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藤田晋社長から学ぶ夢の実現法

成功している起業家には、必ずと言ってよい程大きな夢があります。最初は経営者の個人的なものですが、それが会社の理念やビジョンに反映されることによって組織で働く人々の心の拠り所となっていきます。最終的には、ひとりでは成しえないような大きな成果をもたらします。
本コラムでは現代を生きる、成功している経営者や起業家の方々の夢の描き方と、実現するための方策について考えていきたいと思います。
1回目はサイバーエージェントの藤田晋社長です。インターネット時代の寵児としてマスコミにも度々登場している方です。2015年に幻冬舎から発売された「起業家」から要点をまとめました。

1.強固な夢を抱く

藤田晋社長の原体験は、大学時代のアルバイトで働いていた会社の専務に「すごい会社に入ったやつが偉いんじゃない。すごい会社を創ったやつが偉いんだ」と言われたことです。当時は折からの景気後退によって就職氷河期、真っ只中です。社長も非常に厳しい就職活動を行っていました。大企業に行列して受験するも、大半は落とされ惨めな思いを味わっていたのです。そのような、ぞんざいな扱いを受けてまで就職活動することに違和感を抱いていた藤田社長は、それならば「新しい世代で、新しい大企業を創ろう」と考えるようになったのです。
藤田社長は最初から「すごい会社を創る」ことを目標の中心に据え、当時もっともポテンシャルの高いインターネット市場を選び、モラルが高くて優秀な人材を集めて組織を作っていったのです。
「20世紀、戦後に生まれてあっという間に世界に誇れる日本企業になったソニーやホンダのような会社を、21世紀という新しい時代に新しい世代で創り上げよう」そんな気持ちを込めたビジョンは、優秀な若者を惹きつけ、すさまじいスピードで成果を出したのです。創業2年でマザーズ上場を果たすと、最年少社長として脚光を浴びるようになりました。

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ここからの教訓は、大きく3点あります。まずは「大志を抱くことは成功の第一歩となる」ということです。夢や希望は大きな程、高いリターンが見込めるということです。失礼ながら当時の藤田社長には「21世紀を代表する会社」を創るだけの知識もなければビジネススキルも伴っていなかったでしょう。でも「年収500万円の役員賞与をもらえる会社にする」といった小さな目標を立てたらどうでしょうか?創業者の私利私欲のために力を注いでくれる従業員はいないでしょう。
就職氷河期のなかで伝統的な大企業とは一線を画す「新しい会社」によって、時代を創っていくという大きな夢だからこそ優秀な人々の心を掴むことができたと言えるでしょう。そうした創業者の夢を共有した同志が、夢に向かって努力を惜しまないのは言うまでもありません。
二つめ、「社会情勢に対する憤りや反発をバネにすることが大事」ということです。プラスとマイナスは相反するものです。大きなマイナスは大きなプラスのパワーをもたらします。藤田社長がひと昔前のバブル時代の人間であったら「21世紀を代表する会社を創る」という志を持つことはなかったでしょう。大きな環境変化において生き延びるのは、優秀なものでも強いものでもありません。環境に適応できたものだけが生き残ることができるのです。
自分の心をじっくりと内省して、心の琴線に触れるものは何か捉えなおすことが重要なポイントです。
最後は、「自分の気持ちを前向きに変換させることが同志を巻き込むポイント」ということです。人はみな前向きな姿勢の人や事柄に心を奪われるものです。マイナスの事柄や意識をプラスに変換することで多くの同志を集めることが可能となるのです。
これは藤田社長の人柄とセットになっていることだと思いますが、明るく快活な人の前向きなメッセージは周囲を鼓舞し、積極的でチャレンジングな行動をもたらすということです。

2.現実との大きなギャップ

史上最年少26歳で東証マザーズに上場を果たした藤田社長ですが、夢の実現という点では、道の途上であったようです。
インターネットの世界では収穫逓増ビジネスといって一度損益分岐点を超えてしまえば、それからはコストが増えないため、伸びた売上のほとんど全部が利益になるというビジネスモデルが最も旨味のあるビジネスと言われています。
ところが当時のサイバーエージェントの基幹業務は広告代理店業務で、広告を出したい企業と多くの人々が集う媒体をマッチングさせるという営業会社という位置づけでした。株式市場で多くの資金を得た当社には、株主から大きな期待をされており営業利益率10%を望む声がありました。ところが広告代理事業では、5%がやっとという現状だったのです。
広告代理店業務による手数料ビジネスでは、収穫逓増ビジネスにはなり得ません。本当の意味での21世紀を代表する企業となるにはメディア事業を立ち上げることが必要だったのです。メディア事業とは、たとえばテレビ局でいうところの視聴率と業績の関係をイメージしてください。面白い番組を制作することによって視聴率が高まれば多くの人が番組を見たと考えられ広告収入が増加していきます。新聞も同様に部数が伸びれば、購読料や広告収入が増加していきます。テレビも新聞も損益分岐点以降の変動費は少なく、大きな利益が見込めます。インターネットではページビューです。巨大なページビューを持ったサイトを保有していれば、広告収入やユーザーに対する課金が飛躍的に増加するというわけです。

事業展開が理想とかけ離れている現状に対して藤田社長は、メディア事業を自前で保有することを切望していましたが、経営スタイルとしては創業以来の、任せる経営スタイルでした。優秀ではありましたが藤田社長の念願であるメディア事業を育てることはできていませんでした。

