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【探究学習編⑤】数年を見越した探究学習のカリキュラムについて

みなさん、こんにちは。一般社団法人Foraの藤村です。

前回までは、やや理念的な話が続いていましたが、これからは具体的な話を中心に検討していければと思います。本日は、探究学習のカリキュラムについて考えていきます。

前回までで検討した内容などをもとに、どのようにカリキュラム作成に落とし込んでいけばよいのかを検討していきます。
その際、まずはカリキュラムの原則について確認したうえで、ここのポイントについて整理してきます。

カリキュラム作成のポイント

素地がなければ、問題を発見できない

以前の記事でもお伝えしたように、総合的な探究の時間では、自分自身で課題を設定することが大切だとされています。そのため、課題発見に力を入れることに目が向きがちです。それは良いことなのですが、そもそも課題を発見するには、課題解決の素地が必要です。というのも、自分が解けそう、あるいは、だれかが解けそう(解いたことのある)問題でないと、目の前に問題と思える現象があったとしても、解決できるような「問題」とは思えないです。

そのため、まずは課題解決の素地をいかに育むかが大切になります。言い換えれば、生徒に自由に課題を発見させるまえに、ある程度の解き方についても理解しておくことが大切だということです。高校3年間であれば、高校1年生の時、中高一貫校であれば、中学生段階で課題解決の素地を掴んでおくと、その後の学年になってから自分自身で問題発見ができるようになります。

一通りの探究学習のプロセスを理解し、体験し、実践するのが探究の基礎学習

答えのない問いに対して答えを出す方法として、研究では主に問いを立て、仮説を立て、合っているかどうかを検証し、検証結果に考察を加えることで、仮説の真偽を確かめることで答えを出そうとします。少なくともこの一連の仮説検証のプロセスを理解すること、そして、自分自身で行うことが、探究学習の基礎力となります。

この探究学習の基礎力を高校1年生などの初期段階に提供できるほど、高校2年生などの探究学習で、より発展的な取り組みを行うことに繋げられます。特に、社会課題の解決や学問的な興味関心を探究しようとすると、対象となる社会現象などが非常に複雑なため、様々な要素や要因を分解して、仮説を立てて確かめていく基本的な姿勢を身に着けておかないと、表面的な問いになったり、行き詰ったりして挫折することもあり得ます。そのため、早い学年の段階で基礎力を養うことが大切です。

「探究基礎」ができてから、社会的な課題や学問的な課題への応用へ繋げていく

上記の続きになりますが、探究学習の基礎的な力ができてから初めて、社会的な課題や学問的な課題へ取り組むことが可能になります。社会を扱う問いでは、様々な要素が絡んでいたり、様々な要因が絡んでいるため、社会課題を解決しようとすると、様々な要素を変数として考慮しなければ考えることはできません。その複雑さゆえ、一つの要因自体を明らかにすること自体が研究となりえるほどです。

高校生の探究学習において、例えば、アウトプットを目指すために何かの提言を行うとか、なにかのアクションに繋げたい先生方もいらっしゃると思います。その場合には、少なくとも、基礎的な探究学習を理解したうえで、課題として解くべき課題の範囲を相当絞ることによって、意味のあるアウトプットを出していくことが可能になります。そのためにも、探究基礎は重要なため、1年生は基礎、2年生は応用などとカリキュラムを検討するとよいと思います。

協働学習は、探究基礎ができてからはじめて成立する

探究学習においても、協働的な学びは重視されています。実際に、個々人で探究学習を行う場合もあれば、複数人でチームを組んで、チームとして一つのアウトプットを出すことを探究で行う学校もあるでしょう。個々人か、チームで行うかのいずれかが良いかについては教育目標次第です。そのため、どちらが良い悪いではないのですが、少なくとも協働学習を行うためには、生徒の中に「良し・悪し」の判断基準や、探究学習の基本的な考え方の理解が必要です。

・話し合いをするときに「目指したい、目指すべき」よい基準と「回避したい、避けるべき」悪い基準を生徒が持って話し合いに臨めていること
・他者と話し合いをするときに議論を嚙合わせるための基本的なものの考え方についての考え方を持っておくこと

この2点を踏まえていないと、生徒はどこに向かって話し合えばよいかがわからなくなり、議論自体が錯綜してしまい、話し合いこそすれ実のある内容にならないことも多いです。また、他者と探究についての考え方が共有されていないと、自分自身がどの立場から、なにを指摘したいのかをお互い分からないところから伝えあることになるため、話し合いの難易度が高くなります。

