見出し画像

経理のイメージを劇的に変える「攻める経理」~社長と経理の不幸な関係

2021年も2か月と少しになりました。2年におよぶコロナ禍、オリンピックの延期と開催・・・こんな未来がくるなんて、たった数年前、誰が予想していたでしょうか?

まさにVUCA時代、というところですが、毎年変わらずやってくるものももちろんあります。

たとえば年末調整(唐突ですね)。

11月に入ると、経理担当者は年末調整の準備を進め、12月には年末調整を完成。生命保険料控除証明書、地震保険控除証明書、2年目以降の住宅ローン控除申告関係など、年末調整で手続き可能な控除関係資料を一人ひとりから収集しなければならないほか、還付や不足額の徴収もそれぞれに行うため、かなり煩雑な作業を繰り返す時期に。1月も給与支払報告書を作成して各市町村に送付したり、法定調書合計表の作成、償却資産申告書の提出など税金関連の業務に追われたり・・・。(https://www.jmsc.co.jp/knowhow/topics/10654.html より)

「過去の数字に間違いがないか。資金繰りが滞りなく進められるか。無駄なコストを防ぐ金庫番」というイメージの経理は、会社において「守り」のかなめと言えます。

税理士法人 町田パートナーズ代表の町田孝治さんによると、「経理の仕事は決算の数字を作ること」であると思っているなら、それは半分正しくて、半分間違っているそう。経理は単に決算書を作るだけでなく、「数字のプロ」として、数字からわかる情報を抽出しメッセージとしてわかりやすく伝え、活用することで、会社全体を変えていくことができる立場にいる、と言います。

今回は、町田さんの著書『会社のお金を増やす 攻める経理』から「はじめに」を全文公開、数回にわたり、VUCA時代を生き抜くための経理の役割、可能性についてご紹介します。

***

はじめに 経理が変われば、会社が変わる

はじめまして。
税理士法人 町田パートナーズ代表の町田孝治です。
最初はたった1人で始めた会計事務所でしたが、開業から13年、おかげさまで延べ1000社の中小企業と取引させていただき、これまで見てきたお客様の売り上げも500億円を超えることができました。
また、多いときには年間100件近い創業支援もさせていただいています。
「社長の夢の全力応援団」をモットーに、税務・経理処理だけでなく、人間関係の課題や生産性・業務効率の向上、IT推進など、経営上のあらゆる問題を「数字のプロ」としての観点から解決し、お客様が本業の発展に専念できるよう、全社員一丸となって力を尽くしています。
そんなふうに文字通り「全力応援団」としてお客様をサポートし、自分自身も経営者として様々な紆余曲折を経験する中で気がついたことがあります。

経理が変われば、会社は劇的に変わります。
会社のお金を知り尽くしている経理は、社長の経営判断を左右する情報を握っています。
社長と経理が心を一つにして会社のビジョン達成に知恵を絞れたら、会社はどんどん成長を遂げ、社会に貢献できるばかりか、社員も笑顔で働けるようになります。
漫画『ワンピース』で、主人公のルフィが仲間たちと力を合わせて目的地を目指すように、社長と経理はそれぞれの強みを活かしながら会社という船を動かす大切な「仲間」なのです。

社長と経理の不幸な関係

しかし、現実はどうもそうなっていないことが多いようです。
社長と経理が同じ目標に向かってともに進んでいくような関係がなかなか築けていないのではないか……という気がしてなりません。
職業柄、これまで大勢の社長にお会いしてきましたが、「数字を経営に活かせていない」社長が非常に多いということを実感しています。
社長が数字を自由に使いこなすことは、経営方針を決めるうえでも、PDCA(事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の1つ)を回すうえでも、銀行に実績を説明する場面でも、また、社員にビジョンを熱く語るシーンでも、ものすごく大きな力になるにもかかわらず、です。
その原因が、社長が「数字に弱い」ことにあるとすれば、あらゆる状況に効く数字の提示を「数字に強い」経理に求めればいい話です。経理にはその力は十分にあるはず。けれども、経理がその力を十分に発揮するチャンスをどうやら与えられていないようなのです。
また、「何かやりたいことがあっても、いつも経理に反対される」という印象を社長が抱えているケースもあります。
しかし、経理にしてみれば、「社長は現実を見ないで、いつも無茶な指示ばかりしてくる」と、ため息をついていたりします。
このように、社長と経理は「お互いの強みを活かし合い、ともに夢に向かう仲間」というより「相手のことを永遠に理解できない関係」になってしまっていることが多いのです。

