スキゾフレニアワールド 第二十話「嘘」

 涼子が仕事を休んで一週間。職場の皆が彼女の事を心配していた。精神障害者としての配慮が欠けていたのかもと誰もが思っていた。其れでも彼女の事を思えば仕事を頑張れる。人間とはそういう生き物で有る事を彼女含め社内の人々が思っていたからだ。彼等に言葉は要らない。全員が一日も早い回復を望んでいた。病院から輝に連絡があった。主治医に渡した統合失調症に関する外国の医師の論文の謝礼の電話だった。
「君の意見は大変参考になったよ。小倉君。その学力を使って就職すれば良いんじゃないの?」
「手前ぇの生き方くらい手前ぇで決めますよ。態々お電話有難う御座います」
 輝は涼子にとって必要な存在に成っていた。涼子の生き方は確実に輝を変えていた。今彼女は静養している。自分に出来る事は励ましと愛の感情をぶつけるだけだ。後遣るべき事は……。輝は思考を張り巡らしていた。涼子の為だけに。

 涼子は目を覚ましては主治医の先生と話していた。
 自分の体調不安。心の模様。精神の状態。彼女の目と肌で感じる五感と第六感から感じるのは何か。主治医は有りと有らゆる方法を探っては最善な考えで涼子を導いた。先ずはじっくりと心に栄養を与えて休ませる事。お気に入りの音楽を聴く音楽療法も有効だと説いた。好きな事に時間を費す。でも無理は絶対にしない。専門医の指導の下、涼子は入院生活を受け入れていた。それは輝の耳にも直ぐに入った。二人の仲を聞いていた先生は彼の愛情を感じて欲しいと涼子に言った。涼子は其れを静かに頷いた。其の言葉が嬉しかった。何よりの特効薬で有った。何時しか彼女には輝の支えが必要不可欠になって居る事を自覚してゆく。目を閉じれば彼が言う。其の言葉の深さと重みに何度癒やされ包まれて来た事か。其の想いをそっと抱きしめた。感情が答えを欲していた。彼だけに。彼の為にも病気と寄り添い静養し本調子を取り戻す事が今遣るべき事だと思った。其れを実行した。何時しか愛は病気をも変えてゆく。輝は涼子を思い、涼子は輝を思っていた。
「貴方が教えてくれた薬を服用してるよ。先生も大絶賛!」
「次は嵐のライブDVD見ろ」
「また私が倒れたら助けてくれる?」
「タクシー代出せ」
「馬鹿!」
 LINEの会話も尽きない。お互いが励まし合い支え合っている。端から見た二人は立派な恋人同士と成っていた。其の思いを認めるのも時間の問題。言えない其の一言。だから涼子は今日も輝に縋り、輝は彼女を揶揄するのだ。心に嘘を付いて。それが彼等也の愛情表現なので有る。嘘は互いを隠し、包み、癒す。其れを人は真愛と言う。病魔なんて只の気だった。そう信じたい、そう言って欲しいと輝は想っていた。涼子の退院を一日でも早く願って居た。信じて居た。そして……。

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