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貯め続ける老後不安という呪縛

今回は、経済コラムニストである大江英樹さんの著書
「90歳までに使い切る お金の賢い減らし方」
という本の内容を紹介します。

お金は、全ての人が生きていく上で必要なものですが、
そのお金を賢く減らすという変わった切り口の本です。
世の中には本当にたくさんのお金に関する本が存在しますが、
その種類は基本的に2つしかありません。

1つは、お金の増やし方に関する本です。
多くの人が、何とかしてお金を増やしたいと思っている訳ですから、
お金の増やし方に関する本が多いのは当たり前かもしれません。
そしてもう一つは、アンチお金主義と言うべきタイプの本で、
「お金が一番大切なものじゃないんだよ」とか、
「拝金主義なんて止めようよ」という感じの本です。

実は、お金至上主義も、アンチお金主義も、お金の呪縛に
囚われているという点では同じです。
お金を中心に私たちの人生を考えているから、お金の呪縛に囚われて
いるのですが、大切なのはお金自体(紙幣、貨幣)ではなく、
モノやサービスであり、それを提供してくれる人なのです。

今回の内容を通して、お金に対する不安を払拭していきましょう。





老後不安という物語

お金は使って初めて価値があるので、大切なものを犠牲にしてまで
ひたすら溜め込んでいる人は、お金から最大限の価値を
引き出せていません。

お金の本質を理解して、価値あるお金の使い方をするために、
私たちが考えなければならない重要な事実があります。
それは、「多くの日本人が、死ぬ時に最もたくさんお金を持っている」
ということです。

家計の金融行動に関する世論調査(金融広報中央委員会;2021年)では、
年代別の金融資産の保有額を中央値で見てみると、
60代が1,400万円、70代が1,500万円となっていて、
他の年代よりも高い数値となっています。
このデータから分かるのは、私たちは死ぬ時に最もたくさんのお金を
持っているということです。



やりたいことを我慢して、ひたすらお金を溜め込む生活や、
お金を追い求めるだけの生活が、幸せなことでしょうか?
預金通帳の数字が増えていくのを眺めることに、どれほどの意味が
あるのかということを、私たちは問わなければなりません。

思考停止でお金をとにかく貯め続けるのは楽ですが、あの世には
持っていけないのですから、お金をたくさん残して死んでしまうのは
大きな後悔が残ってしまうのではないでしょうか。

やりたいことを犠牲にしてまでお金を溜め込み、
増やし続けてしまうのは、実は大きな理由があるのですが、
それは一体なんだと思いますか?

・・・・・・

それは、「老後の不安」という幻想があるからです。

どこまで行っても解消する糸口の見つからない老後不安という
物語に脅かされ、ひたすらお金を節約し、引退した後も貯金しようと
考えた結果、死ぬ時に多くのお金を残していたというのでは
あまりにも悲しすぎます。

将来の事は誰にも分からないので、不安が生まれてしまうのは
当たり前かもしれませんが、最近ではマスメディアが「老後破産」とか、
「老後貧乏」などという言葉を使って私たちの不安を煽ってきます。



老後のことを不安に思ってお金を貯める行動は理解できますが、
そのような気持ちにつけこんで、変な金融商品を買わされてしまったり、
本来は必要ない保険に入ってしまう可能性も出てきます。
さらには、怪しい投資話に騙されてお金を全て失ってしまったという
ことにもなりかねません。

老後不安という物語は、金融機関の営業にとって非常に
都合の良い物語なので、老後不安という武器を使って
「今のうちから投資しておかないと、老後の資金が
絶対に足りなくなってしまいますよ」
などと言って
私たちの不安を煽り、手数料の高い(損するかもしれない)
金融商品の購入を一生懸命勧めてきます。

結果として、果てのない不安からお金を増やし続けることに
意欲を燃やし続けてしまい、死ぬ時が一番たくさんお金を持って
いるという状態に陥ってしまうのです。






過剰な不安は必要ない

自営業の人が公的年金だけで生活していくのは難しいかもしれませんが、
サラリーマンの人はあまり心配する必要はありません。
厚生労働省のモデル年金額では、妻がずっと無職(専業主婦)だった
サラリーマン家庭の年金支給額は、月額で約22万円です。