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ここからの教訓は、「ビジネスモデルを熟考する」ということです。この時点では実現していませんが、夢である「21世紀を代表する会社を創る」ために何をすべきかを明確に持つということです。
経営者の大事なミッションに、「多くの従業員を導く指針を策定する」ことがあります。多くの社員は「21世紀を代表する会社を創る」といっても抽象度が高すぎて何をしたら良いのか分からない人が多かったのではないでしょうか?
藤田社長が「自前のメディア事業を育てる」と意思表明したのは、従業員の意識をより具体的に方向付けさせるうえで、とても重要な意味を持つと言えるでしょう。

3.夢を実現するための大転換

2000年代前半に、藤田社長とサイバーエージェント経営の根幹を揺るがす大事件が起こりました。ホリエモン、村上世彰氏といった経済界の話題を独り占めしていた重要人物の逮捕です。
当時M&Aを糧に短期間に高成長していたライブドアの不正会計は、インターネット会社への不信感をもたらし、M&A路線とは一線を画していたサイバーエージェントの経営にも大きな影響を与えました。
そうしたいわば風評被害によって株価は低下し、株主からのプレッシャーが強まっていきました。当時長期的視点で重点的な投資をしていた不採算事業であるメディア事業に対する疑問の声と収益化への強い圧力です。
こうした状況で藤田社長は、不退転の覚悟で「2年でメディア事業を収益化しなければ社長退任」という公約をするのです。
結論から言うと、サイバーエージェントのメディア事業「アメーバ事業」は、藤田社長みずからが先頭に立ち、実務をこなすことで大成功を収めるのです。

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公約を執行しないために(アメーバ事業を成功させるために)、藤田社長は、いくつかの行動変革を起こしました。
その中で最も大きな事柄は、これまでの「任せて育てる」経営スタイルから「実務への具体的関与」への大転換です。それまでの幹部人事は、組織のトップを任せておけるタイプでしたが、指示・命令を完璧にこなしてくれるメンバーとしたのです。社長の考えを100パーセント理解し、同じ目標に突き進んでくれる「満額回答をくれるメンバー」を集めようとしたのです。
アイデアは決して人任せにせず、最後まで藤田社長が全部責任をもって考える姿勢で臨み、ユーザーにとって何が正しいのかという判断を全て独断で決めるようにしました。藤田社長が誰よりも本気でこの事業に取り組んでいたからです。
藤田社長は、現場への直接の指揮系統を持ち、サービスの非常に細かいところまで見ることが日課になっていました。新規のアイデア出しから、コンテンツ、ページ構成、文言、デザイン、レイアウト、UIに至るまで、すべてに関わり、口を出し、自分の確認が必要な体制に変えていったのです。

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ここでの教訓は、経営スタイルの柔軟な変革です。平常時であればサーバントリーダーシップとも言える支援型リーダーシップが有効に機能しますが、会社の存亡をかける一大事にはリーダーは先頭に立って立ち向かうことが必要だということです。そのためには前言撤回、朝令暮改もありだということです。
また藤田社長は、この時点でアメブロ(ブログサービス)のヘビーユーザーと記載されています。経営者自身がひとりのユーザーとして商品サービスを利用する姿勢はとても大事なことです。そうすることで具体的な実務を担当している社員には分からないニーズを発見することができるからです。社長という大所高所から何が最も重要かを考えることが可能になるのです。

4.教訓まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございます。まとめとして藤田社長、サイバーエージェントの成功事例から大事な教訓を整理したいと思います。

① 心を動かされた原体験や黒歴史からブレない強固な夢を描く
② 夢を実現するための具体的な事業テーマを設定し、信念を貫く
③ 事業を成就させるために、経営者としてどのように関わるかを熟考する

経営理念やビジョン、ミッション等の会社にとっての重要な道標は、経営者自身の夢を起点として熟考することが望まれます。特に創業社長であれば猶更です。創業者イコール企業と同一視して検討することが望まれます。その際にはプラスとマイナスの相反する方向性の中からブレない強固な夢を描くことが第一歩となります。
経営者としては理念やビジョンを策定したら後は高みの見物、とするのではなく、どのような事業展開するのか具体的なイメージを部下メンバーへ抱かせることが重要です。藤田社長の事例では「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンでしたが、それだけでは自由度が高すぎて部下メンバーは具体的なアクションを起こすことは困難です。夢の実現がWhyであるならば、事業テーマ(ドメインといってもいいでしょう)はWhatです。我々は目的(夢)実現のために〇〇(事業ドメイン)を行うというところまで規定することが求められます。特に環境変化が激しい異常事態においては経営者自身が事業ドメインを明確に規定することが求められます。最後の学びは、人任せにせずに先頭をきって行動することです。言葉や文章はきれいに伝えることはできても、熱意や本気度を伝えるには充分ではありません。最後は一心不乱に頑張っている背中を見せて士気をあげることが求められると考えます。

いかがでしたでしょうか、原文にあるストーリーを壊さないように気をつけて文章を書いたつもりですが、不適切な意訳もあったかもしれません。経営者や起業家を目指す方の心のサプリメントとしても、とても有効な書籍ですので、是非原書をお読みすることをお勧めします。

以上

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