シームレスな現実感を形作った新しいポケモン ――ポケモンSV感想その1
こんばんは、飛び亀です。
本年もお世話になりました。あるいは、今年もよろしくお願いします。
さて、11月の発売後から3週間くらいかけて、ポケモンスカーレットをやりこんでいました。毎回どっぷりです。
(その後、この年末まではいくらか別のゲームも遊んでいたのですが、それはまた別の記事で……)
しかし今回の「3週間どっぷり」は、ランクマに向けたポケモン育成でもなく、金策学校最強大会やレイドでもなく、紛うことなく冒険とポケモン探しに費やされてきました。そう、なんとシナリオクリアにほぼ3週間をかけたのです。
そういうわけで感想はごまんとあるのですが、多くの人が既にその楽しさ(あるいは不便さ)を語っています。実際、結論は楽しい!に尽きますよ。
オープンワールドとポケモンの噛み合いの良さ。どこまでも続く冒険・探検。相棒ポケモンたち、そしてたくさんのポケモントレーナーたちとの出会い。もしまだ遊んでいない人は、今すぐ遊んでくださいね!
で、なんとなく。ひとと同じような感想をこれ以上書き連ねるのもオシャレじゃないと思ってしまいました。だから今回は、以下2つの気付きを共有します。
レジェンズと似て非なる完全新作
パルデア地方の誇る「学校」――「オレンジアカデミー/グレープアカデミー」についての考察
長くなりそうなので、この記事では1つ目のレジェンズとの比較だけを書くよ。
レジェンズは緊張感のある「モードレス」な作品
特殊な作品だった前作「ポケモンレジェンズ アルセウス」について、以前書いた感想記事がこちら。
今思い出しても、レジェンズはめちゃくちゃ楽しいゲームでした。本来ポケモンで体験したかったものが形になった。そういう作品です。ただ、いつもの「ポケモン本編」とは明らかに毛色が異なるゲームでもあります。(本家ゲームフリーク制作の作品だからこそ、より異色に見えます)
一方のポケモンSVは初の「オープンワールド」を取り入れつつも、剣盾までのポケモン本編の流れを確実に汲んだ完璧にいつものRPGポケモンです。特にシリーズファンにとっては、「いつも通り」に安心と信頼を感じるつくりになっていると思います。(いつも通りに見えるからこそ、微妙にいつもより使いづらい、動きの悪い部分が目立つのですが)
レジェンズとSVの違いとして挙げられるのは、まず作品そのものの世界観・雰囲気でしょう。
レジェンズは過去のポケモン世界――まだポケモンが人間を襲う時代を舞台とした作品です。ポケモンとトレーナーの立場が確立されておらず、ポケモンバトルも2回行動あり、一対多ありで野生的です。そもそもウェイトが大きいのは人間vsポケモンの戦いです。
一方、SVはいつものポケモンであり、人間はポケモンをモンスターボールに入れ、トレーナー同士の戦いも野生ポケモンとの戦いもルールに則って行われます。ただ唯一、テラレイドバトルは非常に変則的です。こちらの操作上はいつものバトルなのですが、行動順について素早さの関与率が下がり、リアルタイム要素が強まっています。非常に危険なテラスタルポケモンとの戦いであるためか、ここに少しだけレジェンズっぽさがあるなぁと感じます。
ただ、やっぱりレジェンズで表現されているポケモンとの息詰まる命のやり取りには及びません。SVテラレイドはどちらかというと「制限時間との戦い」になりますし、何よりレジェンズは人間vsポケモンをアクションゲームとして描いたのが大きいです。
とはいえ、「レジェンズはアクションゲーム、SVはロープレ」などと単純なジャンルの違いで語るのは面白くありません。ここで前回記事でも参考にした「モードレス」という概念を登場させましょう。
この記事を読んで、本当に感銘を受けました。
レジェンズがアクションゲームだと感じられるのは、ポケモンの攻撃を横っ飛びで避けつつ、狙ってボールを投げつけるゲームだから?
本当にそれだけでしょうか?