海外旅行に毎年行くとか、頻繁に豪華な外食をするのでなければ、
日常生活を行うのに十分な金額です。
また、年を取るにつれてあらゆる欲望は低下していきますから、
遊興費などへの無駄遣いや、食費などへの支出も減っていくでしょう。

昔は、あのブランド品が欲しいとか、人気の商品を買いたいと
思っていた人も、年を取ると興味が無くなってきます。
昔はたくさん食べていた人でも、年を取ると食が細くなって
食費も掛からなくなっていきます。

死ぬ時にちょうど財産を0円にするのは難しいと思いますが、
仮に70歳で全てのお金を使い切ってしまったとしても、
公的年金は死ぬまで支給されます。
年を取れば取るほど色々な欲望は減退してお金も必要なくなりますから、
年金の支給が開始されて暮らしていけることが分かったのであれば、
何歳でお金を使い切ってしまっても生活に困ることは無い筈です。

とはいえ、将来何が起こるか分かりませんから、不測の事態に備えて
ある程度の現金を持っておくことは必要かもしれませんが、
病気や事故、火事など自分のお金で賄えないような不幸に備えて
各種保険もありますから、必要以上に不安を抱かなくても大丈夫です。

人生の後半に向けて考えるべきことは、お金を増やすことではなく
お金をどのように上手に使っていくかということです。
お金は使い方によって、そこから引き出せる価値や幸福感が
全然違ってきますから、上手に使えば人生を素晴らしいものに
彩ってくれるでしょう。

多くの人は、なかなかお金を上手に使うことが出来ていません。
学校の授業でも、社会に出てからも、お金の使い方を習うことは
ありませんから、上手なお金の使い方を知らないのです。






迷わず〇〇にお金を使え

下手なお金の使い方をすれば、ただお金だけが減って
何の幸福感も得られないということになってしまいます。
世の中の人がどのようなことにお金を使っているのか?
冷静に分析してみれば、多くの人がどうでもいいことに
お金を使っているのではないでしょうか。

「どのようなことにお金を使うのが正解なのか」ということを、
私たちが教わる機会は無かったので、それはある意味
仕方のないことかもしれません。
ですから、ここからは最高のお金の使い方を
具体的に紹介していきます。



私たちが、人生でやるべきことは「思い出を積み重ねること」です。
愛する家族や友人と一緒に過ごした素敵な思い出こそが、
人生の旅立ちの時に一番の幸福感をもたらしてくれるのです。

真の幸福や喜びというのは、人間関係からしかやってきませんので、
いくらお金を溜め込んでも、いくら高い地位についても、
どこか満たされない思いが続くだけで、本当の幸福感や喜びは
得られません。
大切な人と一緒にいろんな体験をしたり、普段は出来ない貴重な思い出を
作るには、どうしたってある程度のお金が掛かりますから、
その思い出を作るために費やすお金を惜しむべきではありません。

何かを買うよりも、体験や思い出にお金を使った方が
幸福感や満足感が持続するということが分かっています。
ブランド品を買った瞬間は確かに嬉しいでしょう、
しかしその満足感は長続きせず、いずれ薄れていく運命にあります。
しかし、体験や思い出はいつまで経っても色褪せないのです。

著者は、新たな学びや多くの経験を得られるということで、
積極的に旅行することをおススメしています。



私たちの人生というのは、選択と判断の連続です。
自分にとって、どんな選択が最も良いのかを判断し続けるのが
人生であると言っても過言ではありません。
そして、その判断には何かしらの材料を参考にしたい訳ですが、
この場合の材料というのは、自分の人生経験以外ありません。

つまり、自分の人生経験が正しい判断力を養ってくれるのです。
多くの経験を積めば積むほど、優れた判断力を手に入れることに
繋がるのですから、やはり経験(体験)するというのは重要なことです。





