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#321【ゲスト/海外版権】熱いぞ中国市場、東アジア圏の出版事情

このnoteは2022年2月2日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。


日中の文化交流の橋渡しとして~意外なる経歴

今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める今井佐和です。本日も昨日に引き続き、株式会社タトル・モリエイジェンシー営業部国外ライセンス部門、部長代理の付さんをゲストにお迎えしまして、編集部の森上さんとともにお伝えしていきます。付さん、森上さん、本日もよろしくお願いいたします。
 
付・森上:よろしくお願いします。
 
今井:昨日は、翻訳出版権を売り買いする海外版権ビジネスについて詳しくお聞きしましたので、まだお聞きになられていない方は昨日の放送をチェックしてみてください。そして本日は日本語がたいへんご堪能な付さんご自身のことですとか、これからの中国や台湾などのアジア地域の出版がどうなっていくのかについて、いろいろお尋ねしていきたいと思います。
 
森上:よろしくお願いします。付さんは、日本語はどこで勉強したんですか?
 
付:日本語は日本で勉強していました。
 
森上:そうなんですか。日本に来るきっかけっていうのは、何かあったんですか?
 
付:私は中国の師範大学を卒業していて、大学の卒業論文が潜在意識についての論文なんですね。
 
森上:へー。
 
付:当時の中国は閉鎖的で、それじゃなきゃダメみたいで、私の論文はゼロ点だったんですよ。
 
今井:ゼロ点!?
 
付:そう。だから、そういうことを子どもに教えたくないって思って、ちょうどその時期に村上春樹先生の『ノルウェイの森』っていう作品があるんですけど、それを読んで、すぐ隣の国の文字は全部わかるんですけど、気持ちはどうもよくわからないっていうのがあって、興味をもって、行きたいなと思って。それがきっかけで、大学を卒業してこっちに来たんです。
 
森上:そうですか。中国で大学を卒業して、就職してから来たわけじゃなくて、もう大学を卒業したらすぐにこっちにきた感じなんですか?
 
付:半年くらい、学校の先生をやって。
 
森上:そっか。師範大学だから。学校の先生になる大学だからか。なるほど。ちなみに小学生を教えていたんですか?
 
付:高校生でした。
 
森上:年があまり変わらないじゃないですか(笑)。それで、日本に来られて、それが何年くらい前ですか?
 
付:それを言ってしまったら、年がバレちゃうんですけど(笑)。
 
森上:そっか、そっか。じゃあ、やめよう。
 
付:(笑)。
 
森上:あぶない、あぶない(笑)。それで、外国人向けの日本語学校に行くと。そこは、1年くらいで卒業できるんですか?
 
付:2年間ですね。
 
今井:2年で、こんなに日本語がうまくなるものなんですか?
 
付:卒業した後に、やっぱりずっと日本で暮らしているので、日本語を使って人とコミュニケーションを取ったりして、それもあると思います。
 
今井:私、中学、高校、大学と英語を勉強しているのに「Hello」ぐらいしかしゃべれないから、2年で日本語がこんなに話せるなんてすごいなあなんて。
 
付:やっぱり環境が重要じゃないですかね。
 
森上:なるほど。師範の資格は中国で取ったから、日本でその資格が使えるわけではない?
 
付:使ってないですね。使えないです。
 
森上:そっか。じゃあ、日本語学校の先生として、日本で日本語を教えるとかっていうのもやったことはない?
 
付:個人レベルで教えたりとかはしたことはありますけど。
 
森上:家庭教師か。なるほど。それで、日本語学校を卒業して、そこからすぐにタトルさんに入ったんですか?
 
付:ではなくて、日本学校を卒業して、大学院手前の研究室に入ったりして、その後にちょっと縁があって、フランスの化粧品会社のインストラクターになり、それで全国を回っていろんなところでイベントがあったり、講習会を開いて教えたりとかして。でも、中国語しかしゃべれないので、フランスの化粧品だとあんまりビザがおりなくて。外国人はそういうのがあるから、好きなところで働けないわけなんですよ。それで映像会社に転職をして、その後にいろいろなことがあって、会社も辞めて、中国、台湾、日本、3カ所の合作ドラマの撮影をちょっと手伝って、通訳をしたりとか、脚本翻訳をしたりとかして、そのときに女優さん、俳優さん、いろんな方と知り合って、それで知人の紹介でタトルに入ったんですよ。
 
森上:そうでしたか。そういったドラマの現場とかっていうのも、映像会社にいたから、場数を踏んでいるわけですね。
 
付:そんなに長い経験をしているわけではないんですけど。
 
森上:そうでしたか。確かに翻訳とか、付さんの能力を発揮できそうな場ですもんね。
 
付:そうですね。毎日サンプルを見て「あ、この映画がいいんですよ」っていう感じで、それが私の仕事なんです(笑)。
 
森上:そうですか。
 
今井:はじめに村上春樹さんの本を読んだときは、気持ちがあまりよくわからないということだったんですけど、わかるようになってきた感じですか?
 
