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青年と本に出会い、秋色の花が咲く(心にエッセイ)

ある秋の澄みきった空の下。
おぼつかない英語を、ものともせず……
花屋のレジで仕事をしていた。

~イギリスのロンドン市内
あるデパートの素敵な花屋さん~

花の学校を卒業後、
日本帰国まであと1カ月半という頃。
街を散歩中、たまたま立ち寄った
花屋さんのスタッフと雑談へ。

花を勉強しにイギリスに来たことを伝えたら、
「ここで働いたらどう?」と、さらっと誘われて、
すぐに、店長との面談の約束をセットしてもらった。
そんな、思いがけない出会いから始まった仕事。

名称未設定のデザイン (63)-2

店長は、スキンヘッドで背が高く、
モデルと名乗ってもおかしくない風貌の人。
整った顔立ちで強面だけど、夜道を気遣ってくれたり、
手土産を配ったりと、心優しい。
そして、恋人(man)が、たまに、お店に立ち寄る。
その日も、「ハ~イ!」と、挨拶しながら、
軽い足どりで、お店の中に入って来た。

しばらくして、店長が花の配達から戻ってくると、
二人は駆けよって、頬をよせ、熱いハグ。
早々と仕事を切り上げ、デートへ出かけていった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~
~あのときは、心に自由を感じていた~

すべてとは言いきれないけれど、
特にハグの習慣。
(今現在は、パンデミックで状況は異なると思いますが。)
それは、挨拶のように、
恋人だけでなく、男女問わず、友人、家族、同僚と……。
挨拶以外でも、
出会いと別れ、喜びと悲しみのシーンで、
それは交わされる。
それが、心温まるだけでなく、
心を自由に羽ばたかせる感じがして、好きだった。

日本はどう?
日本も、(ハグの習慣はなくても)
礼儀正しくて、相手に迷惑をかけまいとする配慮があって、
安心して話せることが多い。

でも、ときに、
霧が立ちこめて視界が悪くなることがある。
本音と建前のエクストリーム(極端気象)
のようなものに巻き込まれる。

もっと心を羽ばたかせたい!
気兼ねなく話したい!と思っても……。

初対面ならこのラインまでとか、
暗黙の基準を探ってみたり。

肩書の違いから、
建前をわきまえなくてはと、遠慮してみたり。

手探りの中、まるでジャンケンのように、
口火を切るのはどっちが先とか後とか気にしだして、
あっという間に、
暗雲立ちこめる空気に飲まれてしまう。

そんなとき、心と身体と頭がバラバラになる。
かといって、KY(空気を読まない)をつらぬく
そんな勇気があるかといえば、ない。


でも、ハグ(とか握手)は、
その「口火」の代わりになるように思える。
不思議と、心も身体も軽く自然体になれるから
余計なことを考えなくてすむ。
一瞬で、心がリセットされて、
相手に変な気持ちを抱かせず、
お互いが対等になる感じがしてホッとする。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~

本と芝生

~その日は、天気が良くて心地よかった~

鼻歌でも歌いたい気分♪
そろそろ紅茶休憩でもしたくなる午後の時間……。

ある青年が目の前に現れた。
たぶん、20代半ばくらい、
ブロンドヘアで、ボーダーのシャツにジーンズという
カジュアルな服装で。

そして突然、カウンターの前に、
1冊の本(ブック)を差しだした。

青年「ここに1輪、花を飾ってくれない?」

……。(息が止まる)

