珠宮フジ子

はたらいて、まなんでうたって、文字を書く // 創作テキスト吐き出し系アカウント

珠宮フジ子

はたらいて、まなんでうたって、文字を書く // 創作テキスト吐き出し系アカウント

最近の記事

合唱曲メモ:明日のノート(作詞:俵万智 作曲:松下耕)

 今年のNコン、高校の部の課題曲である。  最近、所属団の演奏会で、中高いずれかのNコン課題曲をとりあげている。で、今年は高校の部の課題曲をとりあげることになった。  (私自身は今年の演奏会への出演は叶わない予定なのだが)このメモは、自分なりの曲についての解釈、見方をまとめたものである。  当然、所属団とは一切関係ない、私個人の見解であるため、ご留意されたい。 ---   今回、詩の中で目を引くのは、作詞者が自身の短歌を詞に読み込んでいる点だ。(これも本歌取り、と呼ぶのだ

    • #リプライでもらった単語を使って短文を書く 「また明日!、昆布だし」

       かつおだし、すまし汁、鶏肉、小松菜、切り餅。  昆布だし、白味噌仕立て、輪切りの根菜、丸餅。  さあ、意見が合わない。  たかが雑煮、されど雑煮。元旦の食卓のメインを張る椀なのだからこだわりも出る。  まして画面越しに顔を合わせるしかできないのだから、せめて同じ食事を同じときに食べて、食卓を囲んだ気にでもなろうと思った、のだが。 「まさかここでつまずくと思わなかった……おせちは互いに食べないって確認したから油断してた」 「雑煮の種類なんか話題にしないしね、職場で。っていうか

      • #リプライでもらった単語を使って短文を書く 「将月、引越し、雪」

        「うわ、雪やん」  自動ドアが開いて、マサムネの第一声がそれ。確かに、地面がうっすらと白くなっているし、見上げると夜空を背景に白い雪がハラハラと降ってくる。 「八月に雪か、世も末だ」 「うわあ洒落にならん。滑らんかな」 「大丈夫でしょ、ほら」  便所サンダルのままラボを出てきたミハルが、社交ダンスのようなステップを踏んで、軽やかに階段を降りる。薄ら積もった雪にスタンプみたいに足跡がついた。足跡を避けるように、階段をゆっくり降りる。夏だからといって気軽に軽装にもできないのかと思

        • 2023年の振り返り

          今年も書いたり書かなかったり書いたり、歌ったり歌ったり歌ったりしました。 ◎公募、コンテスト関係  ちょくちょく色々出して、いいところまで残ったものもあればそうでないものもありました。書く書かないに波があるので、「出そう!」と決めて書き始めるよりも「出せそう!」で出すことの方が多いせいかもしれない。  もう少し計画的に書ければなあと思います。 ◎思いがけないこと  機会があって、島と琴という姉妹のお話を書き始めました。(カクヨムで読めます)  そのうちの一作、「八百円で人

        合唱曲メモ:明日のノート(作詞:俵万智 作曲:松下耕)

          【試し読み】Tempestoso(合唱曲のモチーフによる「少女礼賛」より)

            いつだっていつまでだって、彼女はうつくしい。  はじめに彼女を見つけたときからそうだった。中学校の入学式、二つ年下の生徒達が同じ制服に身を包んで体育館へ入ってきた。紺色のセーラー服、臙脂色のスカーフ、白いソックス、黒の革靴。葬列のような詰め襟を着た男子生徒の横にあって、白い顔と細い首、華奢な肩が儚く映る少女達。ただそうしてあるだけでも連星の目映さをたたえている少女達の中に一際僕の目を引く絵姿があった。陶器と見まごうような白くきめ細やかな肌の、頬と鼻の頭だけをほんのわずか

          【試し読み】Tempestoso(合唱曲のモチーフによる「少女礼賛」より)

          絵本2冊でブックサンタに参加しました!

          絵本2冊でブックサンタに参加しました!

          合唱曲メモ:混声合唱のための「地球へのバラード」(谷川俊太郎・作詩 三善晃・作曲)

          三善先生と言えば。 真っ先に思い浮かぶのは、具体的な曲よりも「三善アクセント」。(<> ですね。) そのくらい、三善先生の曲ドンピシャ、という世代からは、ずれている。 2013年に三善先生がお亡くなりになってから、十年が経過した。 三善先生の訃報を知ったのは確かメーリングリストに回ってきた練習連絡のメールで、「ピアノのための無窮連祷による 生きる」を歌ったような記憶がある。 三善先生の曲で一番歌ったのは、なんだかんだこの「生きる」な気がする。次点、「嫁ぐ娘に」。 そんなわ

          合唱曲メモ:混声合唱のための「地球へのバラード」(谷川俊太郎・作詩 三善晃・作曲)

          #リプライでもらった単語を使って短文を書く「優しい、砂、魔王、ときめき」

           あさりの酒蒸しが苦手だ。ボンゴレビアンコも、クラムチャウダーも苦手だ。シジミの味噌汁も、蛤の潮汁も嫌いだ。 「共通点なに? 汁物? あ、酒蒸しは違うか」  首を傾げながら、ピンクレッドのリップカラーを塗った唇の間に、貝殻からもぎとった身を放り入れる。箸をねぶるのは行儀が悪いと苦言を呈したくなる。ちうちうと、吸うな、と口に出せないのは心が汚れているからか。くわばらくわばら。  あ、とよく通る声が大きく開いた口から発せられ、周囲の視線を集めながら、綺麗に揃った箸の先がこちらに向

