレント側も、どこまで「自分の我」を貫き通すか。そこで一流の人間と二流以下の人間に分かれます。
 ずっと鳴かず飛ばずだったのに、ある先輩芸人との出会いがきっかけで売れっ子になったRというタレントがいます。
 何十年も続けている浅井企画主催の定例の舞台があります。その舞台は、所属タレントが基本的に出ることが方針になっています。まだ鳴かず飛ばずだったRは、目をかけてくれた先輩芸人に引き上げてもらい、この舞台を通じて、ラジオに呼ばれ、だんだんテレビにも出始めて、次第に売れるようになっていきました。
 Rが売れっ子タレントとして、ある程度お茶の間にも浸透した頃のことです。
 Rが新幹線のなかで酔っ払って、「もう、こんな舞台辞めたい!」と暴言を吐いたのです。どうやら当時の担当マネージャーに吹き込まれたことも影響しているらしいですが、その話を聞いたとき、最近のRの勘違いした横柄な言動や態度が気になっていた私は、「これは看過できんな」と思いました。
 そこで後日、私はR宛てに次のような内容を記した手紙を書いたのです。
「君は、こんなスモールジャパンのちっちゃい国でやっていくより、もっとグローバルな世界へ行ったほうがいい」
 こうして、Rは担当マネージャーとともに、事務所を去っていきました。かつて自分を引き上げてくれた恩のある先輩売れっ子タレントとも、下積み時代からの長い付き合いがあったのに……。
 Rの担当マネージャーの存在も影響しているかもしれませんが、筋を通さない自己主張のやり方は、やはり認めるわけにはいけません。
 仁義や筋を通さないワガママや主張は、時代、業界を問わず許されません。なぜなら、仕事は自分一人ではできません。まわりの人たちのお力添えがあって、成り立つものなのですから。
 どこか驕りがあったとき、人は次第に離れていきます。つまり、仕事ができなくなります。どんなに偉くなっても、どんなに売れても、どんなに今、調子が良くても、驕りは禁物です。

今回紹介した書籍『芸能界で学んだ人の才能の見つけ方、育て方、伸ばし方』(川岸咨鴻、鶴間政行・著)は、芸能マネージャー歴60年超の「芸能界の重鎮」&伝説の人気「放送作家」という最強タッグが「人の才能を見つけ、育て、伸ばす」ための思考法&実践法を公開しています。部下や子どもの才能を見抜いて、磨きあげるヒントが詰まった1冊になっています。興味にある方はチェックしてみてください。

著者プロフィールは、次のとおりです。

川岸咨鴻(かわぎし・ことひろ)
元・浅井企画専務取締役。株式会社ICH名誉会長。1940年生まれ。栃木県出身。藤圭子の初代マネージャーを経て、芸能マネージャーとして数々の才能を世に送り出す。コント55号の萩本欽一、坂上二郎をはじめ、小堺一機、関根勤、キャイ~ン、ずんなど数々の一流お笑いタレントを生んだ芸能プロダクション「浅井企画」の専務取締役を45年間務める。2018年4月に株式会社ICHの名誉会長に就任。芸能マネージャー歴60年超の芸能界の重鎮。
鶴間政行(つるま・まさゆき)
放送作家。1954年埼玉県熊谷市生まれ。1976年東洋大学在学中に放送作家を志して欽ちゃん(萩本欽一)に師事する。5年間の居候を経てデビュー。以後、「欽ドン! 良い子悪い子普通の子」「欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞」「笑っていいとも!」「オレたちひょうきん族」「SMAP×SMAP」「王様のブランチ」など、多くの人気テレビ、ラジオ番組を構成。現在は、「超逆境クイズバトル!99人の壁」「キニナル金曜日」を構成。長寿番組「ごきげんよう」のサイコロトークの発案者としても、業界では名高い。


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