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理学療法をこんな感じで使ってみた

日常の臨床ではよくある話。定期的に来てくれるクライアントさまには、いつものようなリハビリを処方し、いつものように話をし、時間がきたらリハビリ終了。そんなルーティンになっていること、ありません?
それでも、リハビリに出かけて、話をし帰宅することで、なんらかの健康維持に貢献しているのかもしれません。しかし、理学療法をせっかく学んだのだから、現状維持のためではなく、少しでもよりよい状態になるように、理学療法を使ってみることもありなのかなと思います。とある日の臨床を書いてみます。

脳血管障害の後遺症

発症後数年経つクライアントの話。もう機能改善も無理なのか、残存機能も向上することも…と考えられがち。ディサービスにいって機能を維持する毎日。確実に維持期ではあるので、そう考える方が多いのかもしれません。そんな動作を変えてみる。症例は、脳血管障害による後遺症で日常動作が円滑にできないご高齢の女性。この情報の中に、①脳血管障害、②高齢 と運動機能を低下させるキーワードがある。どちらも運動療法ではどうしようもないファクター。変えようがない項目ですよね。変えれる?問題点 #1高齢。この問題点に対して、アプロ―チしてみても若返りはしない。脳血管障害。脳実質に起きた損傷はどうしようもできない。理学療法士の治療範疇を超えている。では何をターゲットに理学療法を展開するのか。実際に、アプローチしてみると歩行は変化している。本人の能力が変わったのか。寝ているだけで…

徒手療法中に考えていること


弊社外注先のクリニックにてアプローチしてみた。理学療法士は治療ベッド1台を割り当てられ、アプローチを行っている。多少動くことのできるスペースはあるものの、ほぼ徒手によって理学療法サービスを行っている。
実際、こんなことを考えながら30分程度治療してみた。セラピストが何を考えてクライアントの身体を触っているか。書いてみた。

リハビリ室に来室。歩行がぎこちない。「寒くなったから動きにくくて…」今は1月。九州地方、このところ寒い日が続いている。すごく重心が右に寄ったね。麻痺側の活動性落ちてる?本人は長くリハビリに通ってもらっているので、いつも見る動作も見慣れている。比較は割と簡単なことかもしれない。脳血管障害を発症して数年たっているので、器質的に何か大きく変わったことはないだろう。会話も普通通りだし。仰向けに寝てもらった。なぜだが、本日の筆者の思考はチャレンジャー精神旺盛。「仰臥位だけで勝負しよう!」そう決めて入った。このモチベーションに根拠はない。臨床条件を変えることで、マンネリ化したアプローチから脱却することは簡単。セラピストのマンネリ化はクライアントの機能向上を阻害することが往々にしてある。
少々麻痺の残る左下肢を触る。腱反射は亢進してないので、割と触りやすい麻痺側。しかし、屈曲パターンで拘縮が目立つ。実用的な下肢の機能は低下し、うまく推進できていないのか。そのパターンで、筋緊張亢進し、伸張性も低下している。まずはハムストリングスを操作しながら左下肢のアライメントを整えてみる。背側の筋をストレッチしながら、足関節・足部も拘縮も除去。踏み返しができるようになれば、股関節の回旋運動も誘発してみる。
仰臥位でアプローチし始めて、気づいたこと。はじめの歩行で屈曲・左回旋した体幹部分。臥位になってもその運動パターンの筋硬化は明らか。こちらで”仰臥位のままアプローチ”と勝手なルールを決めていたが、治療ベッド上でうまくアプローチすると、身体に対する刺激も前額面上での関節運動を誘導することができる。あとから気づいたとはいえ、良い設定だったかな。
右脚はというと、それなりに負担はかかっているように感じる。こちらもグローバルな筋群からアプローチしてみる。しっかり上行性に各部位を追いかけてみる。一側下肢ずつ変化がでてきたら、それをつなぐ骨盤帯。交互にSLR風に左右の股関節。骨盤帯の動きを誘導してみる。もちろん、股関節と骨盤帯の分離運動の程度は違う。麻痺側は、分離運動には不得手な筋活動となるため、不良運動パターンが定着しやすい。徐々に分離するように誘導していく。普段から治療させていただいているので、セラピスト側は理解しているが、脊柱起立筋群も左右で筋緊張が違う。最近、側弯がひどくなってきているのはこのせいか?左下肢への重心移動がうまくいっていないので、体幹・頚部での立ち直り反応はしにくい。徒手による振動刺激によって、立ち直り反応の出現しやすさは評価できそうだ。揺さぶってみる。やっぱり左へは立ち直らない。仰臥位なので、ベッドとのクリアランスで滑るかどうかの外的な力をかける。うまく揺らすことができれば、脊柱の前額面での分離運動は誘発できる。片麻痺があるせいか、ご高齢のためか。重心は下げたがる傾向にある。静的立位では右側に重心を寄せ、左肩を前方へ回旋するような屈曲・回旋パターンで筋硬化を起こすことは容易に想像がつく。とにかく、揺らす!上行性だけでなく、頚部・肩甲帯からでもとにかく揺らす。腱反射が亢進していないので、できるだけ活動できる筋群には刺激を入れてみる。脊柱を揺らして、アウターユニットの緊張を下げ、インナーにある細かな筋群の筋活動を促した。しかし歩行の中でずっと使ってもらわないと意味がない。脊柱を揺らす…前額面での側方移動…細かく…立ち直り…症例はご高齢、ご自宅では端坐位で足踏みをしましょうとホームエクササイズを提案している。今回は何を提案しようか。代償的に意図してない動作がでるような設定ではだめなので…(悩み)臥位ではほぼ正中位をとれるくらいにまで、刺激を入れる。寝ている感じも緊張がとれいい感じ。「起きてもらってもいいですか?」立てそう。麻痺側へ起き上がることもできる。いつも通り。歩いて立った時にフラっとすることがある。血圧のコントロールがうまくいかないのか、はたまた筋活動が変化したため、制御できないのか。徒手で操作しただけなので、筋肉を使うまでにはタイムラグがある感じはする。身体をコントロールするための筋活動は十分でないので、立ち上がって「フラフラする」といわれる方もいる。クライアント自身が感じているよりも”動きやすく”なっているので、感覚的に”フラフラ”なのかもしれない。もちろん客観的にフラフラであれば介助しよう。今回は大丈夫。「フラッとしませんか?」「だいじょうぶですよ」会話も大丈夫そう。
では、歩いてみます…

