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 師走から新春にかけては、あまり覚えていない。多忙だったわけではないけれど、あの人は僕が最初から高校受験をするなんて、鼻から考えていないようだった。 三者面談のときに一度だけあの人は学校に出向いて、長友先生と対談し、あの人は血相を変えて反抗した。

 先生も長年の教師生活で、そんな親を見たのは初めてだと言わんばかりに、眉根を寄せ、憤っていた。期末テストも満点を採り、あの人から高校進学を無碍に反対され、気落ちしがちの僕に何度か、慰めてくれた。来年の今頃は受験さえままならないかもしれない。

 不安がよぎると身体中にどうしようもなく、悪寒が走った。時折、本を読み耽る、日もあったものの、それ以外はほぼ勉学に邁進していたといって過言ではない。 お正月も銀鏡神社に初詣には行ったものの、次々と襲いかかかる不安感に苛まれ、それどころじゃなかった。

 白梅の花の硬い蕾が綻び、茶褐色の山々が芽吹こうと、春光が濃ゆくなりつつある。冬枯れの川岸に気が早い菫の花が咲いていたので、歳月の流転を目の当たりにした。三年生になったら、あの人もさすがに受験を承諾してくれる、とかすかに期待していたのが、何とも愚かだった。

 勉強だけは裏切らない。ささやかな信念さえも、打ち砕かれたのはあの日からだった。

 春休みにも入り、銀鏡川も青銅色の濃さが増すようになった、ある春の麗らかな日、休日の勉強時間は六時間を超える日もあった。

 ちょっと無理しているかもしれない、と周囲から心配されるときもあったが、僕は委細構わず、勉強続行に明け暮れていた。その日の夜、あの人から凄まじい剣幕で怒鳴られ、とうとう諍いに発展した。あの人は僕の部屋に押し入り、満面朱を注ぎながら、僕にとあるものを蛍光灯の下に晒した。

「あんた今時、古いのね。こんな駄文を書き散らして」

星神楽㊼ 透明なノート|詩歩子 複雑性PTSD・解離性障害・発達障害 トラウマ治療のEMDRを受けています (note.com)

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