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スポンジ?こいつ動くぞ!

みなさんは、ふだんスポンジを使っていますか?そのスポンジの原料は何かご存じでしょうか?私は、中学生のころに理科(生物)の先生から、スポンジは古代ギリシャからずっと使われてきた海綿動物だと聞かされて、驚いたことを覚えています。といっても、家庭にあるスポンジはウレタンで作られているウレタンスポンジだと思います。先日、少し面白い動画を見つけたので、紹介がてらスポンジについてお話しします。

和名:カイメン(動物門の名前)
学名:Porifera(動物門の名前)
分類:動物界 海綿動物門
生息:熱帯地方を中心に世界中の海の海底に固着している。一部淡水性。

加古川からのびる農業用水に生息していた淡水性のカイメン。しわしわの指が気になります。

れっきとした動物です

家庭にあるスポンジは、ウレタンなど合成樹脂の塊の内部に細かな孔を無数に空けて、柔らかくしたものです。これを水につけると孔の中の空気と水が入れかわるため水を吸い取ることができます。海綿動物とは、これと同じような構造の体をもつ動物です。誤解を恐れず簡単に言えば、海底にスポンジがはりついています。
「これって、動物なの?」と疑問に思う方が多いと思いますが、“従属栄養生物(植物が光合成をして作った物質を食べて生きる)である”や“多細胞生物(複数の細胞が集まって体をつくる)”など、海綿動物の特徴は動物の定義に当てはまっています。また、海綿動物はA地点からB地点まで“移動”することはありませんが、体を作る細胞は“動き”ます。その代表例が襟細胞です(リンクの図5を見てください)。襟細胞は長い鞭毛を持っており、この鞭毛を動かして体内の水を循環させています。海綿動物の体は、家庭にあるスポンジと同じで体内に大量の空洞があります。このような構造を持つことで、身体中の細胞に水が行き渡るため、身体中の細胞が酸素や栄養を得ることができます。私たちが、心臓で血液を送り出し、全身に伸びる血管から身体中の細胞が酸素や養分を得るのと同じ理屈です。襟細胞は海綿動物にとって、いわば心臓みたいな細胞です。

とても重要な生物です

他にも、この海綿動物が動物であることを示す現象があります。「拒絶反応」という言葉をご存じでしょうか?拒絶反応は、臓器移植を行ったときにドナーからもらった臓器が適応せず、移植した臓器が機能を失ってしまう現象です。これは、体内に病気の原因となる細菌やウイルスなどが侵入したときに、病源を駆逐するために働く免疫反応の1つです。ヒトの臓器を移植しているのになぜ免疫が働くのかというと、私たちの細胞は「自己」と「非自己」を区別する仕組みがあります。そして、私たちの体の免疫細胞が「非自己」と認定すると、同じヒトの細胞であっても(時折、自己の細胞も)攻撃します。
2013年に筑波大学から発表された論文によると、この免疫のシステムは海綿動物にも存在するかもしれないということです。ダイダイイソカイメンクロイソカイメンの一部を切断し、切断面を接着させます。すると、ダイダイイソカイメンどうしを接着させた場合は融合しますが、ダイダイイソカイメンとクロイソカイメンを接着させた場合は接着面の細胞が壊死して剥がれてしまいます。これが拒絶反応であると断定できたわけではありませんが、海綿動物に自己・非自己認識能力があることがわかりました。
「こんなこと調べてどうなるの?」と考える方もいると思いますが、もし拒絶反応が解消されたら多くの人が助かるようになると思いませんか?ヒトの免疫細胞のもつ自己・非自己認識のしくみはとても複雑で、なかなか理解できるものではありません。そこで、海綿動物のような体の構造が単純な動物から仕組みを解明して、知識を積み上げていく必要があります。

2022年の夏に日本海(兵庫県)で採集したダイダイイソカイメンです。海綿動物は岸壁に結構ついていますが、知らなければ気付かないと思います。

スポンジ漁

肝心の面白い動画についてですが、内容はアメリカ合衆国フロリダ州で行われているスポンジ漁の紹介です。スポンジといえば合成樹脂のものが一般的ですが、フロリダ州では天然のスポンジが採集されて、販売されています。市場規模は200万ドルにもなるようです。古代ギリシャで始まったスポンジ漁ですが、実用性もあることから、近代になるとギリシャからフロリダに移住してきた移民の方々によって続けられたようです。しかし、海洋汚染ハリケーンの影響もあり、スポンジの水揚げは減少しているようです。また、近年の燃料価格の上昇危険の伴う漁であることから、スポンジ漁師は後継者を残すことに消極的なようです。(注意:私のリスニング力の低さから、内容が間違っている可能性があります。)

現代の課題?

私がこの動画をみて一番驚いたことは、天然スポンジの市場がここまで大きいんだ!ということです。改めてネットで検索してみましたが、日本でも地中海から輸入している天然スポンジが売られていました。100円均一のお店で売られているものに比べてだいぶ割高でしたが…。また、水揚げしたスポンジは、洗って、乾燥させるという手順をとるのは、海綿動物が体内で特殊な体液や、ガラスでできた骨片をつくるためなので、それらの対策方法は私の印象に残りました。海綿動物は体の一部を切り取っても再生して戻るため、時間がかかっても再度取ることができます。当然、化石燃料を使用しないので、地球にも優しいという面もありますが、燃料費を考えるとコストに似合わないことや、漁に危険を伴うことなど漁を続けるのは難しいようです。スポンジという、ふだんあまり意識を向けないところですが、このスポンジと海綿動物もSDGsとして考えるべきことの1つなのかもしれません。

最後に宣伝

最後になりましたが、この度名称を変えました。記事を書いている人物は変わりませんが、魚類やそれにり添ってきる動物(まあ、寄生虫ですよね)のことを多くの人と伝えていこうというのが変更の理由です。他にも、身近な生物や現象を簡単に説明していくことも続けていきます。Twitterでもアナウンスをしていきますので、よろしければフォローしていただけると幸いです。

【参考文献】

Saito, Y. (2013). Self and nonself recognition in a marine sponge, Halichondria japonica (Demospongiae). Zoological science, 30(8), 651-657.

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