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12月23日(土):認知症の非薬物療法としてのアート

先般に製薬大手エーザイの認知症薬「レカネマブ」が発売となったことを受けて、この数日はそれに付随したことに触れていますが、その続きをもう少しばかり。

レカネマブは保険適用になったものの、実質的な投与対象者は認知症患者全体の1割未満といわれており、かつ副作用のリスクや通院負担を考慮すると、社会課題となっている認知症に対しては薬物療法だけに頼るのではなく、非薬物療法でのアプローチも不可欠です。

非薬物療法は運動やアート、対話など幾つかの選択肢がありますが、現状でもっとも効果が実証されているのが運動で、昨日は運動が脳にもたらす効用の話で「BDNF(脳由来神経栄養因子)」を中心にして、記憶や認知が向上していくメカニズムに触れました。

年齢を重ねていくとBDNFをはじめ、IGF-1(インスリン様成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)、FGF-2(繊維芽細胞成長因子)の成長因子の生産量も次第に減り、それに伴ってニューロン新生も少なくなります。

でも運動によってこれらを増やすことができるから、運動はやらないよりもやったほうが良いという程度ではなく、やらないと勿体ないというほうが適切な気がしますね。

ただ運動することでBDNFと3つの成長因子の生産量が増えますが、それだけで記憶などが勝手に向上していくわけではありません。

運動とあわせて必要な事柄は新しい経験としての感覚刺激や社会的刺激です。

BDNFは情報を取り込み、処理し、結び付けて、記憶し、つながりをもたせることに寄与しますが、そもそもの取り込むべき情報を欠いていては、記憶されるものも増えてはいきません。

この領域では「環境富化(環境負荷ではない)」との表現が用いられますが学習、運動、社会との接触という環境の刺激に富んだ状況が脳にとっては最適である点が示唆されています。

こうした「環境富化」の手段のひとつに挙げられるものにアートがあります。

例えば対話型の美術鑑賞を通じた国立長寿医療研究センターによる認知症予防、鬱軽減効果の検証では、うつの軽減と単語記憶力の改善兆候といった効果が示されていました。

アートを通じた情報療法は脳の眠っている部分が刺激されて記憶が蘇るきっかけになるなど、現行の薬物療法では手が届かない領域にタッチする可能性が期待されています。

また自らの手を動かして何かをつくるような創作活動では、指先の刺激からBDNFが増えるといった報告も目にしました。

鑑賞すること、創作すること、これらいずれにおいても脳にとって良好な刺激になるのがアートの持つ脳に対する効用のようです。

認知症に対する非薬物療法として、時折りアートに触れたり、何かを創作することは有意義なので日常のなかにそうした機会を盛り込めると良いですね。

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