一方、経理の側も「数字のプロ」としての役割にこだわりがあるがゆえに、「自分の仕事は数字をミスなく作ること」がゴールだと思いこみ、そこでストップしてしまっていることが少なくありません。
たしかに、数字を作ることそのものがとにかく大変であるうえに、その作業には多大な時間と集中力がかかり、さらには専門性が必要です。
ですから、経理が「数字をミスなく作る」ことが自分の仕事のゴールだと考えてしまうのも当然ではあります。
しかし、会計数値は「出来上がったら終わり」ではなく、出来上がった数字を経営に活かすことが本来の目的です。ただ数字を作るだけでは、目的の半分しか達成できていないことになります。

数字を経営に活かせていない社長。
数字を作ることだけがゴールになってしまっている経理。
そして、相手のことを永遠に理解できず、不満がたまるような不幸な関係。

これでは、せっかくの数字も「宝の持ち腐れ」になりかねません。
だとすれば、非常にもったいない話です。

では、どうすれば社長と経理がビジョン達成のために力を合わせられるようになるのでしょうか。
私が出した結論は、本書のタイトルになっている「攻める経理」です。
経理が「攻める」ことに目覚めれば、社長は鬼に金棒ですし、経理自身もこれまでにない充実感と達成感を得られます。
「あなたの成長が世界の希望の光になる」、これは、弊社の教育方針です。
そして、同じように、
「経理の成長は会社の希望の光になる」
私は一片の疑いもなく、そう信じています。

社長は夢の実現に向かって必死で走り続けていますが、ともすれば目の前の対処に追われ、目的地に向かう道のどこを走っているのか見失ってしまうことがあります。
そんなとき、経理が数字を示して「社長、夢の実現まであとこれくらいです」「今、この地点にいます」と現在地を示し、現場に埋もれる社長に数字を使って客観的な方向を示していけたらどうでしょう。
これは、数字の力を知り尽くしている経理だからこそできることです。
そして、経理が「攻め」に転じられるようにするためには、まず社長が意識を変える必要があります。
もし「経理=守り」としか思っていないのだとしたら、経理が守備だけでなく「攻める部署」としても活躍できることを理解し、社長も経理から数字を学び、経理も社長から経営を学ぶ、そんな関係性に向けて社長が自ら経理に働きかけていきましょう。
そんなふうに社長の意識が変われば、社長と経理は「仲間」としてかけがえのない関係を結べるはずです。
社長と経理が強力タッグを組めば、その会社で働く社員たちも前向きに、その仲間に加わってきます。
「攻める経理」は、それぐらいパワフルに会社と社会を変えていく力を持っているのです。

私が会計士になった理由

なんだか最初から大きな話になってしまいましたが、本題に入る前に、そもそも私がなぜ会計士になったのか、少し自己紹介をさせてください。
私の父は税理士でした。私は幼い頃から税理士として働く父の背中を見、会計や税務に関する専門用語が常に飛び交う環境で育ちました。
けれども、最初は会計士になるつもりは全くありませんでした。
4歳上の兄が会計士試験に合格し、父の事務所を継ぐことはわかっていたので、「自分は兄とは違う道を歩もう」と思っていたのです。
早稲田大学理工学部の経営システム工学科(名称は当時)に進み、理学的なアプローチで経営工学を学ぶことにしました。
それでも、やはり蛙の子は蛙なのでしょうか。
大学3年のとき、「家族みんな会計をやっているんだし、簿記3級くらい取っておこう」と、ごく軽い気持ちで会計の勉強を始めました。
ところが、会計を学ぶほど、無味乾燥に見える決算書の「数字」がにわかに意味を帯びてきました。
決算書は現実のビジネスを写し鏡のようにありのままに示してくれます。数字が目の前でいきいきと動き出し、私にメッセージを送ってくるかのようでした。
そんなふうに数字を通して現実のビジネスを理解するおもしろさに魅了された私は、理系のキャリアを捨ててしまうほど、どんどん会計の勉強にのめりこんでいきました。
興味本位で始めた会計の勉強でしたが、大学4年のとき、父が急逝したことで、気持ちが変わりました。
「本気で公認会計士を目指そう」と一念発起したのです。
そして、大学卒業の半年後に公認会計士の試験に合格することができました。

