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偶然と必然 第4話 〜思考は巡る〜

21時35分

列車の窓に映る景色はいつもと同じだ。暗闇と小さな光の洪水。しかし、それを眺める僕の心境は全く違っていた。

電話を切ったあと、僕の頭の中を「?」の文字が暴走する。心臓が高鳴っているのがわかる。血圧も急上昇する。当然、僕はこう思う。

一体、誰?

僕の携帯番号を知っているなら、直接電話をかけて来る筈だ。ということは、今の僕の電話番号を知らない女性だ。

まったく検討がつかない。とりあえず可能性のある候補をリストアップしてみる。

A子?Bちゃん?C美?

でも僕が再婚してから10何年経つけど、後ろめたい話はない。心当たりが全くない。

じゃあ、誰だ?

或いは罠かもしれない。バーには全く見知らぬ女性がいて、僕が席についた途端、「よう、さいとう。久しぶりやな。後は事務所で話そうやないの」と、怖いお兄さん達に両脇を固められ、拉致されるやも知れぬ。

それはないか。俺は堅気だし・・・。

僕は考えることをやめることにする。考えたところでわからんもんはわからん。その時が来るまでは。出たとこ勝負・・・。なるようにしかならん。

僕は列車の窓の外に流れる景色を眺め、思考を止めようと試みる・・・。

一体、誰⁈

結局、そう考えずにいられない。落ち着かない。やたら時が過ぎるのが遅く感じる。僕は少し苛立っていた。

時は悪意があるかのように、とてもとてもゆっくりと流れる。

僕はふと、ある人の言葉を思い出す。

「時間の変容」というか「時間の密度」は変えることができるんです。何事も偶然ではなく、意味があるのです。

確かに時間の密度は変容する。それは理解できる。今日はあまりにも時の流れが遅すぎる。人は時の流れを操れるのかもしれない。けど、今夜のことは偶然でなければ、一体どんな意味があるのだろう?

偶然?それとも必然?

たまたまなのか、それとも決められていることなのか?

意味があるのか、それとも意味なんてないのか?

そして三度、僕は考える。

一体、誰やねん!!


ようやく黄土色と赤色の列車は乗り換えの駅に差し掛かる。僕は今宵は今や遅しと、ドアの前で仁王立ちになっていた。そうだ、念のためアキレス腱は伸ばしておこう。何故か僕はストレッチをしてしまった。イッチ、ニィ、サン、シ・・・。

ケバケバしい歓楽街のネオンの光に車両は包まれ、それを抜けるとようやく駅だ。

僕は時計見る。

21時52分。

そして、スローモーションのようにドアがゆっくり、ゆっくりと開いた。

<続く>

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