整理解雇の4要件(Ⅰ)

■整理解雇の4要件

『整理解雇の4要件』とは、以下の4つを指している。

(1)人員削減の必要性

(2)解雇回避の努力義務の履行
 ⇒非正規雇用者の雇い止め、新規採用の雇い控え
 ⇒残業抑制、減給、休業、希望退職募集など

(3)被解雇者選定の合理性

(4)解雇手続きの妥当性
 ⇒労働組合や労働者への説明や協議

この概念は、いつ、どのような経緯でできたのか。


■日本食塩事件の判例

1975年4月25日。
最高裁第二小法廷が、「日本食塩事件」について、以下の判決文を出した。

これが、後の「労働基準法第18条の2」の原型となった。(後述)

使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

大判例|最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)499号 判決
公益社団法人全国労働基準関係団体連合会|労働基準判例検索(日本食塩事件)


■大村野上事件の判例

1975年12月24日。
長崎地方裁判所大村支部が、「大村野上事件」の判決について、『整理解雇4要件』を示した。

この時の判例が『整理解雇4要件』を定式化した最初の判例とされている。

第一に当該解雇を行わなければ企業の維持存続が危殆に瀕する程度にさし迫った必要性があることであり、
第二に従業員の配置転換や一時帰休制或は希望退職者の募集等労働者によって解雇よりもより苦痛の少い方策によって余剰労働力を吸収する努力がなされたことであり、
第三に労働組合ないし労働者(代表)に対し事態を説明して了解を求め、人員整理の時期、規模、方法等について労働者側の納得が得られるよう努力したことであり、
第四に整理基準およびそれに基づく人選の仕方が客観的・合理的なものであることである。

大判例|長崎地方裁判所大村支部 昭和50年(モ)41号 判決


■東洋酸素事件

1979年10月29日。
東京高等裁判所が、「東洋酸素事件」の判決について、『整理解雇4要件』を示した。

この時の判例が『整理解雇4要件』として引用される事が多い。

特定の事業部門の閉鎖に伴い右事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが「やむを得ない事業の都合」によるものと言い得るためには、第一に、右事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること、第二に、右事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと、第三に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りるものと解するのが相当である。以上の要件を超えて、右事業部門の操業を継続するとき、又は右事業部門の閉鎖により企業内に生じた過剰人員を整理せず放置するときは、企業の経営が全体として破綻し、ひいては企業の存続が不可能になることが明らかな場合でなければ従業員を解雇し得ないものとする考え方には、同調することができない。
 (中 略)
なお、解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき等においては、いずれも解雇の効力が否定されるべきであるけれども、これらは、解雇の効力の発生を妨げる事由であって、その事由の有無は、就業規則所定の解雇事由の存在が肯定されたうえで検討されるべきものであり、解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならないものというべきである。

大判例|東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1028号 判決
公益社団法人全国労働基準関係団体連合会|労働基準判例検索(東洋酸素事件)


それ以来、解雇絡みの裁判は、この判例が判断基準となり、整理解雇(リストラ)をするには4要件を全て満たす必要があり、1つでも欠けた場合の解雇は無効とする判断を下されるようになった。

但し、近年はそこそこ緩和されているようで、4要件ではなく"4要素"と表現される事もある。
また、訴訟リスクが少なく、経営体力がない中小零細企業ほど厳格に使われず、やむなく解雇という事もあるようだ。


■労働基準法と労働契約法

◎2003年3月7日
「労働基準法の一部を改正する法律案」を提出。
◎2003年6月5日
衆議院本会議で可決。
◎2003年6月27日 <小泉内閣>
参議院本会議で可決成立。(閣法156-77)
◎2004年3月1日
「労働基準法の一部を改正する法律案」施行。

「労働基準法」第18条の2に、解雇に関する条文を追加。
最終的には、「日本食塩事件」における最高裁の判例文の一部をほぼ採用する形となり、法律によって解雇の権利濫用を防止できるようになった。

第十八条の二
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする

衆議院|労働基準法の一部を改正する法律案


◎2007年9月10日 <安倍内閣>
「労働契約法案」を提出。
◎2007年11月8日
衆議院本会議で可決。
◎2007年11月28日
参議院本会議で可決成立。(閣法166-80) <福田内閣>
◎2008年3月1日
「労働契約法」施行。

これによって、従来の「労働基準法第18条の2」は、「労働契約法第16条」に"移動"となった。内容は一字一句変わらず。

第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする

e-Gov法令検索|労働契約法
厚生労働省|労働契約法のあらまし



◇裁判所の判例によってできた『整理解雇の4要件』
◇法律(労働基準法→労働契約法)による『解雇規制』

これらが、立場が弱いとされる労働者を守ってきたと言われているが、果たして本当にそうなのだろうか?

次回へ続く。

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