https://youtu.be/_d0W_KzTqF8

特にご高齢の方は。日常で偏った筋活動を修正し、これからその動作習得するためのエクササイズを行う。動画でみた歩行もその一つ。明らかに歩容が違う。歩容が違うということは、各部位の筋活動は違う。日常と違う動作を実施することで、違う筋活動が生じ、神経筋再教育になると考えている。でも、身体には“癖”がある。活動しやすい運動パターンは再び誘発され、日常生活を行いながら、”ご自身のやりやすい動作”への戻っていく。修正できる動作が定着して、真に動作改善されるまでには時間を要する。スポーツ選手でもランニングフォームを改造する、投球フォームを変える。これは大変なこと。なので、この症例の場合は、歩行に偏りが見えた現象に対し、徒手的に修正を加え、目的とする動作を続けてもらうことで、なんらかの変化をもたらしたい。そのうちご本人のやりやすい動作習慣=”癖”によって偏りのある動作にあう筋活動・関節運動が定着してしまう。修正した動作が元に戻ってしまう前にアプローチできれば。そう考えると、リハビリにきてもらう周期もおのずと決まってくる。決して、徒手で実施することがマッサージではない、動作を変えることに特化したアプローチです。

動作を維持する



では、それからどうするか。「動きが変わった」ということは、もっと動ける身体であることは間違いない。プラトーではない!
どうやって、変化した動作を維持することができるだろう。
業務委託でお邪魔しているクリニック内ではできていないが、今回の症例を通じて整理したい。なかなか医療保険内でできているところはないのではないだろうか。診療報酬を得るためにシステムはできているが、動作を身に着けるためのシステムはなかなか難しい。
偏った動作を改善する。本症例では徒手で行った。一般の方では、麻痺があるわけでもない。理解力がない場合は、口頭誘導することが困難となるが、まっ、そこはうまくやるべき。もしかしたら徒手で触らずに改善を見込めるかもしれない。
厳密にいうと、「不良な動作」を気づくことができるかどうかにかかっている。不良って?それは目的に反する動作とした方がいいかもしれない。麻痺があるような特別な身体能力によって、細かな調整ができない場合、また運動パターンを変えることができない場合、これらは筋活動を修正することは困難。
クライアント本人に気づかせる工夫も必要かもしれない。例えば、スクワット動作で腰椎の伸展がうまくできない方には、首の後ろ(両肩に)バーを持たせ、肩甲帯を伸展優位の運動にすると、腰椎が伸展しないことを実感できるかもしれない。代償動作を見つける方法は、また別の機会にお伝えできればと思う。
関節運動を細かく整理し考えると、関節の副運動は随意的に動かすことは難しい。徒手による操作を合わせ技で運動パターンの獲得を狙った方がよさそう。徒手でできること。徒手でしかできないこと。なかなか判断が難しいが。

脚を上げる動作での脊柱の動きを比較してみた。
若い男性の背中で、端坐位で足踏み、立位で足踏み、大きく脚を上げて足踏みの3パターン。背部からみても、それぞれの動作で脊柱の動きは違うこと
が明白です。
できれば、徒手で誘発できた目標とする関節運動を運動方向を変えずに繰り返し実施できる方がいいですね。徒手で誘導した関節運動とエクササイズ中に使われる関節運動がリンクします。そのために筋活動が誘発されると思います。https://youtu.be/rYdRVfy2CW4

