英語民間試験についての私見④提言

このシリーズ、前回投稿から結構引き伸ばしましたが、提言を書いて締めたいと思います。

前回も書きましたが、英語民間試験を導入し、4技能を向上したいという政府の目標は一定の妥当性があります。

また、アジアのなかで研究の競争環境が激化しているなか、本業が研究である大学教員の貴重な作業時間を奪ってまで、外部委託が十分に可能な英語の入試問題作成に当たらせるべきか否かも検討する必要があるでしょう。

実際、今や大学院入試はTOEFLやTOEICの受験なんて当たり前の世界です。

(また、誰でもできる入試の試験監督に、国の知的財産である研究者を容赦なく動員している現行の入試も見直せると思います。大学職員が主監督を行い、あとは学生バイトや日雇い派遣を充てれば十分な気もするのですが)

一方で、

 ①出題・採点の質および公正性の担保が不透明である点

 ②試験実施にあたり、人員の確保が困難である点

この2点の改善なくして、実施はあり得ないというところです。

では、どのような発想に基づいてこれらの課題をクリアすべきなのでしょうか。

1.科学技術を活用しよう

①出題・採点の質および公正性の担保が不透明である点と、②試験実施にあたり、人員の確保が困難である点をみると、1つの共通点を発見できます。

それは、「試験執行に人間が介在すること」です。

①出題・採点の質および公正性の担保が不透明である点についてですが、採点が人によって主観が入ってしまい、得点のブレにつながるおそれがあることが指摘されています。その結果、公平性を損なってしまうというロジックです。

(出題の質については、殆どの試験が既に一定の社会的信用を確立しています。どうしても怪しいと考えられるものは、各大学が個別判断で切り捨てればよいでしょう。よってここでの考察を省略します)

ちなみにこの論理を述べる方について、試験実施団体の対策がどのように行われてきたかキチンと把握しているのか、マスコミの報道等をみていると疑問に思うところもあります。


だったら、採点に人間の手を極力入れないようにすればいいのではないかと思うところです。

再び英検で恐縮ですが、すでにAIによるライティング・スピーキングの自動採点が実施されています。

そして、現在ライティングについてはAIによる採点が実装済みであり、スピーキングについては改良中のようです。

このように、人の手を省くことで採点のブレをなくし、さらに試験実施にかかる人員確保の課題も解消する方向で民間事業者が動いています。

こうした取り組みには、ぜひ政府としても後押しをしてほしいところです。ただ、他国のIT企業がAI実装の事業を委託されているようで、日本のAI事業の展望は大丈夫か?と少し不安にもなるところです…。


2.クレームの統計をとって制度を見直そう

どのような傾向の苦情が受験生当事者や英語民間試験事業者、大学等から出ているのかを精査し、必要に応じて制度のあり方を見直す必要があるかと思います。

このようにいうと「見直すまでの受験生は、実験の被験者なのか」という批判が出ると思います。しかしながら、そもそも教育政策の本質は、壮大な社会実験に他ならないという事実に向き合わねばなりません。

文部科学省も、教育学研究者も、国民も、何が最適解なのか断言できるだけのエビデンスを持っていないのです。

しかしながら、様々な利害関係者がいるなかで、現代において合理的と思われる施策を選択し、見直すなかでしか教育政策は進歩できないのです。『教育格差』の著者として知られる、早稲田大学准教授・松岡亮二さんも、著書の中で「螺旋階段を上るように進歩する」という趣旨の記載をしております。

(ただし、松岡さんはTwitterで、「日本の教育政策には過去の政策からの「学び」がないのです。後々その政策が狙い通りに機能したのか、検証できるだけの客観的なデータを取得していないことが最大の問題点です」との見解を示し、文部科学省の施策がエビデンスに基づいているのか疑問視しているようです…)

https://twitter.com/ryojimatsuoka?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

だからこそ、英語民間試験を導入した後のフォローアップが必要になってきます。英語の能力伸長が図られたか否かだけでなく、政策の執行が大きな問題なく行われているかのチェックをお願いしたいです。


3.まとめ

完璧な政策や、問題を簡単に解決できる「魔法の杖」はありません。社会を少しでも前進させるため、建設的で前向きな議論を行いたいものです。

センター試験での英語リスニング導入時にも、多くの批判がありました。しかし、ICレコーダーでのリスニング実施という前例のない対応を行うことで乗り切りました。技術の進歩は、人間の不可能を可能にします。

今後の動向からも目が離せませんね。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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