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映画「オッペンハイマー」を見る前に気をつけておくこと。

アカデミー賞7部門受賞で話題をかっさらった大作「オッペンハイマー」が、日本では3月29日に満を持して公開されました。国内での人気も高いクリストファー・ノーラン監督の長編12作目ということもあり、ファンの間では公開が待ち焦がれられていました。題材が原爆の父・オッペンハイマーの生涯を描いたものであるため、日本では非常にセンシティブな内容になっていることもあり注目を集めていました。そんなオッペンハイマーを見る前に知っておきたいこと、注意すべき点をまとめました。 ①時代背景の前提知

    • 8月9日 / 「この子を残して」「八月の狂詩曲」

      先日投稿した「広島原爆を扱った作品たち」に続いて、広島原爆から3日後の本日8月9日に投下された長崎原爆について扱った作品を紹介する。 木下恵介監督 / この子を残して (1983年)木下恵介監督は1950年に「長崎の鐘」という作品を撮っており、それ以来の長崎原爆を題材とした映画になる。前作ではまだGHQの占領下にあったため、映画が検閲対象となっていたことから、激しい原爆の惨状を思うように描けなかった。 長崎県で放射線医学を研究し、医師としても活動していた永井隆による随筆が

      • 8月6日 / 広島原爆を扱った作品たち

        原爆の子 (1952年)これが公開された1952年という年はGHQが解体された年である。アメリカ軍による占領下で、世に出るもの全てが検閲の対象となっていた時代から解き放たれ、当時まだ原爆症に苦しむ多くの人々に焦点を当てた傑作である。 あらすじを説明する。主人公は、原爆によって家族を失い、広島を離れ瀬戸内海で小学校の教師をしている一人の女性である。夏休みになり広島へ里帰りし、家族の墓前に参りに訪れると同時に、被災当時勤めていた幼稚園の園児たちに会いに行く物語だ。 そこで彼女

        • 最近観たドキュメンタリー(旧作新作・劇場配信問わず)【2024年5月、6月】

          マリウポリの20日間(映画館で鑑賞) 感動的な映画を観て泣くときはとても良い気分になり、実に清々しいものだ。 しかし、この映画を観て流した涙はとても自分にとって苦しいものであり、体験したこともないようなしんどい感情であった。映画館の巨大なスクリーンに映し出される、確実にこの地球の何処かで起こっているリアルな惨状に目を背けたくなった。それでも刮目して心に刻み込まなければいけないという責任感が上回り、嗚咽しながらも逃げずに最後まで鑑賞した。如何にロシアが最初に行った侵攻が非人

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        • 新作映画レビュー
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        記事

          映画『君の名前で僕を呼んで』を語る 【旧作映画レビュー】

          今更ながら語ろうか。2017年公開の映画、ルカ・グァダニーノ監督作「君の名前で僕を呼んで」 タイトルが詩的で美しいのは言うまでもない。 詩的なのはタイトルだけかと思いきや、もう映画全体が詩であるといっても過言ではない。基本的には行間を読ませ、表現に含みを持たせ、綺麗な景色を味合わせ、世界観に浸りながら各々の想像力を掻き立たせて、人物の心情の揺れ動くさまを見落とすまいと感じ取る。 注目の矛先をティモシー・シャラメ演じる主人公のエリオに持っていきたい。 彼は17歳で非常に多

          映画『君の名前で僕を呼んで』を語る 【旧作映画レビュー】

          映画『関心領域』の感想〜普通の家族であればある程異常さが際立つ〜【新作映画レビュー】

          映画はとある軸で二種類に分けられます。 「元気が出る楽しい娯楽映画」と「気分が落ち込んでしまう映画」。 また、とある別の軸でも二種類に分けられます。 「説明描写が多く分かりやすい映画」と 「直接表現せずに観る者の想像に多くをゆだねる映画」。 今回紹介する現在公開中の映画「関心領域」は上で説明した二つの軸で考えると、両方で後者の部類に値します。 今世紀最大に重要な映画かつ、どんなホラー映画よりも恐い映画とまで形容されていた本作ですが、観た感想としては決してそれらの文言

          映画『関心領域』の感想〜普通の家族であればある程異常さが際立つ〜【新作映画レビュー】

          映画『ミッシング』の感想〜我々に失われている視点を考える2時間〜【新作映画レビュー】

          またもとんでもない映画に出会ってしまった。 そんな感覚になった方は多いのではないかと思います。石原さとみさんが出演されているということで観に行ったお客さんは特に衝撃を受けたのではないかと推察されます。 主演の石原さとみさんの女優魂を感じる作品で、体当たり的な演技という言葉すらおこがましいような、もうその境遇に入り込んだ人間に完璧になり切っていて、本当に凄まじかったです。 顔がぐしゃぐしゃになるぐらいまで泣き崩れ、怒りや焦燥を露わにし、悲しみと絶望とやるせなさに満ち溢れて

