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【探究学習編②】探究学習を導入する社会的背景とは?(前編)

こんにちは。一般社団法人Foraの藤村です
前回に続き、今回も連載企画として探究学習を導入する社会的背景について考えたいと思います。

▼前回の記事はこちら

今回は第2回として、なぜ探究学習が大切なのかを考えていきたいと思います。考えるにあたり、学習指導要領の改訂の背景を提言した文部科学省の中央教育審議会の答申*1を下敷きにし、そこにForaなりの実践での考察を加えることで、考えていきたいと思います。(分量が多いので前編後編に分けて掲載致します)

なぜ、5教科7科目だけでなく、総合的な学びがいるのか

総合的な探究の時間が重視されますが、そもそも高校では5教科7科目をしっかり学びますし、大学入試のためにも総合的な時間は不要なのではないかとの考えもあります。そのような「教科教育(5教科7科目)」と「総合的な探究の時間」とを比較して、その意義を考えてみたいと思います。

まず総合的な学習の時間(高校生では総合的な探究の時間)のうち、そもそも「総合的」とはどういう意味でしょうか。


一つの教科等の枠に収まらない課題に取り組む学習活動を通して、各教科等で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け、学習や生活に生かし、それらが児童生徒の中で総合的に働くようにすること。236p

つまり、各教科で学んだエッセンス、その教科を「通して」学んだことを、他の場面で活かすことです。たとえば、数学の確率の公式を覚えるのではなく、複数の変数があるときに変数を1つずつ動かすことを学んでいくことです(これは、経済学や経営学等を理解するときに活きてきます)そのように、各教科自体の知識に限らず、その知識を得る過程を通して学んだ知識を、活用することが大切です。総合的な探究の時間は、まずそこを目指しています。インプットだけではなくて、学んだことをアウトプットすることです。

では、そのことにどのような意味があるのでしょうか。


成果としては、全国学力・学習状況調査の分析等において、総合的な学習の時間で探究のプロセスを意識した学習活動に取り組んでいる児童・生徒ほど各教科の正答率が高い傾向にあること、探究的な学習活動に取り組んでいる児童生徒の割合が増えていることなどが明らかになっている。また、総合的な学習の時間の役割はPISAにおける好成績につながったことのみならず、学習の姿勢の改善に大きく貢献するものとしてOECDをはじめ国際的に高く評価されている。236p

言い換えれば、なぜ各教科を学ぶのか、その動機付けに繋がり学習意欲が高まること。あるいは、課題を解くためにも様々なことを学ぶことが大切だと気付くことで、学習へのやる気が高まることがまず重要です。それが学習姿勢の改善につながるほか、各教科への成績向上等にも繋がる結果となります。

詰め込みか、それともゆとりか、というような二元論ではなく、その両方が必要であり、それらの相乗効果を目指すのが探究です。言い換えれば、物事を体系的に学んでいく系統主義的な学びと、物事を身の回りの経験から学んでいく経験主義的な学びとのどちらが良いかではなく、系統主義と経験主義の好循環を回すことが、「総合的な」探究の意味合いと思います。

なぜ、いまの教育を変える必要があるのか

日本の教育では、文部科学省が学習指導要領を定め、それに基づき教科書検定を行い、全国の学校現場で教えます。そのため、学習指導要領は日本の教育でなにを教えるのかを定めています。この学習指導要領はこれまで10年に一度改訂されてきましたが、近年では、10年を待たず何度も改訂しています。社会の変化に合わせて、教育の内容を変化させるためです。そこで、今度の学習指導要領の改訂には、どんな社会を捉えたのかを考えてみたいと思います。

ただ、社会の変化については、読者のみなさんのほうが詳しく実感されていると思います。いわゆるAIやIoT、Society5.0等はじめ、働き方やコロナ後の未来等、数年でも様々な変化を実感されていると思います。社会の変化については、ここでは主要なもののみ紹介し、高校生の現状を中心に書きたいと思います。

子供たちの65%は将来、今は存在していない職業に就く(キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授))との予測や、今後10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化される可能性が高い(マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授))などの予測がある。また、2045年には人工知能が人類を越える「シンギュラリティ」に到達するという指摘もある。

こちらはよく引用される内容ですが、これまでにない新しい仕事が生まれ、既存の仕事は機械等に代替され、これまで以上に早い速度で社会が変わっていくだろうとの例として用いられます。と言っても大袈裟な話や一部の人に関わる話ではなく、高校でも情報科の授業が生まれ、コーディネーター等が生まれ、民間事業者も増えると同時に、コンピューター等で伝票処理等は自動化されます。またコロナ対応なども含めて様々な人が新しい変化に直面しており、それに対して対応していくことが求められています。

そのような社会の変化の中での、いまの生徒像をどう捉えているのかを検討しましょう。

また、「人の役に立ちたい」と考える子供の割合は増加傾向にあり、また、選挙権年齢が引き下げられてから初の選挙となった第24回参議院議員通常選挙における18歳の投票率は若年層の中では高い割合となり、選挙を通じて社会づくりに関わっていくことへの関心の高さをうかがわせた。こうした調査結果からは、学習への取組や人とのつながり、地域・社会との関わりを意識し、関わっていこうとする子供たちの姿が浮かび上がってくる。5p
学力における調査においては、判断の根拠や理由を明確に示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・考察し説明したりすることなどについて課題が指摘されている。また、学ぶことの楽しさや意義が実感できているかどうか、自分の判断や行動がよりよい社会づくりにつながるという意識を持てているかどうかという点では、肯定的な回答が国際的に見て相対的に低いことなども指摘されている。6p

つまり、人の役に立ちたい意識はあるものの、社会に貢献するための必要な能力が必ずしも持たれている訳ではないとの分析です。その結果、自分自身が社会に貢献できるだろうとの自己効力感が低い現状もあると捉えられるでしょう。

もちろん、高校生段階では社会の現状の一部しか把握できなないでしょうし、もっと専門的な知識等を理解しないと把握は難しいと思います。しかし他方で、そのような学習を重ねることで、自分自身に必要な力を理解し、知識を増やすことで、社会全体とまでいかずとも身の回りの環境に対して主体的に働きかけ、実際に形にしながら、変化に適応していくことが、これからの時代に大切なのだと思います。


以上、今回は「なぜ5教科7科目だけでなく、総合的な学びがいるのか」「なぜ、いまの教育を変える必要があるのか」について考えてきました。

次回は、「なぜ、高校生の時期に探究が大切なのか」「なぜ、探究を通してよりよい学校づくりに繋がるのか」について考えていきたいと思います。








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