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「松葉のにおいは綺麗」のためのオメガバース設定(ともしかしたら考察みたいなもの)

【前提のような話】
 「松葉のにおいは綺麗」という話を書きました。オメガバースを下敷きにした年の差BL×ロードムービーという話です。
 オメガバースものをそれなりに楽しみつつも、「二つの性別がある」ことへの説明に苦しみ、いざ自分で書こうとしたときにそこに手をつけざるを得なくなった、という話。

【オオカミについて】
 元々三つの性を持つ哺乳類という扱いになりました。オメガバースの名称等がオオカミをモデルにしていたことと、そもそも書き出しの小路先生の問いかけが執筆のきっかけになったせい。
 XX/XYで性決定されている。
 ①性染色体によらず両性の外性器が形成される、②性染色体モザイク等による半陰陽が異常に多い、という二つの要因で、「α/Ωのいずれかにしかならないβ」と「α/Ωの両性になり得るβ」が混在している。
 家畜化される過程で、群社会を保つ必要がなくなり、βを持つ必要がなくなって、イエイヌは二つの性しか持たないことになった。

【ヒトについて】
 二種類の性決定様式を持つ。XX/XY(性染色体)と、常染色体上の性決定遺伝子。身体造形により優位なのはXX/XYで、常染色体上の性決定遺伝子は、性器の発生、フェロモン・ホルモンの分泌と受容器といった限定的な範囲に影響を及ぼす。
 女αと男Ωは両性の生殖器を備えている。ただし、男Ωの膣は肛門とほぼ一体化してしまっていて、外見上はΩ性であると分かりづらい。
 βは①そもそも常染色体上の性決定遺伝子を持たない、②常染色体上の性決定遺伝子は持つが発現しない、の二種類が混在している。②については、発現しない理由の違いによって、全く発現しないものと中途半端に発現しているものが混在している。ので、βを後天的にα/Ωに性転換させられる可能性は、実はある。ちなみに、徐々に①の割合が減って②の割合が増えている。(これもまた進化か退化かという話)
 性染色体で決定される男女性→何らかの要因で性決定遺伝子が常染色体上に(常染色体上に転移する突然変異の積み重ね、ウイルスによる運搬???)→αΩ性の発現→フェロモンによるセックスアピールが成功する環境要因(視覚が頼りにならなくなるなんらかの)→両性の並立
 αもΩも互いをそうと認識するためのフェロモンを分泌しているけれども、基本的に視覚優勢なので「なんかいいにおいがするなー」程度。ヒートフェロモンが例外。
 Ωのヒートは一種の「色情狂」と扱われていて、性別によるものとは思われていなかった。徴兵にともなって起こったいろいろな問題のために詳しく調べられて、αΩ性が発見された。
 初性交に及んだΩのヒートフェロモンはむやみやたらと周囲のαを性的に興奮させることはなくなる。フェロモンの性質が変わるため。ヒート自体は残るため、ヒートを回避しようと思ったら抑制剤が必須。生産人口が増えるので、基本的に抑制剤は歓迎されている、いた。
 αが優秀とされていたのは、ホルモンバランスの関係で、その時代にそぐう性格行動傾向を持ちやすかったから。それがたまたまαという性別と紐付けされたことで、α優遇の社会が構築されたのが近代。第二次世界大戦後の反戦運動、社会運動の流れの中で平等化が叫ばれて、現代においては少なくとも表立ったα優遇はされていない。
 Ωは、富国強兵、人口増加政策をとっているときには優遇と表裏一体の冷遇を受けていたが、抑制剤の開発と普及でこちらも表立っての差別はなくなっている。

【小路先生の共感覚のこと】
 共感覚は知覚しているだけで実際に体験しているわけではない、という話もありますが、小路先生は見えている、という設定かつ描写になりました。それがタイトルの理由。
 Ωのフェロモンを共感覚で認識はできるけれども影響は受けない。そのことによって自分のαΩ性から距離を置いていたけれどもオオカミ研究をすることで関わらざるを得なくなっていった。

【ロードムービーのこと】
 ずっとロードムービーみたいな小説を書いてみたかったけど、旅しながらくっちゃべってるだけになりましたね。出発点は東京で終着点は奈良だけ決めて書き始めました。スマスイが改築されそうです。寂しい。

【ところでこの二人、セックスするの?】
 実は結構道のりは長いんじゃないかと思っている。小路先生は前述の理由で性欲が弱いし、らんちゃんはらんちゃんでなんだかんだ姉とのはじめてがトラウマ。小路先生はいいとしてらんちゃんがどうするかがポイントになりそう。
 結局セックスはせずに死別する道もあり得るだろうなあとは思う。

【今後の展望】
 この二人の話はカクヨムで8月に毎日更新チャレンジして書いてみたりしていました。そっちはちょっと非公開にして手直し中。コンテスト受賞しなかったら、まとめて本にできたらいいですね。
 オメガバース設定の方は、これを活かすなら「女αが産んだ女αの血脈」の話を書かねばならぬなあと思う。思うだけで実現するかは分からない。後は、ジェンダーの話を書くか。少子化に伴って出生率アップを目論んで再度優遇という名の冷遇と差別を受け始めるΩの話とか。

【オメガバースはSF?】
 上記のような生物学的根拠をうじゃうじゃ考えている間は、「オメガバースってSFじゃない?」と思ってました。今でもやっぱりそう思う。少なくとも、男女/αβΩという二つの性の両立を検討するなら、科学的空想を活用せざるを得ないのじゃないかと。そこを突き詰めて創作していけば、自然とジェンダーSFにもなるのだろうなと思う。
 ただ、「松葉のにおいは綺麗」に関しては、年の差BL×ロードムービーを描く舞台装置として何故か私がオメガバースを選択したという感じで……ちょっとSF小説とは言い難いかも、と思っています。

【まとめ】
 「松葉のにおいは綺麗」、こんなこと考えながら頑張って書いたので、読んでください!!

【参考文献】
動物たちのセックスアピール 性的魅力の進化論」マイケル・J・ライアン 著、東郷えりか 訳 河出書房新社
人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」ジャレド・ダイアモンド 著、長谷川寿一 訳 草思社
「進化 分子・個体・生態系」 ニコラス H.バートン, デレク E.G.ブリッグス, ジョナサン A.アイゼン, デイビッド B.ゴールドステイン, ニパム H.パテル 著、宮田隆, 星山大介 監訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル
消えゆくY染色体と男たちの運命 オトコの生物学」黒岩麻里 著 ‎学研メディカル秀潤社 
脳科学辞典」(https://bsd.neuroinf.jp/wiki/)の「フェロモン」関連ページ
「トゲネズミ属」(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/トゲネズミ属)
トクノシマトゲネズミ」(https://jmapps.ne.jp/amagi/det.html?data_id=4891)
The Y chromosome of the Okinawa spiny rat, Tokudaia muenninki, was rescued through fusion with an autosome」(https://link.springer.com/article/10.1007/s10577-011-9268-6)
Flexible adaptation of male germ cells fr」(https://www.science.org/doi/pdf/10.1126/sciadv.1602179)