幸福感はお金より大切

お金持ちになることが人生の目的になってしまっている人が
結構いるかもしれませんが、人生の目的はお金持ちになることではなく
幸せになることです。

幸せになるための1つの条件として、お金が必要になってくるかも
しれませんが、私たちが生きているのは幸せになるためだということを
決して間違えてはいけません。

「何が幸せなのか?」というのは人によって異なるので、定義するのは
簡単ではありませんが、幸せはとても主観的なものなので、
他人からは本当のところが分かりません。
ですから、大切なのは幸せそのものではなくて、
幸福感を持って生きられるかどうかということになります。

私たちが幸福感を得られるのは、大きく分けて以下の2つです。

1.自分の好きなことをするとき
2.承認欲求が満たされたとき

自分が好きなことをしている時に幸福感が得られるというのは、
わざわざ説明するまでもありません。
2の承認欲求というのは、「人に認められたい」「感謝されたい」
「他人から良く思われたい」などの気持ちです。

そもそも人間というのは、徹底的に社会的な動物ですから、
独りきりで生きていくことなど出来ません。
だからこそ、世の中の人から認められたり、尊敬されたりするのが
幸福感になるのです。

私たち人間が、何かをするときに一番モチベーション(やる気)が
上がるのは、人の役に立っていると感じられたときです。
また、直接的に「ありがとう」と感謝されなくても、自分が人のために
役立っているという満足感が、とても大きなものだと分かっています。
綺麗ごとではなく、誰かの役に立ったり、誰かに感謝された時に、
私たちは前向きに頑張ることが出来るように脳が設計されていますので、
例え給料の良くない仕事でも、誰かの役に立っていると感じられれば
承認欲求が満たされて幸福になります。

そして、幸福感というのはお金よりも遥かに大切なものですから、
お金のために仕方なく(やりたくもない)仕事をやるというのは、
幸福感という観点からは間違った行動になります。






健康はお金より大切

一度でも健康を害したことがある人なら、健康こそが一番大切な
ものであると理解しているでしょう。
著者は、これまで多くの富裕層たちと交流してきましたが、
中には健康を損なっている人もいました。

そのような人は口を揃えて、
「もし健康が回復するのなら、いくらお金を使っても構わない」
「無一文になってもいいから健康を取り戻したい」
と言っていたそうです。

現在健康な人は、健康でいることの価値が理解しにくいかも
しれませんが、健康でいることは当たり前ではありませんから、
失って初めてその大切さを思い知らされるでしょう。
例えば、人生に成功して多くのお金を得られるようになったとしても、
調子に乗って暴飲暴食などの不摂生を続けていれば、
間違いなく健康を害してしまいます。
いくらお金を持っていても、健康でなければ幸せではありませんから、
10億、20億というお金を持っていたとしても、
満足できる使い方は出来ないのです。

そして、一旦健康を失ってしまうと、元の健康状態には
戻れなくなってしまう可能性があったり、加齢(老化)と共に
やりたいと思っていたことが出来なくなってしまう
可能性もあります。

ですから、「行ける時期に行きたいところに行かない」
「やりたいことをしない」というのは、人生において大きな損を
していることになります。

健康が失われないうちに、お金をしっかり使いましょう。





時間はお金より大切

「時は金なり」という言葉がありますが、時間というのは
お金よりも遥かに大切です。
このことを深く理解していただくために、知っておいてほしい
考え方があります。

それは、「機会費用」というものです。
機会費用とは、一つの行動を選択したことによって
失われる利益のことです。
具体的に言うと、例えば高校を卒業した時に、大学に行くのか
就職するのかを選ぶ必要があったとして、大学に行くと決めた時に、
就職していれば貰えたであろう4年分の給料は入ってきません。
この、大学に行くことで失う4年分の給料が機会費用に当たります。

私たちが、いつでも機会費用を考えておかなければいけないのは、
時間が有限であり、二度と取り戻すことが出来ないものだからです。
時間という限りある資源を有効活用するために、
機会費用という考え方を持つことは重要です。

当たり前の話ですが、時間はお金と違って増やすことができないし、
将来に備えて貯めておくこともできません。
お金は失っても取り戻す機会がいくらでもありますが、
時間はそういう訳にはいきません。

生まれた瞬間から刻一刻と失われている時間を有効活用するために、
「今どうすることがベストな選択であるか?」
常に考えていく必要があります。



終わり


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