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結婚式場コモンパーパス物語①

前回から【5C】のコモンパーパス(共通の目標)&コネクションについて解説しています。目標があるから業績が上がるということはなく、目標に共感し、納得するから業績につながるというお話をしました。

レンガを積んでるのではなく、大聖堂を作っていると捉えることで、モチベーションやパフォーマンスにも違いが現れます。

今日は私自身の体験についてお伝えします。

売上立て直しを期待され名古屋の式場へ

私が新卒で入った会社は結婚式を運営する会社でした。当時入社9年目かつ管理職歴4年目だった私は、名古屋の星ヶ丘にある式場へ責任者(支配人)として異動になりました。

移動先の式場は名古屋エリアでは老舗の会場でしたが、結婚式場は一般的に新しい会場の方が建物が綺麗で人気が出やすいので、当時は大苦戦を強いられていました。会社からはその売上の立て直しを期待されて私はその式場に赴任することになったのです。

ところが異動して早速問題が起きます。
責任者なのに、めちゃくちゃ部下に嫌われるという失態を犯したのです。

嫌われて孤立する私

元々その式場の前任者は、従業員と仲が良く、チームの雰囲気はかなりのアットホームで良好でした。

だけど、売り上げが下がっているのは一目瞭然。よそから来た異邦人の私にとっては、やり方が古かったり、商品やサービスがアップデートされてなかったりと、幾つも変えるべき点が目に止まります。

自分たちが馴染みのあるやり方によそから来たばかりの私が横槍を入れるのは、スタッフとしても愉快ではなかったでしょう。

私なりに、できるだけ不快にならないような指摘の仕方をしたつもりでしたが、少し焦り過ぎていたのかもしれません。私はまだスタッフと率直に改善点を言い合える関係性になれてはいなかったのです。

そして、私が前にいた会場と仕事の進め方が違うことが、スタッフと決定的な亀裂を生みました。

ナンバー2と揉める

当時、支配人の私の下には"チーフ"と呼ばれる会場のナンバー2がいました。

チーフは、結婚式に訪れたカップルに会場を見せ、気に入ってもらって結婚式を挙げてもらう契約を獲る、新規営業の責任者です。

支配人とチーフが協力して、式場は成長します。この2人は、式場経営の一番大事なキーマンといっても過言ではありません。

しかし、しばらくして、私はこのチーフと驚くほどに関係が悪くなります。原因はカップルが式場探しに使う最も有名なゼクシィnetというWEBサイトの更新がきっかけでした。

タスクを押し付け合う

私の元いた会場では、集客に関する仕事は全てチーフの管理下だったので、私はゼクシィnetに関してはチーフであるHさんの仕事と思い込んでいました。

ところがこの会場では前任の支配人が直接管理していた経緯があり、Hさんからすると、サイトの更新は支配人である私の管轄。Hさんは全くサイトを更新しない私を見て不安に感じていたそうです。

サイトの更新は結婚式場の命と言える集客に関わる非常に生命線な業務と認識しつつも、二人とも一度もやったことがない業務だったので、できれば避けたいという気持ちがあったのだと思います。

今思えばどっちがやってもいい仕事なのですが、この頃にはお互いに不信感たっぷりな関係で、相手に対するリスペクトもさらさら持ち合わせていなかったので、「相手のいうことを聞いたら負け」という気持ちと「これ以上業務を増やしたくない」という気持ちから、全力で押し付け合いを始めることになります。

結局、どっちが責任者かを決めるべきだという結論になり、最終的には「他の会場では大体チーフがやっているから」という理由で、嫌がる彼女の意見を退け責任者の私の権限で、「サイトの更新はチーフの仕事」ということに決めました。

Hさんの成長のため、とポジティブに思っていた部分もあるのですが、そんなことをHさんにしっかり伝えたわけではありません。納得いくような話し合いの場や、その仕事をやる意義に対して説明責任を果たしたかというと、答えはNOです。

Hさんからするとポジションパワーを使って無理やりやらされたという感覚が強かったのではないかと思います。

強まるアウェイ感

これがきっかけで、私はHさんから完全に嫌われることになります。そしてHさんと仲がいいMさんも、私と完全に敵対するようになります。

このHさんとMさんは、どちらも人望があり、チームへの影響力は絶大で、この2人に嫌われた私は、結果チームでの居場所を失います。

面従腹背。この言葉の意味を私は体験で痛いほど知ることになります。HさんとMさん以外のスタッフは、私の指示は表面上聞いてはくれますが、完全に目は死んでいます。

HさんやMさんの視線を気にして、波風を立てないよう気配を無にするスタッフも現れました。あまり目立って巻き込まれたくないのでしょう。結婚式場に、隠密忍者がどんどん増えていきます。

HさんやMさんには時に表立って激しく抵抗や反発も受けました。みんなの前で噛みつかれる責任者って…。と自分で自分にツッコミます。不安そうに遠巻きに見守る隠密達…。家臣に突き上げられるバカ殿…。とても居心地が良くない状況でした。