会計監査人という仕事

社会人としての最初のキャリアは、大手監査法人での会計監査でした。
担当したのは、誰もが名前を知っているような一流上場企業ばかりで、6年間みっちり、会計監査の実務経験を積みました。
社員1人1人がプロフェッショナルとして高い専門性を持って働く環境は刺激的でしたし、多くを学ぶことができました。
けれども、私は次第に「自分には合わない仕事かもしれない……」と疑問をもつようになっていきました。
会計監査は社会正義のための本当に意義深い仕事であることは間違いないのですが、現場の実作業は要するに間違い探しであり、すでに出来上がっている数値を改めて確認し、ミスを見つけることでした。
ミスを見つけると、「よくやった」と上司に褒められますが、お客様である会社の経理としては大問題で、場合によっては現場で大変にお世話になった担当者に大きな処分が下されることもありました。
また、監査人は中立の立場を貫かなければなりません。
いくらよかれと思っても、お客様の経営に口出しすることはできないのです。
情が移ると中立でいられなくなるため、「クライアントと仲良くなりすぎてはいけない」という面もあります。
「もっとお客様の立場に立って仕事がしたい」
私は次第にそんな思いを抑えられなくなっていきました。
目の前のお客様の幸せのために自分のすべての力を、何の遠慮もなく注ぎこみ、直接喜んでいただける仕事がしたい。届いても届かなくても全力を出し切りたい。
そして、私は独立を決意しました。
退職して自ら会計事務所を立ち上げたのは、2006年9月。私が31歳のときの
ことでした。
それからずっと、「社長の全力応援団でありたい」という開業当初の私の願いは変わることはありません。本書を執筆しようと思ったのも、
「幸せな会社を増やしたい」
「そのために、社長と経理が最高の仲間となり、お互いの強みを発揮し合ってほしい」
という強い願いが根底にあります。

数字の計り知れない力を手にしよう

数字には計り知れない力があります。
時に残酷な事実を突きつけたり、
時に一歩を踏み出す勇気を与えてくれたり、
時に力強い説得力をもたらしたり、
時に夢物語を現実化してくれたり、
そんな数字の力を、日本のすべての社長の武器にしてほしいと思います。

経営者として、企業活動を継続し、雇用を生み、利益を出し続けていくことは、誰にでもできることではありません。
しかし「数字を経営に使おう」という意思と「どのように使うべきか」というガイダンスがあれば、数字を経営に活かすことは、誰にでもできることです。
数字を通して全体を見る。
数字を通して現場を見る。
数字を通してハッと我に返る。
こんなふうに数字を経営に活かすことができれば、一気に経営の舵取りがやりやすくなります。
このとき、経理が数字に基づいた適切なアドバイスをし、社長を夢の目的地まで導いてくれるのだとしたら、これほど心強いことはないでしょう。
「攻める経理」の存在意義はそこにあります。

経理のイメージを劇的に変える

私の人生のミッションは、「社長の夢の全力応援団」です。
もし本書を手に取ってくれているあなたが社長だとしたら、あなたの夢をかなえるために、ぜひ本書を役立ててほしいと思います。
あるいは、あなたは「もっと会社に貢献できるような経理ができないか」と考えている経理担当者かもしれません。本書では、経理を最適化するAI(人工知能)を活用した、新しい時代の経理として活躍するヒントについても詳しく述べています。
AIの驚異的進化に伴い、「自分の仕事がなくなるのではないか」という不安をもっている人も多いようですが、「攻める経理」では、AIを使いこなして、あんなこと、こんなことまでできるようになる、数字のプロとしての価値が何倍にも跳ね上がる経理像を示しています。
また、管理職やチームリーダーのポジションにある方々にも本書を手に取っていただき、これまで私が培ってきた数字のメッセージを拾い上げる方法や、それをより深く読み解く技術をしっかり伝えていきたいと思います。
さらに、同業者である税理士や会計士の方々にも読んでいただき、一緒に会計事務所のバージョンアップを展開していけたらと願っています。

「攻める経理」とは何か。
具体的に何をすればいいのか。
AIを経理に活かし、時代の転換期をどう生き抜いていくか。

本書を読み終わる頃には、経理のイメージが変わり、これからの時代の経理の役割、そして幸せな会社の将来像がくっきりと浮かび上がっているはずです。

***

(編集部 杉浦)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?