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そのテンポ感はどこから?Pokémon LEGENDS アルセウスから学ぶ「モードレス」なゲームUI

みなさん、「Pokémon LEGENDS アルセウス」プレイしてますか?

私は今作を楽しみにするあまり発売日当日に有給をとり、食事・入浴・就寝以外のすべての時間を費やして丸2日でシナリオをクリアしました。その後もゆるゆるとポケモンを集める日々を送っています。つまりめちゃくちゃハマってます。

今日はそんなアルセウスについて、「UIデザイン」の観点からお話を広げていこうと思います。

たまにはUIデザイナーっぽい記事も書こうかと……。あ、普段はゲーム会社でUIデザイナーをやってます。よろしくお願いします。


アルセウスめっちゃ快適やん

さて、シリーズ初のアクションRPGである今作。これまでのタイトルとは一線を画す操作感や、そこから生み出される快適かつ爽快なプレイ体験に驚かれた方も多いのではないでしょうか?

自分自身、剣盾(ポケットモンスターソード・シールド)で初めてがっつりポケモンシリーズを遊び始めた新参ではありますが、2年前発売のタイトルであるこの剣盾から比較しても、またアクションRPGになったということを考慮しても、非常に大きな変化を遂げていると感じました。

中でもひときわ感心したのは戦闘まわりのテンポ感。コマンドバトルであるという根っこの部分は変わらないのに、従来のタイトルのそれとは一線を画すものがあります。

このテンポ感を実現している要因のひとつに、戦闘周りのシステムが軒並み「モードレス」になったことが挙げられるでしょう。


モードレスって何?

モードレスというのはその名の通り「モードがないこと」で、UIデザインの世界でよく使われる概念です。反対に、モードがあることを「モーダル」と呼びます。

モードというのは簡単に言うと「与えられた操作以外何も出来ない状態」のこと。いくつか例を出して、モーダルとモードレスを比較してみます。


例:アイテムを入手したときの通知

A:『はい』を押さないと何も出来ないポップアップ通知
B:プレイヤーの手を止めることがないリアルタイム通知

Aは「通知モード」に入っていて、それを確認するまで他のことが出来ません。Bはその「通知モード」がそもそもない状態といえます。ということで、Aがモーダル、Bがモードレスとなります。


例:武器を強化する画面

A:「強化」メニューから強化モードに入り、「武器」を選択する
B:一覧画面から「武器」を自由に閲覧・選択し、「強化」する

Aの例では、武器一覧画面を表示したときにはユーザーは「強化モード」に入っており、強化用の武器の選択しか出来ることがありません。Bはその「強化モード」自体がありませんね。こちらの例でも、Aがモーダル、Bがモードレスとなります。


何かを操作する流れの場合、一般的に「やること(動詞)」を先に選択するとモーダルに、「対象(名詞)」を先に選択するとモードレスなUIに出来るとされています。それぞれをタスクベースUI、オブジェクトベースUIと呼んだりもします。

モードレスにすると、プレイヤーが自由な手順でやりたいことが出来るようになるわけです。


シームレスとは違うの?

ゲームの世界では「シームレス」という言葉もよく使われますよね。こちらは多くのゲーマーに浸透している言葉かと思います。

シームレスの語源は「継ぎ目や縫い目がないこと」。ゲームで言うと、「画面の切り替わりがないこと」または「画面の切り替わりが限りなくスムーズであること」といったところでしょうか。

フィールド画面と戦闘画面の行き来に断絶がない時や、フィールドがエリアごとに分断されてない(≒ロードを挟まない)時などに使われる言葉です。

アルセウスの戦闘は、シームレスでありながらモードレスでもあると言えるでしょう。


従来のポケモンの戦闘は「モード」の連続

さて、モードの説明が落ち着いたところでポケモンの話に戻ります。従来のポケモンの戦闘の流れは、言うなればモードの連続でした。

従来の戦闘の流れ

上記のそれぞれがモードで、全てが地続きに繋がっています。一度戦闘に入ったプレイヤーは、「逃げる」を選択しない限りはこの一連のモードから離脱することが出来ません。この間、プレイヤーはずっと特定のモードに拘束されていると言えます。

