鉱山開発
1 これまでに何度か「テクニックを覚えるには打ち込みが必要だ」と書いてきた。
また、ジョン・ダナハーの「柔術の上達には、何よりもまず第一に(練習)量。次に、(練習の)質だ」という言葉にも繰り返し言及した。
柔術の上達に関するジョン・ダナハーの見解は正しいと思うが、私の個人的な実感を述べるならば、「上達の速度は、量×質で決まる」と思う。
「上達速度=量×質」という公式は、私の経験則に過ぎないが、柔術に限らず、広く「モノを学ぶ」という学習行為全般について当てはまるだろう。
したがって、私が柔術に関する記事を書く際に想定している、白~青帯のライト~ミドル層(週1~3回程度の練習量)の人々にとっては、「(練習)量を増やす」事よりも(それは、仕事や家庭との兼ね合いで難しいだろう)、むしろ「(練習の)質を高める」工夫をする事の方が、中長期的に見た場合の上達の速度は速くなるはずである。
だからこそ、「あるテクニックを身に付けよう(たい)」と思い立った場合、YOUTUBE等で見て来た動画をなんとなくスパーリングの中で試して覚えようとするのは、非常に効率の悪い練習法になる(=練習の質を下げる)ので、止めた方がいい。
2 本稿では、(練習の質を上げるための)打ち込みの重要性とその軽重の付け方について、「腕十字(アームバー)」を例に、私の思うところを述べてみたい。
腕十字には、大別すると①クローズドガードから②マウントから③サイドから(回転腕十字)④バックから⑤ローリングアームバーの5つの掛け方がある。
この中でも、私が基本と位置づけているのが①クローズドガードと②マウントからの腕十字である。
③ないし⑤は応用に過ぎない(注1)。
注1)③回転腕十字②バックから⑤ローリングアームバー(ヤスケビッチ式とも呼ばれる)については、それぞれ下記の動画を参照して欲しい。
先日ウチの道場の子が、アマチュアMMAの試合に出て、見事に判定勝ちを収めた。
彼は、「(試合中に)クローズドガードからの腕十字を極め切れなかったので、もっと精度を上げたいのですが、どうしたらいいですか?」と聞いてきた。
そこで、私は「クローズドガードからの腕十字は、腕十字の基本だから、頭で考えなくても身体が自然に反応するレベルになるまで、徹底して打ち込みしよう」。
「クローズドガードとマウントからの腕十字が打ち込みで100%成功するレベルになれば、残り(=上述した③ないし⑤)の腕十字は応用に過ぎないから、少し打ち込みするだけで必ず出来るようになるよ」と答えておいた。
テクニックに基本と応用があるとするならば、基本技は「頭で考えなくても身体が自然に反応するレベルになるまで」、言い換えれば、その技がマッスルメモリーに記憶されるまで打ち込みを繰り返すべきである。
基本技をマッスルメモリーに記憶する事が出来れば、その技をそれ以上打ち込みする必要性は薄れる(次の記事でも述べられているように、ドリルの効用が逓減してしまう)。
また、基本技がそのレベルにまで達すれば、応用技の習得には、数回から数十回の打ち込みで足りる事がほとんどだろう(注2)。
注2)私にはとてもPJの真似は出来ないが、基本と応用を身に付ける事が出来れば、下に掲載した動画はいいアイデア集になるだろう。
こういうのは「学習参考書」であって、「教科書」ではない。
両者の区別が大事だというのが本稿の趣旨になる。
基本と応用の区別は重要で、腕十字に即してこれを述べると、③回転腕十字は、相手(ボトム)が脇をしっかり閉じていればまず掛からないし、④バックからの腕十字に失敗してポジションを失うリスクを考えると、バックではまずチョーク(特に裸締)を狙う方がいいと思う。
だからこそ、使用頻度の観点から考えても、また、腕十字の理合を覚えるためにも、やはり①クローズドガードと②マウントからの腕十字の打ち込みを徹底してやるべきだと私は考えている。
3 武術的に技の理合を探求しようと考えるならば、古流・合気道系の型稽古と同様に、ある基本技を打ち込みする事によって得られる効用(つまり、上達)がほとんど0に近くなっても、さらに打ち込みを続ける必要がある。
競技柔術で勝つためには全く必要のない作業だが(基本技・応用技を問わず、あるテクニックをマッスルメモリーに記憶する事が出来たらそのテクニックにそれ以上固執せず、他のテクニック群の習得に移行した方が、はるかに効率的な時間の使い方になるだろう)、そのテクニックについて伸びが感じられなくなっても打ち込みを続けていると、ある日突然、単体としてのテクニックのみならず、テクニック群全体についての理合に気付くことがある。
これもまたダナハーの受け売りになるが、「腕ひしぎ十字固めは、日本語で「十字固め」という名称がついている事からも明らかなように、まずは相手に対して90度の角度に自分の身体をセットし、(肘を極める前に)相手を「固めなくてはならない」」。
「私は日本語かぶれだとよく揶揄されるが、日本語の技名にはその技のエッセンスが凝縮されており、日本人の英知とも言うべきものが込められている。だから、私は日本語の技名を大事にするのだ」と語っていた。
技ないし型に名前があるとしたら、その名前には先人の知恵が詰まっている(事が多い)。
そうしたヒントを読み解く事は競技柔術に勝つ事には直結しない(全く役に立たないかもしれない)が、柔術を深く掘り下げて楽しみたいと思うのであれば、そういう稽古のあり方もあってしかるべきだと私は考えている。
4 最後に、どんなテクニックを覚えようとするのであれ、打ち込みにはそれを受けてくれるパートナーが必要である。
良き打ち込みパートナーに巡り合えるか否かは運だと言っていい。
道場でテクニックの打ち込みを頼まれる事があったら、積極的に受けを取る事を勧める。
もしかすると、その相手が将来的には貴方の良き打ち込みパートナーになってくれるかもしれない。
練習量が確保できないと悩んでいる人は多いと思うが、日常生活に支障を来すような無理をするより、本稿で触れた打ち込みやソロドリルのような練習の質を高める工夫をする事を一度考えてみて欲しい。
以下は、本稿に「投げ銭」をして下さった方々に対するお礼として書いた文章になります。6/12記
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