付:たぶん(笑)。私たちはすごく近所じゃないですか。日本と中国ですごく近所ですし、仏教も私たちもみんなわかっていると思いますけど、ただ、やっぱりちょっと違うところがあって。でも、実際に私は日本に来てからいろんな日本人にお世話になっているんですよ。すごく優しい方が多くて、昔、学生時代は勉強をしながらケンタッキーでアルバイトをしていたんですけど、塩がないから塩を1本くれたりとか、洋服がないから、「この洋服どうですか?」って洋服をくれたりとか、ものすごく優しくしてくださったんですね。そのときに、文化の橋渡しの仕事をちゃんとして、お互いにもっと理解するようになれば、もっといいんじゃないかなと、すごく私は思ったんですよ。
 
今井:それが今の仕事で、橋渡しの凄腕仲人みたいなところにつながっているんですね。
 
付:そうですね。だから、今この仕事をして、すごく幸せと毎日思っています。

台湾と中国の出版事情

森上:すばらしいですね。そうでしたか。ちょっと次のテーマにいきたいなと思うのですが、台湾と中国について、それぞれお聞きしたいのですが、台湾の出版事情って今どんな感じですか? コロナでなかなか商談ができていないけど(2022年2月収録当時 ※2023年より台北ブックフェア再開)。
 
付:そうですね。実は何年も前からずっとそうなんですけど、日本のアドバイス(翻訳権成約の際に払われる一時金)がどんどん上がっているじゃないですか。元々18万円、20万円から、今はもっと上がっているんですね。で、競争も激しくなっているから、台湾の出版社の皆さんは韓国から輸入したほうが安いとか。または、台湾のインフルエンサーたちに書いてもらったほうが安いじゃないかっていうふうに、だんだん考え方が変わっているんですよ。また、台湾の出版事情はそんなによくはないですね。私たち関係者は毎年、「いや、今年はあんまりよくないな」みたいに、みんな言っているんですけど。
 
森上:なるほどね。ここ数年ですかね。2、3年。コロナ禍なんて、特にそうですよね。
 
付:弊社の成約件数はあまり変わっていないんですけど、やっぱり取引している先が変わったりしているんですね。もう全然出せなかったりするところもありますし。維持しているぐらいな感じじゃないかなと思います。
 
森上:なるほどね。ビジネス書とか、我々がお世話になっているジャンルってあるじゃないですか。そっちのほうが取引件数が多いのか、それよりも文芸とかフィクションのほうが取引件数が多いのか、どんな感じなんですか?
 
付:件数で言えば、実用書のほうが多いですね。ビジネス書とか実用書とかそちらのほうが多いんですけど、ただランキングに入っている作品は文芸書が多いんですよ。
 
森上:なるほどね。やっぱりそうか。それは日本でも確かにそうですもんね。台湾の作家さんが台湾で、いわゆる国内の著者さんが国内で出すベストセラーもいっぱいありますもんね。
 
付:ありますね。
 
森上:うちはタトルさん経由で、台湾の著書さんの案件をまだ日本では出せてはいないですけど、買わせていただいたものが1件ありまして(※)、そういう案件っていうのがだんだん増えていくもんですか?

(※)原著タイトル『情報課』/日本語版タイトル『私をやめたい。でも今日くらいは笑ってみる』(蔡康永・著/2023年11月刊)

付:だんだん増えています。台湾だとそんなに数は多くないんですけど、中華圏は結構増えています。
 
森上:大陸のほうの。簡体字のほうの。
 
付:はい。
 
森上:それを日本で翻訳して出していくという。
 
付:そうですね。文芸が多いんですけど、実用書はあまり多くないんですが、増えています。問い合わせもものすごく増えています。
 
森上:そうですか。それこそ、昔はどちらかと言うと日本のものを出すほうが多かったようなイメージはあったんですけど、だんだんその逆のバージョンが増えてきているってことですね。
 
付:そうですね。数はそんなには多くはないですけど、すごく増えています。前の年と比べると。
 
森上:へー。そうなんですね。日本の出版業界だと、翻訳と言うと、欧米圏が多かったですもんね。英語圏。
 
付:そうです。そうです。
 
森上:今、中国の出版業界は元気ですか?
 
付:元気ですね。毎年20%ぐらい増えているんですよ、業績が。結構増えていて。もちろんその中でも、うまくいっていない出版社もあると思いますけど、全体的には増えています。
 
森上:そうですよね。その印象はすごく強いですよね。やっぱりお金を持っていますよね。変な言い方をしちゃうんですけど(笑)。
 
付:(笑)。
 
森上:やっぱり(日本の書籍の翻訳権を)買ってくださる金額が他の国とは違う。
 
付:全然違います。桁が何個かぐらい違う感じで。
 
森上:うちはそんなにですけど、文芸の世界だとすごいんだろうなって。それこそ、昨日のジブリの話じゃないですけど、あれなんかも相当すごいんだろうなって。
 
付:売れたらものすごく数字が出てくるんですよ。
 
森上:そうですよね。『窓ぎわのトットちゃん』って、日本より売れているんですよね?
 