ただ、この流れに関して違和感を覚えていた人はかなり少ないのではないでしょうか?「ポケモンとは/コマンドバトルとはそういうものだ」という認識が出来上がっている、つまりはその状態に慣れている場合、それを疑問に思うのは難しいです。


アルセウスの「モードレス」ポイント

今作では、この一連の流れが根本から大きく変わりました。一部のモードが撤廃されたり、戦闘という大きなモードから外されたりしています。ひとつずつ見ていきましょう。


ポケモンの捕獲

これまでは戦闘モード中にしか出来なかった「捕獲」という行動が、戦闘モード外でも出来るようになりました。

従来は「戦闘モードで相手を弱らせて捕獲する」というのがセオリーでしたが、レベル差が大きい場合は弱らせることなく捕まえられることもしばしば。確かにその場合、わざわざ戦闘する必要はありません。

またこのフィールド上の捕獲行動では、「ボールを投げたあと捕まえられたかどうか見守る」という演出をいちいち見る必要がなくなりました。ボールを投げた直後からすぐに次の行動がとれます。これはめちゃくちゃモードレスです。

フィールド上で捕獲ができるように


経験値取得とレベルアップ

従来は経験値をいくら取得したか、その結果どのポケモンのレベルが上がったか、というのを順を追って見せられていました。複数のポケモンがレベルアップした時にはその全てについてテキストが流れるため、多くのプレイヤーはとにかくボタンを連打していたのではないでしょうか?

しかし今作は画面端に通知が出るだけで、その間も自由に動きまわれるようになりました。プレイヤーはその通知の表示が終わるまで待つ必要も、テキストを送る必要もありません。これもシンプルにモードレスへの変化と言えるでしょう。

経験値・レベルアップの通知がモードレスに


技覚えと進化

ここもすごく思い切りましたよね。完全に戦闘モードから独立しました。戦闘後はレベルアップ通知と一緒に「+新しい技(を取得可能)」「進化可能」と通知されるのみで、実際にそれらを実行するタイミングは100%プレイヤーに委ねられています。

確かに、元からどちらも「後回し」が可能なシステムでした。剣盾からの「技覚え」はいつでも入れ替えが効くようになっていましたし、「進化」に関しては初代からキャンセルが出来ました。そう、元からある程度のタイミングはプレイヤー側で決められたわけです。ならば、戦闘後に必ずしもそのモードにしなくともそれほど大きな問題はありません。

また、「進化」と「技覚え」を戦闘モードから独立させたおかげで、それと直接的な関係のある「レベルアップ通知」もモードレスに済むようになったと言えます。

進化と技覚えはポーチから好きなタイミングで
技覚えでは入れ替えも自由


トータルでどれだけ変わったか

最近のタイトルでは、戦闘や捕獲で得た経験値はパーティ全員に入ります。例えば先頭に強いポケモンを配置し、控えの低レベルポケモンに多くの経験値を吸わせるパワーレベリングだってよくやりがち。

しかしそうすると、複数のポケモン達が一気にレベルアップし、進化し、各々がいくつもの技を覚えようとする状況が発生してしまうわけです。従来のシステムだと、それら全てを確認しきるまで戦闘モードから解放されません。剣盾の図鑑埋め中の私もよく「流石にダルすぎん?」と思ったものです。


しかしアルセウスの戦闘モードでプレイヤーがやることは、戦闘と、戦闘を経る必要がある捕獲のみです。進化を毎回見守る必要も、覚えた技を絶対にひとつひとつ確認する必要もありません。そりゃテンポも良くなります。

アルセウスの戦闘の流れ


また多くの要素がモードレスになったことで、ゲームの没入感そのものも圧倒的に増しています。システム的な「待ち」が排除された上で、「何を」「いつやるか」が全て自分の裁量で決められるので、プレイヤーは今までのポケモンに比べて何倍も「自由」です

遠くにいる野生のポケモンにボールを投げながら、
自分のポケモンに鉱石を採取してもらいつつ、
ウォーグルを呼び出して空を飛ぶ……。

自由度が高ければ高いほどプレイヤーは主人公に自己を投影させられますから、”自分自身がポケモンと一緒にこの世界を旅している”という体験の濃さが従来のそれに比べて段違いです。このプレイ体験には素直に感動しましたし、私と同じような感想を抱いた人も多いのではないでしょうか。


