見出し画像

母の名は。 第10回・長崎のお芋

早いもので10回目の「母の名は。」

今日は長崎のじゃがいもの話をします。

じゃがいもといえば、北海道の印象が強い、強すぎるが

実は長崎も頑張っておるので。

以前の回でちらっと書いたが

じゃがいもは、1600年頃にオランダ商船に乗ってインドネシアのジャカルタ経由で長崎にもたらされたとされている。

ジャカルタ⇒じゃがたら⇒じゃがたらからきたいも⇒じゃがたらいも⇒じゃがいも

ジャガっていう音が日本じゃないものな。

じゃがいもは冷涼な気候を好むため、寒高冷地に普及していき、九州はサツマイモでしょ?なイメージになったが

じゃがいも伝来の地はいまでも

北海道に次いで、第2位の生産量を誇るじゃがいもの産地だ。

……うん、2位はすごいんだけどさ、生産量の数字で見ちゃうと

1位北海道 全国の57%

2位長崎 全国の7%

圧倒的!圧倒的王者・北の王国!

でもっ、でもね、

長崎にできて

北海道にできないことがある。

じゃがいを生育できる気温10~23℃の時期が

年2回ある

だから、春作と秋作の二期作ができる!

6月上~中旬に収穫する春作のいも

それを種芋にして

9月上旬に植付ける秋作

これはすごいことですよ

北海道の

5~6月に植え付けて9~10月に収穫する

春作だけだったら

貯蔵している間に芽が出てしまって

次の年の5月や6月には

売れる芋がなくなっちゃう!

一年中、じゃがいもがスーパーで安くたくさん売られているのは

端境期を埋めて一年中新鮮なおじゃがを提供してくれる

長崎のおかげなのだ。

収穫時期をずらせるように、

畑にビニールみたいなのを張るマルチ栽培などを活用している。

ありがとうごぜぇます。

だから春のじゃがいもは産地を見るとだいたい九州産

気候が違えば

品種改良、新品種の育成の仕方も北海道とは異なる。

長崎ならではのお芋を見ていこう。

奨励品種


各都道府県がその都道府県に普及すべき優良な品種として決定した品種のこと奨励品種(しょうれいひんしゅ)という。

だいたいは米、麦、大豆の主要農作物で定めるのだが、

長崎県の場合、じゃがいもで

デジマ

ニシユタカ

アイユタカ

アイマサリ

を奨励品種に。

メークイン

アイノアカ

普賢丸

さんじゅう丸

を准奨励の認定品種に定めている。

……メークイン以外聞いたことねぇ……って?

で、でも

3月頃に「新じゃが」食べません?

だいたい品種名を名乗らないんだけど

あの皮付きのままでも食べられるみずみずしいお芋は

この中にいますよ。

さあ、誰でしょう?

めげずに紹介していこう。

デジマ


マジデ長崎らしい名前ですねぇ、

鎖国をしていた江戸時代、長崎の港に設けられた外国船との交流の窓口・出島なんて

母:大イモで多収、食味も良い「北海31号

父:大イモで春、秋栽培でも多収の「ウンゼン

お母さんは北の王国の御方だったんですな。

交配したのは北海道、育成したのは長崎という

北海道生まれ長崎育ちのデジマさん

1971年に登録された。

食味も外観も良いことから暖地の主力品種として栽培、

昔は新じゃがと言えばデジマだった。

男爵より目が浅くてなめらかな外観

以前「愛の小町」というじゃがいもを買ったことがあって、

なんですかこの新品種は!と

調べたらデジマの育成地である長崎県愛野市で販売されているデジマのことだった。



子供のニシユタカの栽培が増えてからは、作付けは減少している。


ニシユタカ


母:外見、食味ともに良い「デジマ

父:たくさん収穫できる「長系65号」

さきほどのデジマ母さんから生まれたニシユタカくん

両親の良いところを受け継いで、

たくさん収穫できて食味が良いお芋になって1978年に登録された。

名前もそのまま、西でたくさん収穫できるから。

九州産の新じゃがとして出回っているのは、

たいていこれです、ニシユタカくんです

一部の芋研ゼミ生は

品種を表記せず「じゃがいも」「ばれいしょ」としか

書かれていないお店に敏感ですが(名乗れ―!だいたい男爵だけどー!)