          #リプライでもらった単語を使って短文を書く「優しい、砂、魔王、ときめき」

          #リプライでもらった単語を使って短文を書く「探偵、琴、パイナップル、入道雲」

           空の青と海の青は種類が違うものだと、昔聞いた覚えがある。詳しくは覚えていない。水平線で空と海の境界がひどく曖昧になって、溶け合っている。だったらその違いにどんな意味があろうか。死んだ有孔虫が堆積した砂浜。目が覚めるような白。白骨死体。 「それで、それ以上わたしにどんな御用があって、ここに留まっておられるのですか、探偵さん」  海岸に似合わない朱色の着物に、黒いレースの日傘をさした老女が、歩みを止めてこちらを振り向く。日傘の手元を握る手は、白いレースの手袋で覆われている。手袋

          #リプライでもらった単語を使って短文を書く「探偵、琴、パイナップル、入道雲」

          ポートフォリオ

          自己紹介 筆名:珠宮フジ子 文字書き。掌編〜短編小説を主に書く。色んなものの境界線、欠けた「私」を取り戻すみたいなことがテーマの話をよく書きます。 (ご連絡はメール【fuji.sumiya@gmail.com】かTwitterのDMでお願いします。) 近況:近々通販始めます。 最新:ピアノと死臭 主な作品の公開場所:カクヨム、Pixiv これまで書いたものたち通販実施中の同人誌 合唱曲のモチーフによる「少女礼賛」 あお 代表作 千の魚の見る夢は 海を恐れる少女と海で死ん

          ポートフォリオ

          「松葉のにおいは綺麗」のためのオメガバース設定(ともしかしたら考察みたいなもの)

          【前提のような話】  「松葉のにおいは綺麗」という話を書きました。オメガバースを下敷きにした年の差BL×ロードムービーという話です。  オメガバースものをそれなりに楽しみつつも、「二つの性別がある」ことへの説明に苦しみ、いざ自分で書こうとしたときにそこに手をつけざるを得なくなった、という話。 【オオカミについて】  元々三つの性を持つ哺乳類という扱いになりました。オメガバースの名称等がオオカミをモデルにしていたことと、そもそも書き出しの小路先生の問いかけが執筆のきっかけにな

          「松葉のにおいは綺麗」のためのオメガバース設定(ともしかしたら考察みたいなもの)

          お盆、田舎、原風景

           お盆に「田舎」に帰省したことがない。というのは、祖父母たちが同じ市内に住んでいたからだ。祖父母たちの家、祖父たちは早くに亡くなったのでもっぱら「おばーちゃんの家」、には毎年、盆暮れには遊びに行っていたが、いわゆる「田舎に帰省する」という感覚は薄かった。父が亡くなってから、母方祖母は近くに越してきたし、父方祖母のところには泊まりがけではほとんど行かなくなったので、そのせいもあるかもしれない。  だというのに、不思議と、私の中には「田舎」の原風景めいたものがある。  漁港と漁

          お盆、田舎、原風景

          縁側で線香花火

           御盆の最後の夜には打ち上げ花火が咲くものだと思っていた。 「初めて聞いたわ、そんな風習」 「私も、御盆に白玉団子食べるの、初めてよ」 「団子はスーパーに売っとるぐらい普通やけど」 「花火はコンビニでも売ってるわ」 「それは御盆のために売っとるんちゃうやろ」  そう言い交わす私たちの手元には線香花火がぱちぱちと弾けている。コンビニで買ってきたのではなく、物置の隅にひっそり置かれていたものだった。私が買ったのではないし、何か呆れた表情をしているカナエが買ったのでもなかったから、

          縁側で線香花火

          星を飼う

           子どもの頃、流れ星を飼いたかった。他の家ではみんな飼っているのに、それを許してくれない父を、嫌いだったし恨んでさえいた。私は本を読むのが好きだったし、欠かさず日記を書いていたから、家に流れ星の青白い光があれば、もっと自由に夜を過ごせたのに、父は決してそれを許してくれなかった。母に言っても、仕方がないのよ、と困ったように笑うだけで、弟は、ラジオを聞けばいいじゃないか、と的外れなことを言っていた。  私は諦めきれなくて、いつか流れ星を飼うための準備をしていた。流れ星を飼うには

          ゆるしてあげる。

          大昔の短文のサルベージです。 生徒と老教師(BL風味)  窓の外を見ると、ピンク色の花びらが風に舞っていた。うん、春だね。憎らしいほど、どうしようもないほど、春だね。  机の向かいに座っている先生は、窓に背を向けている。だから、外で散っていく春のことなんかには気付かない。机の上の紙に、視線を走らせている。俺が持ってきて、見てくれるように頼んだもの。俺から先生へのラブレター。  髪と同じで白い口ひげの間に指を潜り込ませて、先生は小さくうなった。ずいぶん悩ましい声だ。 「これは

          ゆるしてあげる。

          アレグロ(仮)

           鐘というよりは女の泣き声に聞こえる。高音に低音にとっちらかりながらも一つの旋律を形作る音の集まりは、荘厳な鐘の音なんぞよりヒステリックな女の喚きの方によく似ている。  自分の鳴らすピアノの音を聞きながらそんなことを考えていると、指先がもつれて、譜面にはない不協和音が鳴った。汗で手のひらも指先もじとりと湿っているのに気が付く。白い鍵盤の上に置いた指を動かせないでいるのに、目の前にあるものと全く違う柔らかさを思い出した。鍵盤と同じように白く、けれど、あたたかく、血の通って盛り上

          アレグロ(仮)