モードレスに振り切れた理由

今までのポケモンの戦闘周りが非常にモーダルな作りだったのは、昔から続くコマンドバトルゲームの文脈から脱却できていなかったからかなと思います。

一番最初のポケモンはゲームボーイ。表現できることがとにかく限られていて、ネットの普及もこれからという時代です。UIという言葉すら浸透しておらず、使い勝手を良くしようという意識だって希薄だったはず。そんな中で生み出されたゲーム達は、現代のそれと比べると不便で当たり前です。

シリーズや時代を追うごとに着実に進歩し、便利になってきているのは間違いないですが、それでもある程度は過去作の踏襲も必要でしょう。根幹から作り変えようというのはやはり難易度が高いです。


今回その習わしを断ち切れたのは、今までのポケモンになかったアクションRPGという新しいジャンルで、完全にイチからゲームを作ったからに他ならないでしょう。

アクションゲームはテンポ感、そして自由な操作性が命です。既存の人気アクションゲームは絶対にそこを大事にしていますから、それらのお手本に素直に倣った結果、いろんな部分をモードレスに変えられたのだろうなと思います。


==========

ここでひとつ補足ですが、全てのゲームUIをモードレスに出来るか/した方が良いかと言われるとそういうわけでもありません。ゲームで言えば、見せたい演出やゲームバランス、コントローラーの操作性などの兼ね合いから、モーダルにした方が良い場面というのはやはりあります。

普段開発側にいる人間としても、特に「コントローラー操作」というものには頭を悩まされがちです。プレイヤーが自由に操作できるということは、「今その瞬間にできることを増やす」ということでもあるので、必然的に使わせるボタンやコマンドがどんどん増えていくんですよね。使うボタンが多いというのはそれはそれで操作の難しさの一因となりますから、どこまで許容するかという塩梅も難しいです。

もちろんアクションゲームは使うボタンが多いものなので(そうしないと自由に動き回れないので)、操作性を簡易にするためにモーダルにする、という選択肢を取る必要性は薄いと言えます。


今後のポケモンがどうなるか

「モードレスUIへの転換」は、今作が完全新作かつスピンオフのアクションRPGだからこそ実現できたことだとは思います。が、今回とりあげた戦闘周りのシステムに関しては、アクションではない本家シリーズの文脈にもある程度はそのまま適用出来るのではないでしょうか?

通知だけでいい経験値取得やレベルアップはもちろん、技覚えと進化を戦闘モードの外に出すのも出来そう。今から剣盾がそのシステムになることをイメージしても、そこそこ成立しそうな気がします。

捕獲はちょっと難しい気もしますが、剣盾でシンボルエンカウントが採用されていることを考えてみると、そこに直接ボールを投げられるようにすれば一応……出来なくはなさそう?もちろんアクションゲームじゃないので、エイムをあわせる必要のない簡単な操作にする必要はありますね。


ポケモンにハマってる時って、野生のポケモンをとにかく乱獲したり倒し続けたりすることが少なからずあります。そのテンポが圧倒的によくなるだろうことを考えると、ちょっと頑張って実装してみてほしいなぁ。


まとめ

というわけで、「モードレスUI」の観点からアルセウスを分析してみました。

UI全体でいうと、「ミニマップかせめてコンパスくらいは画面に欲しかったな~」とか、「マップ上の目的地表示が複数できたら良かったな~」とか、まあ細かい意見はいろいろ出てくるといえば出てきます。が、初めて開発したアクションRPGとしてはめちゃくちゃ頑張ってるなという印象がやはり一番大きいですね。ベースのゲームシステムの満足度が高いので、他の不満は些細なものです。

ゲームそのものが純粋に面白いですし、ポケモンがリアルに生きている世界で自由に走り回れるのがとにかく楽しい。

もし「Pokémon LEGENDS」というシリーズが続くのだとしたら、そういう細かい部分も更に洗練されていくでしょう。いや、なんならDLCで改善のアップデートが入ったりするかもしれない。上述したような本家へのシステム逆輸入が実現する可能性もある。そうなったら嬉しいなあ。


そんなこんなで、ポケモンシリーズの今後に大きな期待を寄せつつ、今回の記事を締めさせていただきたいと思います。

それではみなさん、良きポケモンライフを!


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