実は、もう一点あったのです。
ポケモン捕獲のときのボール選び、戦闘用アイテム選び、そしてポケモン入れ替えすらメニュー画面を開くことなく、戦いのさなかにボタン操作で行える。これがモードレスというらしいです。
恐ろしいポケモンという生き物から、背中を向けず目を背けず対峙する。ジリジリと距離を取りつつ、後手で道具袋をまさぐり、ボールを取り出す。
ただメニュー画面を開かせないというだけでこの緊張感を表現する。これは、いつものポケモンには存在しなかったものでした。
正直このモードレスUIは非常に快適だったので、ぜひSVにも採用してほしいものでした。しかし先述の世界観の違いを考慮すると、おおよそいつものUIに戻ったのも頷けます。ポケモンSVではヒリヒリとした命の取り合いを表現する必要がないのです。ルールに則ったポケモンバトルが行われている世界であることを、きっちりとしたコマンド入力モードが表しているのです。
SVは現実感のある「シームレス」な作品
ただしポケモンSVには、レジェンズを超えるシームレスさがあります。
レジェンズとSVの違いとしては、世界観以外にも「オープンワールド」か否かという点が挙げられます。ポケモンSVを遊んで思ったのは、「オープンワールドって極限までシームレスにしたゲームのことなんだな」ということでした。
そもそもオープンワールドの定義って難しくて、僕個人は「あそこに見える山に登れる」「海を渡ってあそこに行ける」「さっき冒険してきた丘が遠くに見える」みたいな広い空間と自由度の高い移動性をもったゲームのことだと思っていました。つまり、とにかく冒険感の強いゲームです。
その点、レジェンズも非常にオープンワールドに近いつくりだと思うのですが、マップが複数に分かれていてステージセレクト画面を挟むために、ちょっと当てはまらないようです。箱庭っていうのかな。
しかし、このセレクト画面を挟む挟まないによってレジェンズとSVの冒険感に大きな違いを生んでいるかといえば、僕はノーだと思います。この違いはレベルデザインと技術面の要請によるものであって、本来表現したい冒険感に大きな差があるとは思えません。
とはいえ、ポケモンSVは公式にオープンワールドを謳った初のポケモン作品です。ロードを挟むのはテーブルシティのみであり、ほか全ての屋外フィールドは目に見える範囲すべて一直線に向かうことができます。屋外に物理的な境界や区切りは存在せず、現実世界と同様に途切れることなく世界の端まで繋がっています。フィールド全体がシームレスな空間なのです。
そしてSVの特徴は、空間のシームレスさだけではありません。レジェンズにもなかった表現として、「ゲーム内時間すらシームレス」というのが挙げられます。
レジェンズも時間的なシームレスさを感じられるゲームではありました。それは先述したモードレスさのおかげです。メニュー画面を開くことなく戦い、そのまま移動する。これによってゲームが止まることなく動き続ける=ゲーム内時間が動き続ける形になっていました。
ところが、SVは移動←→バトル←→メニューとモード切り替えこそ頻繁でありながら、ゲーム内時間はシームレスであり続ける仕様なのです。具体的には「戦闘中も周りのポケモンが動き回るし太陽が動く」「メニュー操作中さえも周りのポケモンが動き回るし太陽が動く」「屋内でもゲーム内時間が止まらない」。
太陽の動き(昼夜)に関しては、かつてのポケモンが現実時間連動していたことを考えると珍しくもないかもしれません。が、メニュー画面の後ろで(ついでにNPC会話中ですら)周りの野生ポケモンが動き回っている。このシームレスさは他ゲーでもなかなか見たことがなく、驚きでした。
レジェンズはアクション要素がある以上、レベルデザインとしてポーズ機能(プレイヤーによるゲーム内時間のストップ)が必要だったと思います。しかしターン制RPGであるSVの場合、戦闘になってもプレイヤーが操作しなければ敵も攻撃しません。つまり、プレイヤー側にポーズ機能を渡さなくても難易度的には成り立つのです。(戦闘を避けづらくなるぶん、ピッピ人形は大量配布されます)
空間的にも時間的にもシームレスなポケモンSV。「ああ、これがオープンワールドなんだな」と感じました。オープンワールドの目指すところは、現実感のある体験なのだと思います。だから、空間だけでなく時間的な現実感も表現する。
その点では、明白にレジェンズとの違いがありますね。レジェンズの緊張感は「ポケモンが身近にいる現実」とはまた少し違うのかもしれません。
いや……
僕はあの緊張感もポケモンのリアリティだと思って前回の記事を書いたのですが、SVくらいの平和さの方が公式的にもいいのかも?
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