もしかしたら、杖を使うことで、本来動く脊柱の動きが制限されてしまっているのかもしれません。もちろん転倒リスクを鑑みて判断しないといけませんが。


リハビリで動作習慣をつける


今回アプローチさせて頂いた方は、家でのエクササイズを今も継続してあるとのことだが、みなさん、自分の都合のいいように動くもの。決して怠けているのではないですが。ホームエクササイズの定着はクリニック内でもできることかもしれない。徒手による治療だけで帰ってしまう方が多い中、宿題としてだされた動作訓練を正確に行うことができるようになることもメリットがあるかもしれない。端坐位なら、転倒するリスクは少ない。遠監視でもリスク管理できるだろう。これなら、自主トレスペースさえあれば、運動して帰ることができる。もっと能力を上げたいのであれば、歩行能力は立位で脊柱周囲の刺激を行いたいもの。立って、足踏み。これもまあ遠監視でできないこともないが、通常でない刺激を入れた身体では少し心元ない。でもこの刺激は必要なこと。セラピストがそばに寄り添って、安全管理をしながら動作訓練をしたいもの。スポーツ界ではウォーターバッグなど水の振動を利用してインナーマッスルを刺激する道具が多く存在する。片麻痺、ご高齢。道具を使うにも一工夫必要である。これらの展開には、転倒のリスクを伴う。転倒はあってはならないので、ギリギリのところを攻めるエクササイズを行う際は、セラピストが付きっ切りとなる。マンツーマンで指導しよう!そう考えると、弊社が実施するエクササイズは、①徒手による関節運動、筋活動の誘導 ②自主トレで目標とする関節運動を誘発する ③獲得したい動作訓練 となるかと思います。②③では、クライアントが得意とする“癖”が邪魔して誘発したい関節運動ができない場合があるので、なんとも難しいところ。環境、条件設定に一工夫必要ですね。紹介した症例では、徒手で脊柱のモビリティを上げます。側屈方向へはしっかり!頭部からの立ち直り、股関節の回旋でも脊柱の側屈方向への運動を誘発できるので、周囲のアプローチもお忘れなく。リハビリ室内の歩行。平地ですね。この程度の負荷であれば、脊柱の側屈がうまくでそうです。階段を上ってもらうとどうだろう。1足1段となると前額面では左右非対称の運動になります。そうなると脊柱の側屈はでにくいのかもしれないですね。今回の誘発したい運動には過負荷となりますね。杖のつき方でも操作できますよ。転倒には要注意。自主トレは、端坐位で足踏みとしましょう。脚の上がり具合(knee up)で脊柱の側屈を誘導します。座面が転倒のリスクを低くする補助要因です。麻痺側はどれくらいまで上がるだろう。挙上程度によっては、脊柱への刺激が少なくなると思います。うまく誘導できるではいいですね。クライアントの動きに合わせて設定するといいでしょう。今回は麻痺があるので…立位で足踏みでもいいでしょう。膝を上げずに大腰筋歩行(骨盤を挙上しながら足踏み)するとより脊柱の側屈が出やすいでしょう。より歩行能力を上げるために、前後左右へ歩幅を広げて歩いたり、つぎ足歩行を実施したり。脊柱の側屈を誘発するような歩行を行うのもいいかもしれません。エクササイズとしては、パワーブレイド、乗馬などの機器を使った筋刺激もいいかもしれませんね。乗り降り時の転倒は要注意ですが。足場を柔らかくして足踏みすることで、頭部を基底面内の納めることの難易度を上げると、それを努力性に実施するため、脊柱を使うかもしれませんね。この運動強度になるとだれかが側で補助しながら転倒リスクを減らす努力をする必要がありますね。とにかく、徒手からエクササイズまで、一貫して同じ目標の関節運動を遂行できるようにセットできるとクライアントの関節運動習得も段階的に可能なのではないかと考えています。


街のクリニックにおけるリハビリ室の役割


日常生活を自立されている方が多く集まるクリニックの役割として、マッサージ感覚で利用することが多いように感じます。それも大きな役割の一つ。多くの高齢者が集まり、情報を交換し、生活の活力を産んでいるのも事実。”動作のスペシャリスト”として、もう一歩スペシャリティなこと、理学療法を使って皆さんの生活に貢献できることがあるかもしれない。セラピストが手伝いことで、実現できることは、関節運動にしても、筋トレにしても、日常生活(ADL)活動にしてもあるはず。介助ないでは円滑でない、無理して代償動作を誘発する、そうやって不具合の元を作っているのかもしれないですね。自分でできることは”習慣付け”、できないことは”補助”できる。そして欲しい動作を獲得できる。そんなクリニックが多くあればいいですね。
長々とまつまりなく書いてしまいましたが、実際、私が置かれている立場でこんなリハビリ室にしたいなという思いです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。

https://fisico.jp/


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