整理解雇の4要件(Ⅲ) ~正規雇用はアマリニモ守られすぎている~

■正規雇用が当たり前だった高度経済成長期

高度経済成長期(1954年12月~1973年11月)、その中でも特に「いざなぎ景気」(1965年11月~1970年7月)の頃は常に人手不足だった事もあり、労働者を確保するために正規雇用の囲い込みが常態化していた。

1973年と1979年にオイルショックがあったとはいえ、「正社員」が当たり前だった。あとは、既婚の子育て主婦が「パート」をやるくらい。「派遣労働」なんてまだ無かった。

あの時に『整理解雇の4要件』が示されたのは、あの時代が正規雇用・年功序列型賃金・終身雇用のいわゆる「日本型雇用」が当たり前だったからこそである。


■労働市場が変化したバブル崩壊後

1990年代になり、バブル経済が崩壊した後は、不況に陥り、仕事も収益も利益も減っていき、人手も余ってきた。

銀行からお金を借りにくくなり、会社経営のためにも、余剰人員は整理解雇(リストラ)したいところだったが、正規雇用は『整理解雇の4要件』によって守られているため、容易に解雇できなかった。


■「就職氷河期」の最大の原因

『整理解雇の4要件』の存在は、使用者による様々な不当解雇を無効にし、立場が弱いとされる労働者の雇用を守ってきたとされている。
そして、いつしか「正規雇用は簡単にクビを切れない」……そんな"解雇規制"が当たり前になっていた。

だが、それがとんでもない弊害を招いた。

正規雇用は、年齢や貢献度などに関係なく、簡単に解雇できない。
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例え仕事ができない・ロクに仕事をしない人であっても、正規雇用というだけで、雇用・給与・待遇は保たれたまま。(年功序列型賃金の恩恵)
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人件費が重くのしかかり、経営リスクが増加。
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人件費を抑制する企業が急増
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企業側は、解雇できない事を不況時(仕事・収益・利益の減少)における最大のリスク(人件費が重く圧し掛かる)と捉え、正規雇用(新卒・中途)の枠を縮小。(雇い控え)
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求人倍率が低下(就職や転職のハードルが上がる)
 ↓
"正規雇用争奪戦"や"イス取りゲーム"が過酷さを増す。

この流れが「就職氷河期」という時代を作り出した最大の原因になった。
この現象は、オイルショック後・バブル崩壊後・リーマンショック後に共通して見られた。


そこで本来なら「解雇規制の緩和」に取り組みたいところだったと思うが、労働組合からの激しい抵抗に遭い、実現できなかった。

そのため、『整理解雇の4要件』によって守られ解雇できない正規雇用を毎年一定数雇い続けるよりも、雇用調整弁として解雇しやすい非正規雇用を不定期で採るという選択をせざるを得なくなった。


■正規雇用はアマリニモ守られすぎている!

正規雇用と非正規雇用。雇用形態は違えど、同じ職場で勤務し、同じように会社に貢献している。
そんな中で、業績が良い時もあれば悪い時もあるだろう。でも、それは当たり前の事だ。そういった景気変動の中で人件費を調整していかなければならないはずなのだが、なかなかそのようにいかないのが現状である。

本来なら非正規雇用の人々にも渡るべき賃金や待遇……それは、経営者や資本家(株主)ではなく、正規雇用を維持するために回っている。
給料を払う側の経営者であれば当然わかっている事だし、お金の流れをよく見ていれば分かる事でもある。

どんなに無能でも、「正規雇用」というだけで、解雇されない。
どんなに優秀でも、「非正規雇用」というだけで、雇い止めされる可能性がある。

正規雇用がアマリニモ守られすぎているから、
非正規雇用(派遣、バイト等)や求職者(就職・転職)が割を食う。

非正規雇用を搾取しているのは、正規雇用である。

そういう意味で、正規雇用は"特権階級""既得権"にもなっている。それが正規雇用と非正規雇用の間に「格差」を生じさせた最大の原因だ。

そして、そういった状況を作り出してしまったのが『整理解雇の4要件』なのである。


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