縁側で線香花火

 御盆の最後の夜には打ち上げ花火が咲くものだと思っていた。
「初めて聞いたわ、そんな風習」
「私も、御盆に白玉団子食べるの、初めてよ」
「団子はスーパーに売っとるぐらい普通やけど」
「花火はコンビニでも売ってるわ」
「それは御盆のために売っとるんちゃうやろ」
 そう言い交わす私たちの手元には線香花火がぱちぱちと弾けている。コンビニで買ってきたのではなく、物置の隅にひっそり置かれていたものだった。私が買ったのではないし、何か呆れた表情をしているカナエが買ったのでもなかったから、きっと彼女がこっそり買っておいたのだろう。私たちふたりをいつかの夏に驚かすために。彼女は、そういうのが好きだった。
「だいたい、なんで花火なん」
「それをいうならなぜ団子なの」
「そりゃあ、御霊のタマと掛けてるんやろ、団子は丸いし」
「嘘っぽい」
「いま考えた」
 悪びれもなく言い切るのがおかしくて、くすり、と笑ってしまったのと同時に、線香花火の火球が缶ビールの中に落ちる。飲み切ったつもりだったのに、じゅうと火が消える音がした。肉が燃えるときにもこんな音がするのだろうか。
「じゃあ花火も同じね。打ち上げ花火はまあるく咲くから」
「じゃあって、あからさまに嘘言いなや」
「カナエこそ」
「せめて自分で考えて言い」
 カナエが肩を落としたのと同時に、線香花火の火球が、空になった皿の端に落ちる。あんなにも鮮やかだった橙色は、あっという間に黒ずんだ。
「おいしかったね、白玉団子。意外とビールにも合ったし」
「そうかあ? うちは麦茶のほうがいいわ」
「しっかり飲んでたくせに」
「そりゃあ、献杯はせないかんしな」
「御盆だから?」
「あんたとふたりやからやろ」
「本当にふたりかしら」
「今夜からはそうやろ。もう帰ってしもたんやから」
 主語も目的語も要らなかった。ただ、「そうね」とうなずいて、手元に残った線香花火の持ち手を見る。彼女は、私とカナエの話を聞いて、何を思っているのだろう。どんな顔をしているのだろう。私たちにそれを知る術はない。ただ、空になった皿と、増えていく線香花火の燃え残りが、彼女がさっきまでここにいたことを示している。
 私たちはそう信じている。
 だから、同時に次の線香花火に手を伸ばして、ぶつかり合った指先に、同時に笑ってみせるのだ。