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夢を叶えることが夢だった。 【勝手にリレーエッセイ2023冬 #4】

 こんにちは。「勝手にリレーエッセイ2023冬」グループB第四走者を務めます、潮永三七萌です。

▼第三走者様のエッセイはこちら

「『自分主体の夢』を持ったことがない」という言葉を受け、私の場合はどうだろうと考えてみました。そこから私なりの夢を見つけ、諦めた経験について繋げて書きました。

 エッセイの本文は1728字。1200字までの目安よりもオーバーしてしまいました。
 1200字に収めたかったのですが、わにのこさんのエッセイを読んで「本気で書く」と決めたので、過不足の無いように言葉を研ぎ澄ましたつもりです。

 未熟な部分もあるかと思いますが、これが今の私の精一杯です。


 どうぞお納めください。


 “自分主体の夢”を、私は持ったことがあっただろうか?

 わにのこさんは「被災者としての使命感」と言ったが、私の場合は、周りの大人達の影響で形成した夢を持っていた。



 夢を叶えることが夢だった。


 母は専業主婦だが、父は映像作家・演出家。
 幼馴染の両親はミュージシャン。
 仕事とは、“自分達だけの作品を創ること”。彼らは運と実力と才能に恵まれた稀有な人間達だった。
 彼らが私にとっての大人の代表だった。そのため、私はそれが稀有なことだと知らなかった。

 私にもきっと人生を賭けて打ち込むべき何かがあり、その道において私は一番にならなければいけないし、そうなれる才能があるし、そのために努力を怠らないし、その何かを愛しているはずだ。

 その“何か”とは、勉強→語学→翻訳、と辛うじて具体的にはなってくれたものの、人生を賭けるほど打ち込めはしなかった。それにいちいち絶望していた。「じゃあ私は何のために生きていったらいいのだ」、と。

 大学を卒業した私の新たな“打ち込むべき何か”は、「仕事」になった。

 幸せ過ぎて頭がおかしくなるかと思った、実際おかしかったと思う。
 朝5時半に起きて早くても夜7時まで、私は家にいない。「私は何のために生きていったらいいのか」なんて、悩む必要がない。
 会社に着けば仕事がある。言われた仕事をやれば認められる。

 土日が憂鬱で、ゴールデンウィークなんて泣くほど辛かった。
 一刻も早く私の人生を義務で埋めて欲しい。暇なんかいらない。ずっとずっと仕事だけしていたい。


 そして念願の海外案件を大量に担当することになった。

 夢が叶った。今度こそ私は夢を叶えた。
 これから私はさらに夢を叶えていくんだ。



 おかしい。



 仕事のためなら死んでもいいはずなのに。
 他にやりたいことなど無いから、私の時間なんて全て会社に吸わせておけばいいのに。何で苦しい?
 会社も顧客も満足してくれない。私に何が足りない?
 私なんかが一人で頑張っても、結局誰の役にも立てなかった。
 やっと命を懸けて一つのことに打ち込めたのに、私が空回りしたところで何の成果も出せなかった。

 私の命など一体何のためにある?


 当時、私は夫と付き合っていた。「彼を悲しませてはいけない」という思い一つでこの世に留まれた。ほかに大事なものが無かった。

 上司から「産業医面談を受けてくれ」と言われ、産業医、そして人事と話をした。

「私に営業は向いていませんでした」と言えた瞬間、諦めることが出来た。宣言した自分の夢を。
 自分でやりたいと言った仕事をやめて、人に迷惑をかけて、恥をかくことをやっと許せた。


「英語と化学を活かせる化粧品原料の海外営業は、私の天職です」


 天職とまで言ってしまったもんなあ。今度こそ叶えられる夢を見たはずなのに。

 もしかして、私は夢を見ることが向いていないんじゃないか。



 そして、「夢を叶える」という夢を諦めた。

 全然死ななかった。



 それ以来、私は多分、夢を持っていない。

 夢とは呼んでいないが、理想、希望、目標と、状況に応じて呼んでいるものは結構ある。
 もしかしたらそれを夢と呼んでもいいのかもしれないが、呼ばない。「夢」という言葉の恐ろしさを知っているから。


 夫と、「『こんなはずじゃないのに』って、あんまり言わないようにしたいね」と話したことがある。

 不測の事態は絶対起こる。
 他人は自分の思い通りには動かないし、自分だって自分の思い通りに生きてくれないかもしれないし。人間だけじゃなくて、自然も動物も、いつどうなるか分かったもんじゃない。
 それでも置かれた状況で、何とか幸せだと、いや、もっとハードルを下げて、「まだマシ」だと思えるように生きていきたい。


 結婚が現実的になり、「私だけの人生じゃない」と思ってから、私は幸せになったと思う。
 自分が不幸なままでいいと思えなくなった。「二人の幸せ」を目指すなら、私自身が幸せである必要が出てきた。
 私は一人の時よりも遥かに幸せになった。幸せでいたいと思うようになった。

 私の全ての理想、希望、目標は、私の幸せのため、そして夫婦の幸せのため。
 日々変わる生活の中で、それらも常に形を変えている。



 “夢を叶える”ことだけを目的に孤独に生きる過去の私に、今、言うことがあるなら、


 ここまで生きて、私の人生を繋げてくれてありがとう。


(1728字)



【勝手にリレーエッセイ2023冬“夢”】

おつぎは…

2023年2月6日(月)、グループB第五走者『おにく』さん。

<あとがき>
 やはり良いですね、リレーエッセイ。自分一人では書かないようなものを他の方が引きずり出してくれます。
 今回は下書きの過程で、結局使わなかった文章をたくさんたくさん自分の中から引きずり出しました。

 引きずり出したついでに愛着が湧いた文章から、もう一つ記事を完成させました。


▼「夢」に対する私の大前提


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