付:はい。そうです。具体的な部数は弊社経由ではわからないのですが、もう何十年とずっとランキング10位とか20位に入っているので、相当売れていると思います。
 
森上:そうですよね。やっぱり人口が違いますからね。だから、日本での100万部が向こうだと1000万部。
 
付:超えるんじゃないかな。
 
森上:1億レベルですよね。たぶん。
 
付:1億にはいかないと思いますけど(笑)。
 
森上:(笑)。
 
付:1000万部は超えるんじゃないのかなと思います。
 
森上:桁が違うんですよね。
 
付:いや、本当にそうですよ。例えば、弊社経由のビジネス書、実用書なんですけど、『断捨離』っていう作品があるんですが、200万部超えたりとか。
 
森上:中国で200万部超えている?
 
付:はい。あと児童書も結構、毎年追加印税が入ったりとかしています。
 
森上:児童書ね。うちは扱っていないけど。日本の児童書って、中国では相当ウケがいいですか?
 
付:そもそも中国は絵本っていうジャンルがないんですよ。だから、絵本の作家さんはいないんですよ。海外で買わなきゃいけないんですよ。
 
森上:なるほど。そうなんですね。
 
付:そうです。で、そういうものを子どものときに見慣れていないから、自分がその作家になろうと思ってもなかなかできないものなので。だから海外から輸入しなきゃいけないんですね。
 
森上:なるほどね。それは、もちろん日本からもそうだし、欧米からも。
 
付:はい。欧米からもあります。
 
森上:そういうことなんですね。絵本っていいな。
 
付:どうぞ。やってください。私、売りますから(笑)。
 
森上:うちでできるかどうかは別ですけど(笑)。ビジネスのジャンルとかだと、サンマークさんで出されている、稲盛和夫さんの『生き方』とかね、売れていますもんね。
 
付:非常に売れていますね。
 
森上:そういう感じで言うと、中国がまだまだ元気だぞって感じですね。

映像化権の輸出の可能性

付:まだまだいけると思います。さっきも申し上げましたとおり、うちは映像化もやっているじゃないですか。皆さんのイメージだと小説家から映像化とか、またはドラマからリメイクっていうふうに考えているかもしれないんですけど、実はうちはビジネス書、実用書からの映像化もやっているんですよ。
 
森上:そうですか!
 
付:内容がおもしろくて、映像化されていて、まだ出してないんですけど。
 
森上:うちが得意とするところじゃないですか。
 
今井:そうですね。デジタルメディア局の出番ですかね。
 
森上:そうですよね。映像の輸出と言うか。いわゆるセミナーとかそういうものですか?
 
付:ではなくて、確か昔、御社の作品でも、倒産した人が頑張って1億円儲かったみたいな、自己啓発の作品とかであったじゃないですか。
 
森上:はいはい。
 
付:そういう系のものをドラマ化するっていう感じです。
 
森上:なるほどね。そういうことね。それをドラマ化して、そういうコンテンツにして、エンタメにして売るということですね。
 
付:向こうで。
 
森上:あ! 向こうで作るんだ! そっか、そっか。
 
付:そうです。私たちはやらないんです。コンテンツだけ向こうに許諾をして、向こうの脚本家がそれを書いて、撮影するという感じです。
 
森上:なるほどね。そういう意味ではいろいろな形があるかもしれないですね。これはちょっとまた付さんとのお仕事が増えそうな感じで楽しみですね。
 
付:ぜひ、お願いします。
 
森上:ぜひぜひ、お願いいたします。幸いにもVoicyのこのチャンネルって、結構他の出版社の方も聞いてくださっているので、そういったことも、ぜひ付さんに声をかけていただいたら、何か新しいことができるかもしれないですよね。
 
付:ありがとうございます。
 
今井:ありがとうございます。今回は海外版権エージェントというお立場から貴重なお話をお聞きすることができました。では、最後に付さんからリスナーの皆さんにひと言、メッセージをお願いしてもよろしいでしょうか。
 
付:はい。結構いろいろとお話させていただいたんですが、うちの会社だけではなくて、エージェンシーっていうのは、羽がついた天使のような素敵な作品を、世界の皆さん、必要なところに届けるという素敵な仕事なので、皆さんと末永く付き合っていきたいと思います。今後もエージェンシー業界よろしくお願いします。
 
森上:ありがとうございます。よろしくお願いします。
 
今井:ぜひ付さんに連絡を取っていただけたらなと思います。ありがとうございます。本日は付さん、森上さん、どうもありがとうございました。
 
付:ありがとうございました。
 
森上:ありがとうございました。
 
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)
 


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