空の雲フーの幸せレシピ 第2話
フーは地上への旅について、もの思いにふけっていました。
すぐそばでは、虹の川学校の仲間の雲たちが、早めの夕食を食べています。
今日も南風のナナさんの料理はすばらしく、みんなが幸せな気分になりました。
フーは、少し離れたところに目をやりました。
すると、学校の外を、見知らぬ雲たちが集団になって、東風に乗って流されているのが見えました。
その中で年上らしい、一番体の大きな雲のかけ声が聞こえてきます。
「ほら、列を乱すんじゃない!前の雲にくっついて離れないようにするんだ!」
それから、こんな声も。
「はやく、はやく。もう暗くなってしまう。明るい内に、もっと遠くまでいく予定だったのに。強い雨雲にふさわしく、早いスピードで進まなくては。東風くん、もっと急いでくれないか?」
灰色の雲たちは、その声に従って、いっしょうけんめい離れないようにしているのが分かります。
東風は、引きつった顔になりながら、スピードをあげました。
フーは、それを見て
(みんな、つらそうだな…)
と思いました。
フーは気を取り直して、自分の楽しい旅を思い浮かべました。
まずフーは、ナナさんが、地上への旅をすすめてくれた時に、最後に言った言葉を思い出してみました。
旅について色々な話をした後、ナナさんはこう言ったのです。
「地上についたら、大きな十字架のある建物を目指すといいわ。」
フーはナナさんに、地上のどこに行ったらいいか、わざわざたずねませんでした。でも質問する前からナナさんは、そのことがよく分かっているようでした。
それでフーは、ナナさんの言うとおり、大きな十字架のついた建物を探そう、と心に決めたのです。
いよいよ地上へ旅立つ日がやってきました。
フーは、胸にバッジをつけました。虹の川学校に入学したてのころ、校長の虹先生からもらった特別なバッジです。
それは、丸い虹の上に十字架が描かれたもので、フーが空の王さまである「つくりぬし」にお会いしたことを記念して、プレゼントされたものでした。
バッジをつけたフーは、とても立派な姿になりました。
学校のみんなは、フーの見送りに来てくれました。
空の授業を教えてくれた太陽先生は、空のかなたから、特別大きな笑顔を送ってくれました。
フーは雲のためのサングラスをかけて、かがやく太陽先生を見上げながら、大きく手をふりました。
仲のいい、クラスメイトの雲のメイちゃんも、フーに向かって手をふっています。
虹先生は、きれいな音楽を奏でてくれました。フーは聴こえてくる虹先生の音楽に合わせて、体を上下に揺らしながらダンスを踊りました。
そして、こんな歌を歌いました。
ぼくの名前は 雲のフー
おいしいものが 大好きさ
おいしいごはんを 食べるとき
力も勇気も 百倍だ!
歌の後、ナナさんがやってきて、暖かい風でフーをふんわりと包みこんで言いました。
「あなたと毎日話せなくなるのは、とってもさみしいわ。」
フーは、急に悲しい気持ちになって、目の奥が熱くなりました。
「ぼくも、ナナさんと会えなくなるのが、さみしいよ…。」
二人は、しばらくそのまま、一緒にさみしさを味わっていました。
少したってから、ナナさんはフーから離れて、大きく深呼吸して言いました。
「フー、ぜひお便りをちょうだいね。そうしてくれたら、とっても嬉しいわ。」
それを聞いて、フーの目は輝きました。
「うん、ナナさん。必ずそうするよ。地上からお便りを送るから、待っていてね!」
それを聞いて、ナナさんはにっこりしました。そして、近くで渦を巻いている北風に気付いて言いました。
「北風さんが、迎えに来てくれたようね。行ってらっしゃい、フー。どうか、旅を楽しんで!」
フーは元気を出して、見送りが終わるのを待っていた北風に、ていねいにあいさつしました。
北風はビュンと音をたてながら、フーの周りを一周しました。
フーは、北風のしっぽにつかまりました。
北風の体は、冷たくゴワゴワしていました。しっぽには小さなカーブがついていて、フーがつかみやすいようになっています。
フーは北風のしっぽに手をかけてから、
「北の空までお願いします」
と言いました。すると北風は、ブルン、と答えてから北の空に進み始めました。
フーは、最後にもう一度みんなに大きく手を振ってから、前を向きました。
北風はスピードを上げました。
次にフーが後ろを振り返ったときには、虹の川学校は米粒のように小さくなり、しまいに見えなくなりました。
つづく
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