          映画『ミッシング』の感想〜我々に失われている視点を考える2時間〜【新作映画レビュー】

          スピッツ『撃ち抜かれた歌詞のフレーズ 5選』〜神秘的かつ独創的な歌詞の世界へ〜

          私が敬愛、心酔してやまないバンド「スピッツ」について初めて綴ります。魅力を言い出したらキリがないのですが、今回は唯一無二ともいえる独創的な世界観の歌詞に着目していきます。 1. 憂鬱な迷い子撫でるように 風は吹き抜けてく 私が大好きな「三日月ロック」というアルバムに収録されているこれまた大好きな曲「旅の途中」のサビの歌詞です。 旅の途中のこのアルバムの中での位置づけは、アルバムが終盤に差し掛かったタイミングで流れる非常にしんみりと落ち着ける曲です。曲自体がすごく味わい深く

          スピッツ『撃ち抜かれた歌詞のフレーズ 5選』〜神秘的かつ独創的な歌詞の世界へ〜

          小説・映画『ティファニーで朝食を』〜原作と映画を比較する〜

          「ティファニーで朝食を」と言えば、オードリー・ヘップバーン主演の不朽の名作映画であり、トルーマン・カポーティによる海外文学の名作小説でもあります。 今年の「午前10時の映画祭」にて上映されるとのことで、劇場へ足を運んで観に行って参りました。 私の場合は先に新潮文庫から出ている、村上春樹さん翻訳の小説を読んでから映画を観に行ったのですが、まず率直な印象として 「小説と映画全然違うじゃん!」 って感じました。 よく原作を映像化する際に改変して良いものが仕上がらなくなってしま

          小説・映画『ティファニーで朝食を』〜原作と映画を比較する〜

          映画『悪は存在しない』の感想~難しいラストシーンとタイトルの解釈~【新作映画レビュー】

           映画をたくさん見るようになったのは学生になってからで、大学4年間で1000本鑑賞する、という目標に向かって現在も日々生活の一部に映画があります。(二回生)  まだ忙しくて映画を見る暇もない高校生だった2022年に、「ドライブ・マイ・カー」がアカデミー国際長編映画賞を受賞したとニュースでも取り上げられ、とても気になっていました。  そしてちょうど一年後に大学生になった私が最初に鑑賞した記念すべき1本目が「ドライブ・マイ・カー」でした。とても面白かったです。  そんな思い入

          映画『悪は存在しない』の感想~難しいラストシーンとタイトルの解釈~【新作映画レビュー】

          オッペンハイマーを劇場で4回観たので感想書きます。

          3時間もある超大作とあって、何を感じたか、どう考えたか、どのシーンが記憶に焼きついたか、本当に観た人の数だけ答えがあると思う。 その中でも私の素直な感想を書きたい。 単刀直入に言って、映画としてとても良くできていて、演出・ストーリー構成・音楽・音響・撮影・役者の演技、全てが一流で見応えが半端なかった。そしてこの映画の持つ壮大なメッセージ性も私には重く伝わった。 ノーラン監督の手腕も存分に発揮され、上手く噛み合っていたと思う。「どうして時系列を入れ替えるのか」や「分かりにく

          オッペンハイマーを劇場で4回観たので感想書きます。

          映画「その男、凶暴につき」×「チェイサー」【映画比較論】

          日本映画・北野武監督作「その男、凶暴につき」(1989年) 韓国映画・ナ・ホンジン監督作「チェイサー」(2008年) 共通点1 死んだ目をした冷血サイコパス まず犯人役の2人の特徴がかなり似通っています。その男、凶暴につきでの白竜さん。↓ マジで怖い顔してる。後のvシネマでヤクザ役をやっている時とはまた違った怖さですよね。 一方「チェイサー」のハ・ジョンウ、これも顔が冷たく恐ろしい。劇中の行動全てが狂い過ぎてるせいかもしれません。もしかしたら監督は白竜さん的な顔をキ

          映画「その男、凶暴につき」×「チェイサー」【映画比較論】

          Netflixで観れる「笑って、泣けて、考えさせられる」名作映画3本

          誰が何と言おうと、映画ってやっぱり良いですよね。 一番そう思えるときって、個人的に映画で泣いたときなんです。 少し今日は力を抜いてただ単に好きな映画をダラダラと書き連ねていきます。 今日紹介するオススメ映画は、 「最強のふたり」 「グリーンブック」 「コーダ あいのうた」 の3本です。 観たことあるわ!って人が多いであろう王道中の王道ですね。 1.最強のふたり この2人全くもって対照的。黒人と白人、資産家と貧困家庭、健常者と身障者。 絶対噛み合うはずがない2

          Netflixで観れる「笑って、泣けて、考えさせられる」名作映画3本

          映画『アイアンクロー』の感想~プロレスとは人生であり、人生とは悲劇である~【新作映画レビュー】

          これはプロレス映画という範疇を超えた、21世紀の映画史に残る傑作と言っても過言ではないであろう。 学生である私自身は、時代に似合わないオールドスクールなプロレスマニアであると自負している。何せかれこれ10年ほど前の小学生時代に、漫画・プロレススーパースター列伝を読んでいたのだ。 確かブルーザー・ブロディの回であったか、フリッツ・フォン・エリックが登場していた。 一度つかむと離さない必殺技アイアンクローとそれによって流血する選手、実際に手を鉄のように描いていた画は今でも鮮明

          映画『アイアンクロー』の感想~プロレスとは人生であり、人生とは悲劇である~【新作映画レビュー】