スキゾフレニアワールド 第三十三話「愛」

 僕と涼子が付き合い始めて一ヶ月。周りの誰もが僕等の事を認めていた。季節は晩夏。九月の暖かさは爽やかな青空の下で太陽と雲を踊らせ安らかなステップを踏む。共に生きて行こうと誓ったあの日。忘れられない夏は想いを刻み明日への讃歌を高らかに謳う。今日も一日新しい扉を叩いては青春の日常がリスタートする。眩しすぎた。穏やかな時間は取り戻されて其の鎖と箍を外して自由な風に成った。最早邪魔する者など誰一人として居ない。彼女はコンビニでの仕事を再開し、復活の予兆を兆す。僕は其れを全力で応援した。毎日のLINEは恥ずかしい程の内容だが、彼女となら何も恐れなどしない。涼子も同じ思いだろう。僕等は新しい日常を共に手を繫ぎ合って歩き出していた。街は今日も鼓動を叩く。止め処無い日々はリズムに乗って絶好のタイミングと波を誘い出しては、離さない。僕は其れを絶対に離さない。誰にも渡すものか。頑なに強く握り締めた両手の拳の中には今迄と此れからの真愛の欠片が全て詰まっていた。其れを離す事など有り得ないだろう。彼女と僕の日々は共に支え合って補い合って褒め称え合う素晴らしい物となった。其処に他意は無い。マイナスな物など何も無い。互いに働き、想い合い良い汗を流して爽やかな陽光を浴びる。そして一日の出来事の終わりを報告し合って就寝しては次の優しき日がスタートする。障害者も健常者も関係有る物か。彼女の容態は僕の日常とリンクして、僕の健康が涼子の基盤と成り核をサポートする。此れで良い。此れで良いと僕は心の底から想った。切に願った。この終わらない空を。あの高校生の頃の屋上での昼休みの思い出を。もう一度願った。雨宮涼子、彼女の心の底から健康を。小倉輝と云うちっぽけな人間は真実の歯車の廻す意味を知り、若さと雄々しい生命力に溢れて此の大地を凛凛と踏み締めていた。僕等は誓う。統合失調症、否、精神障害者、否、障害者の人間の全ての健康を。何度でも叫ぼう。此の愛の総てを。一度は千切れて崩壊した世界に舞い降りた光の使徒は其の輝きを再び描き戻し燦燦とした息吹を吹き込むのだろう。其処に他意は無い。そう、他意は無いー。

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