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俺か、俺以外か。T細胞という生き方

免疫の大まかな流れを説明してきましたが、ここでは免疫で出てきた細胞について詳しく説明していきます。生物になじみのない方ですと、前回の話は聞きなれない細胞がたくさん出てきてよくわからなかったのではないでしょうか?今回は主要な免疫細胞を1つずつ説明するので、前回の記事と合わせて理解が深まれば良いと思っています。

我らが司令塔

最初に紹介する免疫細胞はT細胞です。免疫には、生まれながらに持つ自然免疫多様なウイルスや細菌と戦いながら得られる適応免疫があります。また、適応免疫は細胞が直接抗原を攻撃する細胞性免疫と、抗体で抗原を一網打尽にする体液性免疫の2つがあります。T細胞はこの2つの免疫の中心にいます。
体の中に入ってきた抗原に最初に対応するのは、体内を常に巡回している樹状細胞やマクロファージです。これらの細胞が、抗原を取り込み、バラバラにして、その一部をT細胞に渡します。これを抗原提示と言います。
抗原の一部を受け取ったT細胞は、抗原を解析して対策を立て、他の免疫細胞に指示を出します。具体的には、増殖して免疫に関わる細胞のところに行って、それぞれの細胞を活性化させます。抗原に応じた形で活性化(働きを促進)させるので、効率よく抗原を破壊できるようになります。

名前の由来とレセプター

T細胞の名前の由来は、未熟なT細胞が集まっている胸腺(Thymus)です。胸腺は、心臓と胸骨の間にある器官で、よくT細胞の学校として例えられます。「細胞に学校が必要なのか?」と思われる方もいると思います。T細胞は体をつくる他の細胞と異なり、抗原を判断しなければなりません
「なるほど。インフルエンザやコロナウイルスを見分けないといけないからね」と、思われた方、すいません。T細胞が見分けるのは、自分とそれ以外だけです。細胞には、私たちのように目や脳はありません。そのため、T細胞はいろんなものにぶつかって、それが自分の細胞なのか、抗原かを判断します。その時に、確実に自分の細胞を見逃して、抗原を捉える能力が必要とされます。つまり、T細胞に必要とされる能力は、「自分の細胞を見逃す」ことで、この能力を免疫寛容と言います。この能力を得る場所が、胸腺です。ちなみに、免疫寛容を身につけるのは難しいようで、多くの未熟なT細胞が胸腺でいなくなってしまいます。
T細胞が、この相手を見分ける時に使うのが、T cell receptorと呼ばれるタンパク質です。これは細胞の表面にあるタンパク質で、抗原に合わせた構造をとっています。そのため、抗原の種類に応じてT細胞が反応します。唯一このレセプターに合わないのが自分の細胞となっています

T cell receptorを簡単に図示するとこんな感じです。

自分か自分以外か

自分に優しく、他に厳しいT細胞ですが、厳しいのは同種の細胞においても同じです。T細胞が細胞(物質)を見分ける時に使うのがMHCというタンパク質です。これも細胞の表面にあり、T細胞のレセプターに結合することで見分けています。ヒトの場合、このMHCのもととなる遺伝子が6つあるのですが、1つの遺伝子につき数十から百程度のパターンがあるため、ヒトの持つMHCの種類は1兆を超えると言われています。これが意味することは、同じMHCを持つ他人はまずいないということです。
そのため発生するのが、臓器移植に伴う拒絶反応であり、長いドナー待ちです。同じヒトの臓器でも、その細胞のMHCが異なれば、T細胞にとっては抗原になってしまいます。ヒトのMHCを作る遺伝子は6つあります。しかも、それぞれに数十パターンがあるので、6つの遺伝子が完全に一致するのは、数万人に一人の他人に期待しなければなりません。それでも、他人の臓器(細胞)は私たちのT細胞にとっては抗原になります。移植手術を受けた患者は、免疫抑制剤を飲んで免疫の働きを抑えます。また、妊婦さんはお腹の中に別のMHCを持った生物がいることになるので、免疫を弱めています。このように、病院には自分の体を治すため、もしくは新しい命のために免疫の働きを抑えている人がいます。新型コロナウイルスの流行以降、医療機関でのマスクの着用が厳しく言われるようになりました。「マスクの着用は個人の自由」と考える方もいると思いますが、病院で自分の口(あるいは鼻)から出たウイルスや細菌が原因で、これらの方の免疫を活性化させてしまったら、長い時間行ってきた努力が無駄になってしまいます。直接は関係ないのかもしれませんが、マスクの着用を求める医療関係者の方の指示に従うことは、病気と闘っている人への配慮になるのかもしれません

ある家族のMHCの組み合わせの図です。ここからわかるのは、親子でMHCが一致することは理屈の上でありません。子供の遺伝子の組み合わせは、ここにある4通りだけなので、兄弟では一致する可能性があります。特に、5人以上いれば、1組は一致しています。

自分と自分以外を見分けるエリートであるT細胞ですが、間違える時もあります。それが、自己免疫疾患と呼ばれる病気です。これは、T細胞が自分の細胞を抗原と認識してしまい、他の免疫細胞に自分の細胞を攻撃させてしまうことで生じる病気です。以前にも紹介したことがあるのですが、Ⅰ型の糖尿病なんかはその代表例です。

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