昔々の環境保全
ふと耳にしたことなのですが、日本語ネイティブの証拠として”川から桃が流れてくる擬音語を答えられる”というのがあるのだそうです。その”どんぶらこ”が出てくる桃太郎の出だしは、「おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に」行くのですが、”柴刈り”って何かわかりますか?林業については、あまり詳しくないのですが、雑木林で木を集めるためだと思われます。この木というのは、調理などに使用する火の燃料であり、木の枝や低木を切り取っているものです。”木を切り取る”といえば、まるで自然破壊をしているように感じますが、これは人の手による多様性の維持といえるものです。なぜ、木を切ることが生物多様性の維持になるのかを知るために、まずは”遷移”についてお話しします。
時間をかけて
「遷移」というのは、植生が長い年月の間に変化をしていくことです。簡潔に言い換えると、岩しかないところに、苔が生えて、草が生え、最終的に森になるまでの流れです。つまり、遷移というのは、森林ができるまでにどのような環境の変化があるのかという話になります。これが理解できれば、木を切り倒して外国産のソーラーパネルを設置すること、桃太郎のおじいさんの柴刈りの違いがわかると思います。ソーラーパネルを設置が無駄なことと分かってから、木を植えても、そこには木があるだけで森林は戻りません。
その遷移には何種類かあるのですが、もっともオーソドックスなのは火山の噴火の後などの岩しかないところから始まる”一次遷移”です。岩しかないところから、森林なんてできるわけがないと思われるでしょう。これは当たり前のことで、土も水もないわけですから、植物の育ちようがありません。そんな場所でも植物が育つようになるのは、地衣類やコケ類などの先駆種と呼ばれる生物の働きによるものです。この地衣類やコケ類はわずかな水や養分で育つことができるので、岩しかないところでも育ちます。しかし、それ以上に重要なのは、先駆種の死骸が土壌になり、水をとどめて、養分になります。
閑話休題
何もないところに土壌を作るのが、遷移における先駆種の役割となるのですが、これらの生物はなぜ何もないところで成長できるのでしょうか?また、私が先駆種に関しては”植物”ではなく”生物”としているのに気づかれましたか?コケは植物なのですが、地衣類は植物ではありません。生物の分類的には、キノコやカビなどと同じ菌類であり、体内に藻類とよばれる光合成ができる細菌を共生させています。菌類の強みは有機物(生物の死骸や排泄物)を分解して植物の養分を作れることで、藻類の強みは光合成ができることです。つまり、地衣類は何もなくても育つ生物なのです。
土壌ができると
先駆種の働きによって少しずつ土壌ができると、イタドリやススキなどの草本類が生えるようになります。こうなると、裸地・荒原とよばれていたのが草原と呼ばれるようになります。この時生えている草本類も命を終えると分解され、土壌になります。この土壌が豊かになるにつれ、アカマツやヤマツツジなどの低木が育つ低木林になります。この後、高木類が生えてくるようになるのですが、この高木類には前回説明した陽樹と陰樹があります。
低木しかない間は、光が十分あることから光飽和点の高い陽樹の光合成速度が高いため、一気に成長することができます。そのため、アカマツやコナラからなる陽樹林ができます。ところが、背の高い木によって陽樹林の地面(林床)には光が届かなくなり、陽樹の苗が育たなくなります。これは、光補償点が高い陽樹では、光が少ないと消費量の方が上回ってしまうためです。その反面、光補償点が低い陰樹は、少ない光でも養分を作ることができるので、光の少ない林床でもゆっくりと成長していきます。すると、陽樹の間に陰樹が現れる混合林となります。この後も、林の地面には光が届かないので、陽樹は育つことはなく、わずかな光でも成長できる陰樹は増え続けます。これによって、混合林はしだいにアラカシやスダジイなどの陰樹だけになります。この陰樹だけの林を陰樹林といい、植生の最終的な形になり、クライマックスと呼ばれています。
おじいさんの仕事
混合林の木を切って、地面に光が届くようにすることで、継続的に陽樹が育つことができます。それによって、混合林の状態が続きます。人為的に混合林としておくことで、森林に多様な樹木があることになるので、それを餌としている動物も多くなります。しかし、現在問題になっている地方の過疎化によって、手入れがなくなった混合林が陰樹林となり、多様性がなくなってしまうということがあります。
陰樹林になると、山火事などの災害によって、樹木がなくならない限り、特に変化は起きません。ただ、自然に樹木の種類が入れ替わることがあります。例としては、台風などで倒木があった場合、林の地面に光が十分に当たることになります。すると、そこでは陽樹が育ち始めるので、部分的に陽樹が生えることがあります。このような場所をギャップといいます。
このように、人為的であれ、そうでないであれ、森林は多様な植物によって成り立っています。伐採などで木がなくなったところに、特定の種の木だけを植えても意味がありません。
おまけ
遷移は、スタートの状況によって何種類かあります。一次遷移は、岩しかないところからはじまる遷移です。他にも、山火事のあとなどすでに土壌がある状態から始まる二次遷移や湖沼に土砂や植物の遺骸が堆積するところから始まる湿性遷移があります。また、火山の噴火後などから始まる一次遷移を乾性遷移といいます。
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