そのため、協働学習は、いきなりスタートさせるのではなく、探究学習の基礎の後半のまとめの部分や、基礎力がついた2年生のタイミングから徐々にスタートしていく形をとれるとよいと思います。

よい探究の理想像やゴールイメージに、早期に触れて理解する

前の章でも書きましたが、話し合いをするときに「目指したい、目指すべき」よい基準と「回避したい、避けるべき」悪い基準を生徒が持っていることが重要です。目指すべき方向が分からないと、時間を掛けても良いアウトプットには繋がらなくなります。そこで、先生方でよい事例を共有したり、場合によっては先輩方の探究アウトプットを読んだり、卒業生などの研究の話を聞く機会が大切となります。

探究学習は、自分自身で研究を完遂させることが求められているため、抽象的に理解できたところで意味はないです。自分が理解できて、具体的に実践できるところまでの理解が必要なため、理想的な探究についてのゴールイメージを早めに共有できるようにすることが大切です。

進路学事や特別活動等との連動を行う

ここからは、少し発展的な内容となりますが、探究学習を総合的な探究の時間だけで考えるのではなく、進路学事や特別活動との連動ができると、さらに充実したものになります。少し発展的と言っても、事実、修学旅行先と探究学習のテーマ設定をリンクさせる事例があったり、進路行事については事実上、総合的な学習の時間を用いて行っている場合も少なくないと思います。

そうであれば、他の分掌との共同作業にはなりますが、総合的な探究の時間を進路行事と連動させたり、特別活動と連動させることで、生徒に向けた効果も高くなり、また、特色ある学校づくりにも繋がっていきます。上記のように書くと大袈裟ですが、例えば、高校1年生の文理選択の前に、進路学事として幅広く学問を知るガイダンスを入れながら、それが探究学習での学問的な関心を広げる活動でもあるなどの組み合わせや、高校2年生1学期に探究学習として、探究テーマを設定したのちに、そのテーマがどんな学問分野に近いのかを調べた後、進路の行事として主要学部の話を聞くガイダンスやオープンキャンパスを案内するなどの連動などが考えられます。

このようにそれぞればらばらの活動としてではなく、一体化させることで、探究学習が追加で負担が掛かるものであること以上に、生徒にとって、学校にとって意味のある活動になっていきます。実際に実現しようとすると、他の分掌との調整や学校管理職との調整なども必要になるため、大変な仕事ではありますが、意義深い教育活動に繋がっていきます。

他教科の進度と検討していく

こちらも少し発展的な内容となりますが、各教科で学んだことをいかに総合学習に組み込めるかを検討できるとさらに大きな効果を発揮します。例えば、数学で学んだデータに関する知識が探究学習の検証の際に役立ったり、あるいは、サッカーボールの軌道について興味を持った生徒が、そのためには物理の運動方程式を学ぶ必要性を知ることで、教科学習への意欲を高めることに繋がります。

各教科の進度や学習目標を整理し、それをどのように探究学習に組み込んでいくかを検討することで、手間と時間はかかりますが、大きな成果を上げることに繋がります。

最後に

上記7つについて考えてきましたが、カリキュラムの議論は、文科省の学習指導要領や各県での目標や学校での目標、建学の精神などに加え、生徒の現状を踏まえて検討していきます。今回中心にまとめさせていただいたのは、主に生徒目線での検討のため、これに加えて、各学校でのカリキュラムなどの検討を加えていただき、この記事がカリキュラム作成の際の参考になれば幸いです。

次回は、探究学習で学んでほしいと思う、主要な学習目標、キーコンテンツを紹介したいと思います。

これまでの連載はこちら

連載「生徒の学び続ける意欲と能力を育む探究学習を実施するには」

①2020年から始まる探究学習って実際どんなことするの?
②探究学習を導入する社会的背景とは(前編)
③探究学習を導入する社会的背景とは(後編)
④探究学習の通して、生徒にどんな資質・能力・態度を育んでほしいのか
⑤数年を見越した探究学習のカリキュラムについて ←今回
⑥探究学習の教材や核となるコンテンツ
⑦探究学習での教員の関わり方
⑧探究学習の評価方法


ここまでご覧くださり、ありがとうございました。
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