こんな状態では、一向改革は進まない。一人でできる改革には限界がありました。

やはりこのままではまずいということで、私はついにHさんを呼び出し、支配人生命をかけて、サシで話をすることにしました。

直接対決に臨む

正直にいうと、私はこの時Hさんに対してものすごく腹が立っていました。最初は1on1で呼びつけて、Hさんの至らない部分や、間違ってる部分を論理的に説明して反省させてやろうと思っていました。

正直いうと上司という立場をフルに利用して、「言葉でフルボッコ」くらい思っていたかもしれません。

一方で、今の関係性のまま、どれだけ正論をぶつけたとしてもHさんの理解が得られそうにないこともうっすらわかってはいました。

冷静になるために何度も深呼吸を繰り返したのを覚えています。とても悩みましたが、最終的に私の話は一旦脇に置いて、まずはHさんの話を全部聞いてから考えようと心に決めました。

そして「とにかく聞こう」と覚悟が決まった瞬間、どうせ攻撃されるなら、後日に渡って何回も繰り返して聞かされるのが一番しんどいから、この一回で全部聞きだそうという気持ちになりました。

「仕留めるなら一撃で仕留めてくれ!!」という心境ですね。

向こうが言ってくることに一切反論せず、むしろ欲しがってやる、くらいの気持ちで臨みました。

VS Hさん 開戦

Hさんと打ち合わせサロンの一番端の席に一対一で座ります。
Hさんのターンです。彼女に手加減も手心もありませんでした。

いかに私がメンバーの求める仕事ができていないか、私の対応や態度が前任者に比べメンバーの心に届いていないか、私が来る前のチームが素晴らしく、私がきた後のチームがバラバラになっているか、私のせいでどんなにHさんやMさんが迷惑しているか、など、あらゆる方面から私の心を抉る言葉が浴びせかけられます。

途中、辛くなったり、あまりの言い分に言い返したくなるシーンもありましたが、奇跡的に我慢し、涙目になりながらも、全部聞ききることに徹しました。

当時、私はコーチングとかコミュニケーションの勉強を専門的にしたことはありませんでしたので、なかなかタフな経験でしたが、人間は一通り攻撃し尽くすと、一旦落ち着くということを学べたのがこの時でした。

質問のチカラ

Hさんも一通り吐き出して、一旦、嵐が落ち着いたように見えました。いよいよ私のターンです。そしてその時口をついて出たのが、奇跡的に反論や攻撃ではなく、質問だったのです。意識したわけではなく、勝手に口をついて出てきてくれたのです。

「…じゃあHさんはどうしたいの?」

この質問をきっかけに1on1の流れがガラッと変わっていきました。
Hさんの口から意外な言葉が出てきます。

「新規営業である自分が、自信を持ってプレゼンできる会場にしたい」
「値段がやすいだけで選ばれる式場にしたくない」
「同じエリアの自社会場に負けるのが悔しくて仕方がない」
「どこよりも素敵な結婚式を作って新郎新婦やゲストを最高の笑顔にしたい…」

熱っぽく語るHさんの話を聞いてるうちにあることに気づきます。
(…あれ?言ってること、自分と同じじゃん?)

その時に私は初めて気づくのです。
Hさんと私の目的地は同じだったんだ、と。

ホシガオカノキセキ

一通りどうしたいかをHさんに聞いた後に、嬉しくなったのを覚えています。Hさんの「こんな会場にしたい」という情熱を初めて聞いたからです。

異動して来て4ヶ月立っていました。私はHさんに「どうしたい?」と一度も聞いたことがありませんでした。

Hさんだって現状維持を望んでいたわけではなかったのです。彼女も何かを変えたいと、自分なりに必死にもがいて考え、行動した結果、会場をよくするために私と対立したのです。

そのことに気づいた私は、もしかして私自身の苦しい状況に、一番気持ち的に近いのは、Hさんなんじゃないかと思えたのです。

Hさんの「こうしたい」を聞きながら、私も私なりに考えていた「こうしたい」をHさんに伝えました。話してるうちに、二人のビジョンや課題、アイデアの中に共通点が見つかり出します。

最終的にこの面談はめちゃくちゃ盛り上がり、終わった後はお互いに


「…え、なんで仲悪かったん???」


と思えるような時間になりました。

不良が殴り合った後、全てが溶けあってマブになる、みたいな展開よろしく、私たちも誤解が解けてむちゃくちゃ仲が良くなりました。こんなマンガ的展開を体験したのは、後にも先にもこの時だけかもしれません。
(ちなみにこの話は13年前のお話ですが、Hさんとは今でも家族ぐるみで付き合いがあります。)

話終わって外に出ると、周りはすっかり真っ暗でしたが、星ヶ丘の空にはキレイな星が瞬いていました。

改革のファンファーレ

この面談を経て、ようやく私は猛省しました。Hさんにこんなに「こうしたい!」があるのであれば、他のスタッフにも密かに秘めた「こうしたい」があるんじゃないか、と。

だったら、スタッフ一人一人の「こうしたい」を教えてもらおうと、私はスタッフと1on1の面談のスケジュールを入れたのです。

このことが後にコモンパーパスの大事さに気づき、このチームを最高のチームと変えるきっかけとなりました。

長くなりましたので、今日はこの辺で。
次回はこのエピソードの続きと、コモンパーパスの効果と作り方について詳しくお伝えします!

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