青年「彼女にプレゼントするんだ。いいいだろ?」
と、爽やかな笑顔。

【本に花……】
キュン。ときた。

(天の声)
「顔とか、恰好が?」

(心の声)
「う~ん……。それだけじゃ、ない気がする」
「さりげなく、自然体……。
 なんか、心が透き通ってる感じ?
 そこに 愛 のようなものを感じて……」

青年「このピンクの花なんて、どうかな?」

【ピンク……】
とりあえず、満面の笑みを浮かべて
OK!と言ってみたものの

胸のあたりで時を刻む音が、狂いだした。

(心)
「初恋みたいなこれって、なんですか?」
「喜びのときの高揚感にも似た、これって……」

緊張でふるえそうな手で、
1本のバラをカウンターに置き、茎をカットする。

その時、頭の中から声がした。

(天)
「自分よ。落ち着いて!」
「まさか、恋じゃないでしょ?、まさか。」

(心)
「えっ……。分からないんです!
 ただ、ただ、胸のあたりがざわざわして……」

(天)
「きっと……本に花を飾るなんていうロマン
 初めて経験するからでしょ。」
「きっと、新鮮に見えたのね~。」

(心)
「気のせい……ってことですかね。そうか。ふぅ~。」

そして、緊張で硬くなった指先を
無理やり動かしながら、
花の茎にワイヤーをかけていく。

やっと、一人芝居に終止符を打って、
冷静さを装う……。

そして、水を含ませたペーパーで花の茎を覆い、
その上からテープを巻いていく。

なのに、
トク、トク、トク……。トトン、トトン………。
心臓の時の刻み方が激しくなってる。
お酒を飲んでもいないのに、
頬までピンクに……、そんな感覚が。

その時だった……。
誰かの声が、頭の中を通り過ぎた。

~「本に花、たった一輪?」~「それでいいの?」~

だ、だれですか!あなた……

胸の時計のリズムが、
急にゆっくりと速度をおとしていく。
でも、今度は、
頭の方の波長が狂いだしてきた。
なんか、ムズムズする。

(天)
「あなた、何に動揺してるの?」

~「だって、あたりまえでしょ!ハハッ……笑」~

(天)
「一輪なんて、さらっとし過ぎてるでしょ」

そう言われて、急に反発したくなる。

(心)
「あなたは、そう思うんですね。
でも一輪でも、すてきじゃないですか!」

そう跳ね返してみるものの
その声が放つ「あたりまえでしょ」
が、頭の中で、リフレインしてる……。

そうこうするうちに、手元が狂って、
花の茎に巻いたテープがほどけて……
やむなく、もう一回巻き直し。

ブルン。と、頭を軽くゆさぶって
気持ちを切り替えた。

そして、やっと、最後の仕上げ。
本に花を添えて、リボンをかけていく。

と、その瞬間!

~「普通に、花束でよくない?」~

はっ? 

~「ふつうに、はなたばで、いいよね」~

……。

ヒュ~~~ン。(冷) と、微風。
ビュ~~~ン。(冷)(冷)と、中風。
ビュ~~~mm。(冷)(冷)(冷)と、強風。

心の隙間に、冷めたい風が勢いよく吹いてきた。
そして、それは、体中の細胞を氷のように固めていく。

と、突然。
氷がガタガタ動き出し、
体の芯から地響きがきこえてきた。
体中の熱エネルギーがあつまる音。
それが、どんどん頭の方へ昇華していく。
それは、まったく違う次元に向かっていき……
魂の叫びへ!Go!!!

(心)
「いまは、自由に羽ばたきたーい!」
「あの澄んだ大空へ、羽ばたきたいんでーす!!!」

と、その瞬間。
体中のエネルギーが突風となって吹き荒れて、
頭の中のいらない言葉たちが、
粉々に散っていった。

そして、視界が、パーッとひらけていく。
肩の力が一気に抜けて、
ふ~っ、と一息つく。

と、同時に、
一輪の花と本の
プレゼント、完成!!!

ふ~っ。

ため息のあと、
深呼吸をもう一度~
フレッシュな空気を取りこんで、
心にも、ちょっと温かな風が戻ってきた。

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~すてきなプレゼントですね!
あなたのガールフレンド、きっと幸せですよ~


目の前の紳士に向かって、一瞬だけ、
恋人のようにふるまいながら、心躍らせる。

青年は、一輪の花を添えた本を受け取ると、
「サンキュ~!」と、
また、あの笑顔で、片手をあげながら帰っていった。

~それは、あっという間の出会いだった~
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~

その日は、夕方に仕事を終え、
遅番のスタッフに挨拶をして店を出た。

晴れやかな空の下。
頭の中に、後悔のもやもやが漂ってきた。

青年ともっと、いろいろ
ハッピーな会話をしたかった。
彼女のこととか、
なぜ、どんな背景でその本を選んだのとか。
おまけに、本のタイトルすらよくおぼえてない。

あのとき、もっと心を自由に、
会話したかったよ……。

(心)
「思考よ。そろそろ、さよならして、いいですか?」

そして、私は
頭の中に残っていた、もやもやたちを
一気に、消しゴムでかき消した

そして……心を透明にして、秋色のペンを取った

そして……画家になったつもりで

~頭じゅう、お花畑で埋めつくした~

すると
あのときの青年の言葉
そのときの自分の気持ち
あの本に飾られた一輪の花が
またよみがえってくる

頭に描く言葉は
鏡のように心に映しだされ、反射していく

それが、マトモなことら
相手にの心にもマトモなことが

それが、お花畑なら
相手の心にも一面の花が咲きほこる

出会いのときは、いつのまにか過ぎてゆく
それは、すっと
雲の中に消えていってしまうかもしれないよ

だから、もっと、もっと……
ありのまま、心まかせに、なりたいね

ハートと本

そして、私は、オレンジの陽が射す通りを歩きながら、
オックスフォードサーカス駅へと向かった。

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