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キーワードは油脂感!2021年の代替肉開発の行方は?

こんにちは、食品業界で働いているらびです。

世界中で急速に普及しつつある、Plant-based foods (PBF) 。2020年は日本でも、PBF元年なんてメディアでも紹介され、注目されている食品カテゴリのひとつです。

PBFの中でも開発が盛んに行われているのが、代替肉。大豆、エンドウ豆、ひよこ豆などの豆類をタンパク源に、植物性油脂や増粘多糖類などを使用して作られる、お肉を模倣した食品です。

これまで、代替肉をおいしくする為には、以下の3点を良くすることが重要と考えられてきました。

1. 食感(肉のような粒感、繊維感)
2. フレーバー(香りや、味も含めた風味)
3. 栄養値(高たんぱく、低塩など)

そして近年、上記3点の質がある程度高まってくると、新たな課題が・・・

それがタイトルにも上がっている「油脂感(ジューシーさ)」なんです。今回はその油脂感にフォーカスしながら、代替肉の今後の可能性についてまとめていきますので、ぜひ最後までご覧ください。

※ お時間無い方は、目次から「まとめ」だけでもぜひ!

1. 代替肉で重宝されていたココナッツ油、しかし・・・

代替肉の原料では、ココナッツ油が重宝されています。

例えば代替肉メーカーとして初のNASDAQ上場を果たしたBeyond Meat社のBeyond Burgerも、ココナッツ油を使用しております(Beyond Burgerは、エンドウ豆たんぱくを主原料とした代替肉)

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写真:Beyond Meat社ホームページより

 同様に、Impossible Foodsが販売するImpossible Burgerにもココナッツ油が使用されております (Impossible Foods: What are the ingredients? )

代替肉にココナッツ油が使用される大きな理由は、動物性油脂(牛脂など)と性質が似ているからです。

油は「グリセリン」と「脂肪酸」という化合物から構成されています。そして脂肪酸は大きく分けて、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられ、前者は常温で固体・後者は常温で液体が多い、という特徴があります。

飽和脂肪酸が多いもの:バター、ラード、ココナッツ油、パーム油
不飽和脂肪酸が多いもの:キャノーラ油、オリーブ油、大豆油、魚油など

このように、ココナッツ油は植物性にも関わらず、常温で固体になる性質を持っています。この性質が、動物性油脂独特のギトギトした感じの風味・テクスチャーや、大豆ミート同士の結着性を良くしてくれるわけですね。

世界で販売されている代替肉の原材料表記を見てみると、2015-6年間では全体のわずか2%の製品にしかココナッツ油は使われていなかったのですが、2019-2020年比では、全体の11%にまで増えてきており、需要は年々伸びております(Mintel, 2020)。

しかし、ココナッツ油が多く含む飽和脂肪酸は「血中総コレステロール値を上げる」や「無意識に生活していると過剰摂取しやすい」等の理由から、避けたほうが良い、という認識が広まっています(※1)。また、真偽は不明ですが、猿を使役したココナッツの収穫(※2)というニュースが欧米に広まって以来、不買を行うというケースもあります。

そんな事情もあってか、2020年11月Beyond Meat社も従来の80/20ミンス肉(肉80:油20)よりも総脂肪量、飽和脂肪酸量をカットした製品を上市することを発表しましたので、今後代替肉では油脂量を減らす流れになっていくのでは?と予測されています。

※1 あくまで消費者イメージの話で、日本の学術界隈では飽和脂肪酸は無害であり、取り過ぎても少な過ぎてもいけない、という意見が多数となっております。農林水産省も「多過ぎても少な過ぎても健康に悪影響を及ぼす」として、その推奨摂取基準量を公表してます(脂質による健康影響
※2 タイ産ココナツ、不買広がる 「猿使い収穫」欧米で批判(日経新聞)

2. 油も培養?培養油と代替肉のハイブリッド代替肉

昨年話題になった、「フードテック革命」という書籍にて、代替肉の進化を5段階で説明しておりました。

レベル1:肉の代用品・・・豆腐ハンバーグなど肉でない事が明確なもの
レベル2:肉もどき・・・乾燥大豆ミートなど肉の食感を再現したもの。
レベル3:肉に近い喫食体験・・・ベジバーガーなど食感と味を再現したもの。
レベル4:肉と同じ調理〜喫食体験・・・ビヨンド社などが手がける植物性代替肉
レベル5:肉以上の機能性・・・最先端企業が目指す、肉以上の機能性を持つもの

引用:フードテック革命, 田中広隆ら(2020)

代替肉のトッププレーヤーやスタートアップは、レベル5の商品を開発する為に、様々な研究開発を行っております。その中で注目される原料が、培養油脂(Cultivated fat, Cultured fat)です。

Peace of Meat(ベルギー)は動物性の幹細胞を使用して、人工的に油脂を培養する研究開発を行なっています。動物の幹細胞を使用している為、ビーガンとは言えません・・・しかし動物に苦痛を与える必要もなく、畜産より持続可能性は高い為、現状よりベターである生産手法と考えられています。

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写真:代替肉の進化の流れ(MeaTech社HPより引用)

2020年11月、そんな培養油脂技術に目をつけたMeaTechという会社が、Peace of Meat社に€1Mもの投資を決定しました。MeaTech社は、3Dバイオプリンターによる培養肉の研究開発を行なっている会社ですが、Peace of Meat社と共同でハイブリット・ミート(植物性×培養油脂)の開発を行なう事を表明しており、最終的には3Dプリンターによる培養肉の創造を目指しています。すごい世界です・・・。

さて、話を油脂に戻すと、培養油脂は代替肉の「品質」にも大きく寄与します。通常、植物油を使用した代替肉では焼成中に油分が流出してしまいますが、同社が開発した培養油脂は、その性質から油成分の流出を防ぎ、ジューシーな肉汁を残すことができます。

それと同時に、粒と粒を繋ぐ「つなぎ」の役目や、香りや味を付与する役目も担うことができます(同社いわく、大豆やエンドウ豆から作られた代替肉に10〜25%の「培養油脂」を加えるだけで、100%の肉らしさを付与する事が可能)

1つの原料で、油脂、増粘多糖類、香料など、複数の原料が持つ機能を保有しているので、食品開発者にとっては魅力的なんです(なるべく食品ラベルに記載する原料を減らしたい、というのが加工食品における世界的なトレンドなので・・・)

この技術を使った「ハイブリッド代替肉」は、早ければ2022年にはお目にかかれるとの話なので、食品業界に身を置く筆者としては、非常に楽しみです!

まとめ

・大豆やエンドウ豆などから作られる「代替肉」には、動物性油脂と性質が似ているココナッツ油が多く使用されている。
・ココナッツ油のニーズは世界的に増えているものの、健康上・動物愛護の観点から、油脂含有量を減らす動きがある。
・世界では培養油脂(Cultured fat, Cultivated fat)の研究開発が行われており、植物性代替肉と組み合わせた「ハイブリッド・ミート」が早ければ2022年に上市される予定。
・培養油脂は、通常の植物油脂と比べてジューシーさ、香りなどが優れている。
・最終的には、培養肉・培養油脂の技術を融合させた、3Dプリント培養肉が食べれるかもしれない。

培養油脂、今後もぜひ注目してみてください。


おしまい

参考:
Meat-Tech Invests €1M In Belgium’s Peace of Meat as Part of Full Acquisition
Peace of Meat (最終閲覧:2020.1.24)


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