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3分恋愛小説 『もうすぐバレンタイン』 #シロクマ文芸部

チョコレートだけが
知っている二人の行く末。
ご賞味あれ。


 三時間目の授業が終わって、先生が教室を出ていくなり、後ろの席の結城ゆうき

「もう無理ー! お腹空きすぎて死ぬ!」

と、机に突っ伏した。結城の長い腕が私の背中に触れそうなほど近くにあってほんの少し鼓動が速くなる。

「そのくらいで死ぬわけないじゃん」
「俺としてはマジなんだってば!」

前後の席になってかれこれ三ヶ月。コイツの言動にも慣れた。


「お菓子持ってるけどいる?」

机の横に引っ掛けた鞄に手を入れながら言えば

「え、いるいる! ほしい!」

結城が嬉しそうに顔を上げる。この笑顔が見たくて、登校途中のコンビニでついお菓子を買ってしまうことが増えた。……ってあれ? 私、こんなに貢ぎ体質だったっけ?

そんな風に自分の行動を思い返してみると、急に素直にお菓子を渡すのが恥ずかしくなってきた。

耳の裏がカッと熱くなるのを悟られないよう私は出来るだけなんてことないように返事をする。


「あげるから、ちょっと顔を下に向けといてくれない?」
「え、なんで?」
「いいから! じゃないとお菓子あげないからね?」

そう説得すると、先ほどまでの机に額を押しつけた体勢に戻ってもらう。

「本当にくれるん? お菓子持った手をあげて『はいあげたー!』とかやめてよ?」
「そんなことしないって。目つぶってて!」

結城に私が見えていないことを確認すると、鞄から小さな包みにくるまれたチョコレートを取り出して、制服の襟首にそっと入れる。

「ぬわっ、こそばい!何したんだよ?!」

首元の違和感にすぐに気づいた結城が慌ててを起こす。その拍子にチョコは襟首から制服の中へと入っていった。

「もう!何?めっちゃこそばいんだけど!」

そうやって慌てれば慌てるほど背中のチョコは奥へ奥へと入り込んでいくらしく、結城は立ち上がってぴょんぴょん跳ねる。

「ふふっ、お腹すいてるって言うからお菓子あげただけじゃん。チョコレートだから早く取り出さないと溶けるよー?」
「もうなんで普通に渡してくれんの?」

ズボンに軽く突っ込んでいたシャツの裾を引き出すと、ころんと落ちるチョコレート。

さすがの私もいたずら心が満たされて、席を立って結城が落としたチョコレートを拾いにいく。

「はい」

今度こそちゃんと渡そうとしゃがんだまま結城を見上げると何やら不満そうに私を睨む。

「チョコいらないの?」

不機嫌そうなその表情に少し怯む。

「……そのチョコ溶けてるからいらん。今度ちゃんとしたチョコ渡してくれるまで受け取らねぇ」
「……へ?」

言葉の真意が読めずどう返事したらいいのかわからない。すると、結城の長い腕が伸びて私の手首を掴む。え?と思った瞬間には結城のネクタイが目の前にあった。

「……だから、バレンタインチョコが欲しいって言ってんの!」

私の手首から手を離すなり、結城は耳元でそう囁く。私の頬に熱が集まるのと同時に始業開始のチャイムが鳴って、結城はぶすっとした表情のまま自分の席につく。

でも、その顔が少しだけ赤らんでいるのを見て私はバレンタインにどんなチョコを作ろうか、どんなチョコなら喜んでくれるだろうか、と思案し始めた。


(20140127)


 執筆に費やす体力がなくて、リメイクした作品なんですが、10年前に書いてることに我ながらびっくりしました👀⚡️かなり修正しましたが、今の年齢だと書けないかもな……と思ってみたり。その年代だからこそ書いたり、沁みたりする作品ってありますよね。

 私はスマホデビューが遅めで、たぶん当時は電車内やバイト先の休憩時間にガラケーのメール欄に打ち込んで、自分のサイトに送る方法をよく使ってました。個人的にはガラケー時代の方がネタがぽんぽん思い浮かんで、何なら目を閉じたままでも書けるのでたまにガラケーが恋しくなるという、心底どうでもいい話。(今の子がスマホで論文書く感じ?わからんけど!)

 「こそばい」は方言だとわかっているのだけれど、しっくり言葉が分からず……いつも書き方に悩むのは会話文の標準語! 特に男性の口調は読み手としては見慣れているのに、いざ自分が書こうとすると、気障にならない程度にその性格を表現するのが難しい~😱というあとがきでした。ちゃんちゃん♪

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