【映画比較論】「その男、凶暴につき」×「チェイサー」
日本映画・北野武監督作「その男、凶暴につき」(1989年)
韓国映画・ナ・ホンジン監督作「チェイサー」(2008年)
共通点
1 死んだ目をした冷血サイコパス
まず犯人役の2人の特徴がかなり似通っています。その男、凶暴につきでの白竜さん。↓
マジで怖い顔してる。後のvシネマでヤクザ役をやっている時とはまた違った怖さですよね。
一方「チェイサー」のハ・ジョンウ、これも顔が冷たく恐ろしい。劇中の行動全てが狂い過ぎてるせいかもしれません。もしかしたら監督は白竜さん的な顔をキャスティングしたかったのかも。
2 見どころは追いかけっこ
チェイサーは完全なる追いかけっこムービーですよね。
その男、凶暴につきは中盤であまりに長過ぎる追いかけっこシーンが有名です。
これもチェイサーはここから着想を得たのか?
監督がインタビュー等で語っていたのをご存知の方は是非教えてください。
この追いかけっこシーンは「殺人の追憶」でも登場しますよね。北野武が韓国映画に与えた影響はかなり大きいのかも。
3 密室で暴行する場面
この2つの映画に、全く同じと言っても良い程似通っているシーンが一つあります。それが主人公による犯人への暴行のシーンです。
警察署内の密室で2人きりで閉じこもり、尋問という名の単なる憂さ晴らしに近い陰惨な暴行を行います。
その際外で仲間が(その男の場合は部下、チェイサーの場合は元上司)見張っているんですよね。中からとんでもない音がするので通りかかる人が「中で何やってんだ」と気になりますが、見張り役が何とか誤魔化します。
4 主人公の側にいる女性
北野武の側近には川上麻衣子さん演じる妹が常に付いています。この妹の前では主人公も理性を持っており、人間である証とも言えます。
この関係性は北野映画ではのちにお馴染みとなって行きます。
狂った人間のそばにいる女性が、その人間の理性をギリギリ保っているというパターンは、
芥川龍之介の「地獄変」での画家の良秀と娘の関係と例えると分かりやすいでしょう。
チェイサーにも主人公の側にいる理性的な役割を果たす女性が途中から現れます。
それが、自身が経営していたデリヘルで働いていた女の娘です。ちなみにこのデリヘル嬢の女性がこの映画での被害者であるため、この娘との出会いが主人公にとってはとても大きいものとなります。
5 ラストの果し合い
果し合いのシーンなんかは、「いやターミネーターかよ!」って思わせますよね。
このラストシーンは三池崇史監督の
「DEAD OR ALIVE 犯罪者」
で竹内力と哀川翔がやってました。
そもそも銃を使った果し合いとは日本映画ではあまり馴染みがないかも知れませんが、海外の映画だとよくありますね。
相違点
1 主人公の境遇
主人公の境遇は大きく異なります。
まず「その男、凶暴につき」での北野武は暴力刑事で、それが原因で途中で警察を辞めさせられてしまいます。警察を辞めたところから失うものが無くなり、凶暴さに拍車がかかるという話です。
一方「チェイサー」は、既に警察をクビになっている男が主人公です。現在では風俗の元締めをしておりながらも、たまに警察でもないのに特権を振りかざす暴挙に出だします。そもそも最初から歯止めが効いていません。
2 武器
その男、凶暴につきでは主な武器として銃が使われています。これは北野武が刑事なので銃が使えるということがあるのと、
白竜も拳銃を仕入れているので持っています。
武は警察を辞めてから、自分も同じく銃の密売人から仕入れてラストの果し合いへと向かいます。
一方のチェイサーは基本的に素手でやり合います。最後の2人の喧嘩もメッタメタにやり合ってました。
物を使うといっても手当たり次第身の回りにある物を使っているという印象で、主人公がパイプ椅子で頭をぶん殴ってました。
そして犯人の犯行シーンでは変わった工具を使って暴行してました。これはナ・ホンジン監督の次作「哀しき獣」でかなり進化させていました。
3 ラストで死ぬか否か
ラストで主人公が死ぬ、というのはもはや北野武映画のお馴染みですよね。
何せこのデビュー作以降
「3-4x10月」
「あの夏、いちばん静かな海」
「ソナチネ」
の4作目まで全てラストで主人公が死にます。
ほとんど自殺なんですがね。
その男、の場合は射殺されてしまいます。
チェイサーでは主人公は亡くならないのですが、被害者やら何やら次々と殺されていくので、こちらはこちらで後味は最悪ですね。
補足で今回登場した作品↓
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