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少女デブゴンへの路〈エピローグ〉

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  エピローグ 「ご無沙汰しております」

 9月の某日曜日、タマサカ家はいつもにも増して賑々しかった。
 タマサカ家人類たちが約束の裏メニューを食べにデネーズに出掛けようとしていたところに、元姐さん面だけこわい軍団がタマサカ家を訪ねてきたのだ。
 現在、彼らは、PW連邦の移民プログラム研修中である。異P世界見学のために研修所のトレーナーに引率されてこのP世界にやって来た。謂わば大人の修学旅行の真っ最中である。
 彼らのP世界――N-83は、P世界の概念すらないP世界連邦未加盟P世界であり、そのP世界の(P世界線上の)治安の維持のため、迂闊にP世界連邦人がタッチャブルできない。しかし、偶然にもそこでP世界超えの犯罪トラブルが発生してしまい、それを「見ちゃった」「知っちゃった」N-83の者たちの今後の身の振りが問題となった。
 夜盗三人組や山賊たちは、この一件を「妖怪の仕業」と信じ込ませて口を噤ませた。軍団たちについては、P世界について学んでもらった上で、キン子やパン太のようにP世界移住するか、N-83でP世界の秘密を守って暮すか、どちらかを選ぶことになっている。
 
ご無沙汰しておりまーす
 強面に満面の笑みを浮かべて挨拶する軍団に、姐さんも「よく来たな」と笑顔で返す。
「あれ? カブ師匠は?」
「師匠ん家の垣根が台風でぶっ飛んできた近所の物置の屋根に破壊されてさあ」
 例の玉坂不動産から連絡が来たのだ。
「後始末に戻ってったワ」
「それは災難ですねぇ」
 和気藹々と談笑する姐さんと強面軍団に、タマサカ先生が声を掛ける。
「じゃ、デネーズにレッツゴーしようか。君たちの分も予約しといたからネ」
「お前たち、ファミレスデビューだな」
 頷きながら、話に聞いていたファミレス体験ができると期待で強面の頬を高揚させる軍団たち。強面なのにカワイイ「こわカワ」という新語が生まれそうな気配がする。
 そのとき、アイン君は、キッチンで鬼ならぬ人類の居ぬ間の「洗濯」に伝説の二時間ドラマ『肝っ玉家政婦』か『主婦の三田鴨』でも見ようとタブレットで動画サイトをチェックしていた。そこへメールの着信があった。カブ師匠からだ。しかも緊急メール。メールを開けて、そこに記されたURLをタブする。
「動画? 一体なにを……うぎゃぁぁー‼
 悲鳴を上げた。ちょうど、暇つぶしに海苔でも切ろうかとキッチンにやって来たカットちゃんが何事とアイン君の手元を覗き込んだ。
げっ⁉
 と呻いて、カットちゃん、メインアームの両ハサミを顔の開いて万歳、そのままフリーズした。
 続いてなんだ、なんだとキッチンへ駆けつけてきた人類一同が二体――いや、二人のただならぬ様子に、小さなタブレットの画面に群がる。
「「「「ぐえええええっっっー‼」」」」
 タマサカ邸が吹っ飛ばんばかりの絶叫大合唱が響き渡った。

 タブレットの画面の中で、小机を前に正座をした着物の男がぺこりとお辞儀をしている。
 ――ご無沙汰しております。皆様、お元気ですか。
 イケメン。どういう顔立ちかと問われても答えようがないがイケメン。捉えどころがないがイケメン。特徴がないがイケメン。しょうゆでも塩でもなく、水なイケメン。
 ――『少女デブゴンへの路』外伝『ミスター・スタンの辛えなる経歴』全一席、お付き合いくださいませ。
  パン、パパン!

 〈Fin〉

※ 番外編があるよ。


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