新じゃがに関してはもう

みんな名乗らないよね、なんでだよ

各品種で早掘りしたじゃがいも、収穫したてのじゃがいものことも新じゃがって言うと思うんだけど

もうスーパーマーケット的には新じゃが=ニシユタカくんですね。

ホクホク感が少なくシャキシャキとして

細切りのサラダや炒め物に合うような食感

煮込みにも向いている。

そうか病やウイルス病抵抗性なし

ジャガイモシストセンチュウにも抵抗性もない、ううっ。

戦うものが多すぎるわ。

アイユタカ


ユタカシリーズ!

こちらもデジマ母さんの子供です。

母:「デジマ

父:ジャガモシストセンチュウ抵抗性遺伝子を二重式に持ち、外観、食味に優れる「長系108号」

……お父さんを見てわかるかい?

アイユタカくんは

ジャガモシストセンチュウ抵抗性を持っている!つえー!

2003年登録

加熱した時の火の通りが他のじゃがいもより早く、味の染みこみも良い。


脱線するがユタカシリーズには

セトユタカ」もいて

お父さんがデジマと同じ「ウンゼン」

長崎で育成されたもののイマイチな結果で試験を中止していたら

岡山県で独自の検討が続けられ、1977年に瀬戸内海で豊作であるようにと登録された、そんな子もいる。

アイマサリ


もう一つの奨励品種

2017年に登録。

母:「愛系158」

父:さっき出ました「アイユタカ

愛があふれてる!

これは新品種なだけあってまだ食べたことがないな

でもお父さんのアイユタカに引き続きジャガイモシストセンチュウ抵抗性ありな上、

Yモザイク病にも強いので、

そのうち食卓にお目見えするかもね。

準奨励品種となると

もっと未知の世界

今後食べるようになった時のために調べて書いとこ

ついてこれそうな人は一緒に九州の知識を吸収しようぜ(きゅうしゅうだけに)

アイノアカ


母:デジマ

父:ノーランド

デジマはすっかりお母さんですね~

1994年登録

まだ食べてない

さっきからアイアイ言っているけどアイノというのは育成地の愛野町から

表皮が淡赤色

西の子にしてはビタミンCが多く、デジマの2倍!

普賢丸


母:アトランチック

父:P-7

デジマとよく似ていてパッと見同じように見えるらしい。

1999年登録

まだ食べてない

このひとの特徴は、暖地育成品種で初めてのジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種!!

日本で初めてはキタアカリだけど、西での初めては普賢丸ね、ふむふむ。

さんじゅう丸


母:長系107号

父:春あかり

見た目が男爵よりも卵形で少し長く、メークインに比べると短く寸詰まり

男爵より粘質で煮崩れしにくいけど、メークインより粉質で表面は崩れる

中間的な子ですな

2010年登録

まだ食べてない

ふるさと納税の返礼品にあったので、申し込むか少し迷っている

ちなみに、さんじゅう丸のお父さんの

春あかり


母:そうか病に強い「T8973-20」

父:ジャガイモシストセンチュウ抵抗性ありの「普賢丸

2002年登録

まだ食べてない

肉色はやや濃い目の黄

全国に春を届ける新じゃがのイメージに

ジャガイモシストセンチュウ抵抗性があるから「あかり」がついてるの

あっかりーん!

今、九州の品種はそんな感じですね。

ながさき黄金は前回(母の名は。第9回ながさき黄金とホッカイコガネ)で紹介したし

もう1品種は後日あらためて

デジマの前はどうだったのかなーと思って調べていたら

ウンゼン

シマバラ

タチバナ

チヂワ(父:ウンゼン)

メイホウ(母:チヂワ)

もう栽培されなくなってしまったいもたちだけれど

名前がしぶかっこいいな!

九州のお芋は2期作をやるせいで

後に植える作物を準備したり

梅雨期に入る前に収穫するために

葉が枯れるのを待たず

青い葉がまだたくさん茂っているうちに掘り取ってしまうので、

すっきりフレッシュ味なように思う。

九州の人は「これぞじゃがいもの味」として育つんだろうな。

北海道のでん粉しっかりのホクホクとはまた違う楽しみがある。

母の名は。バックナンバー

第1回・キタアカリ

第2回・スノーマーチ

第3回・男爵いも

第4回・紅丸

第5回・インカのめざめ

第6回・ノーザンルビーとシャドークイーン

第7回・シンシアとフランスのお芋

第8回・メークイン

第9回・ながさき黄金とホッカイコガネ


サポートいただいた分は、美味しいものへと変身し、私のおなかに消えた後、文字になって出力されます。