マガジンのカバー画像

Bounty Dog【アグダード戦争】

165
遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

Bounty Dog 【Muchas gracias. Te amo.】 10

10

 ナスィルは父のタラルと同じように、負けが認められなくて擬似戦争ボードゲームの再戦を何度も申し出た。だが何度再戦しても、ジャックに勝つどころか不利にさせる事すら出来なかった。
 ジャックは強敵を超えて正しく無敵だった。何度対戦しても絶対に勝てない。相手は『諜報員』の使い方が非常に上手かった。大抵の人間は戦場で闘える駒を『諜報員』にして、典型的なスパイのように動かす。だがジャックは”徴兵”と

もっとみる

Bounty Dog 【Muchas gracias. Te amo.】 8-9

8

 ロボットも、背が低かった。ジャックと丁度同じくらいの背丈をしている。
 義父のタラルに『絶対に近付くな』と忠告されたロック鳥というロボットは、凶暴な巨鳥でも凶悪なメカでも無く、長方形の紙袋を被っている何処からどう見ても己と同じ人間の子供だった。裸足で、手足の肌は己と同じ小麦色だった。日に当たっていないからか小麦色だが肌が少し青白い色になっていて、蓬色の長袖パジャマを着ている。
 パジャマは

もっとみる

Bounty Dog 【Muchas gracias. Te amo.】 5-7

5

 ジャックは義父の約束を守って、2階の端に梯子と扉がある屋根裏部屋に近付かずに、新しい家で暮らした。義父に貰った開かない手錠を宝物にして何時も手に持って眺めては、大人になって国際警察官になった未来の己を想像した。
 未だ小さな切り込み1つ入っていないキラキラした将来の夢は、ジャック少年の心を物凄く幸せにしてくれていた。養子として己を迎えてくれた義理の両親もとても優しい人で、毎日がとても幸せだ

もっとみる

Bounty Dog 【Muchas gracias. Te amo.】 3-4

3

 ジャック・ハロウズと名乗った少年は、ナシューと同じ7歳だった。誕生日も偶然だが、同じ6月5日。背丈も殆ど一緒で、髪の色と顔の造形以外は、まるで双子のように2人は似ていた。
 その日は、ジャックとナシューの誕生日だった。ダッチオーブンの中から玄関にまで香ばしい匂いが漂ってくる丸鶏のグリルは、今日6歳から7歳になった己の為に準備してくれた御馳走なのだと、ジャックは心の底から思って喜んだ。
 半

もっとみる

Bounty Dog 【Muchas gracias. Te amo.】 1-2

 4:09:08
『ナシュー……ナシュー……確実に、確実にこの私の忠告を見つけて聞いてくれてはいないだろう。だけどそれでも私は、生きている内に君に最後のメッセージを残しておきたい』

 4:16:20
『御両親が遭った死亡事故。公共の報道ではトラックと衝突したとされている。だが警察の更に上となる我々の所属する特殊機関の調査では、車の内部にあった荷物のいずれかに軍用の強力な爆発物が入れられていた可能

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】305-306(了)

305

 2000年以上も続いていた南西大陸中東部”アグダード地帯”の戦争が、遂に終わった。3勢力の大将を全て”掃除”した民間革命部隊は、共に闘ってくれた『世界生物保護連合』3班・亜人課の保護官2人と特別保護官2体と一緒に、何日も打ち上げパーティをした。
 打ち上げパーティにはコルドウ達も参加した。ヒュウラがミディール経由でモグラ達に呼び掛けて、モグラ達は主食と化している生のサツマイモを食べて、

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】303-304

303

 中央大陸を主な生息地としており、世界中で過剰繁殖している猫の亜人『喵人(みゃおれん)』リングは、半年前に保護組織の3班支部を壊滅させた”最凶の魔法使い鼠”『雪鼠族(せつそぞく)』こと”ローグ”の生き残りを、打撃式麻酔針で眠らせて捕獲していた。今回も、ヒュウラの代わりに全てを終わらせる”仕上げ”を担当する。
 今回の彼女には、後援者”サポーター”が居た。人間の服と服屋とセールが好き過ぎて

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】301-302

301

「軍曹も曹長も、オイラの鼻を殴ってくる。だけど、あなたよりは遥かに優しい」
 子のイシュダヌは”掃除対象”である親のイシュダヌの背中を突撃銃で撃ちながら呟いた。親のイシュダヌは頭の先から足の先まで血塗れだった。”幻の操り人形”に向かって「助けて」「直ぐに来て」「今直ぐ助けて」と喚いている。
 死に掛けているのに走る足を一向に止めない相手に、子のイシュダヌは弾丸の雨を撃ちながら、更に呟いた

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】299-300

299

 現在、イシュダヌ親子は3階に居た。親のイシュダヌは麻薬奴隷商会本部から脱出する事だけ考えて降りているようだ。だが地上にはコルドウの群れが大勢居た。仲間を大量に殺した親のイシュダヌに向かって威嚇声を出しながら、獲物の到着を待ち構えている。
「焼きそば屋よ。儂の神輿が通る道の上で、営業をするな。貴様の位置は端だ!屋台は道の端から動くな!!」
「おおおおおお!獲物待ち、おーる、おん!!おおお

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】297-298

297

 ヒュウラの時が、また止まる。
 紛争地帯で出会った己の”友”は、イマームの兵にターゲットだと間違えられて狙撃された。今の彼は暴走を辞めたが、血溜まりに沈みながら俯せになって、全く動かなくなっていた。
 未だ名前を教えられていない”準・主人”を、ヒュウラは失った。出会った時に命を救った相手なのに、此処では命を救えなかった。デルタと同じように、また唐突に失った。喪失”ロスト”した。軍曹も『

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】295-296

295

 ヒュウラの精神も、過去の現実世界に飛んだ。着地した場所は、未だ”主人”が生きていた頃。新人保護官だったミト・ラグナルによって狩人達が麓に暮らしている山から保護されてから、当時『世界生物保護連合』3班の情報部に所属していたシルフィによって『14日間限定の特別保護官』に任命されて直ぐの頃。
 ヒュウラが今でも己の”主人”だと思っている、当時『世界生物保護連合』3班現場保護部隊の隊長をしてい

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】294

294

 戦況が、最悪の側にひっくり返る。軍曹の頭が突然狂った。PTSDの発作が爆発した彼が、盛大に”お暴れ”をし始めた。

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】292-293

292

 ヒュウラは、アグダード地帯に初めてやってきた当時は心が酷く弱っていた。ローグに殺された”主人”の影を追い掛けて、自死をして主人の元に行きたいと想い続けていた。
 そんな彼の心を救済した存在は、軍曹と己を呼ばせて呼ばれているアグダード人の武装兵だった。同じ武装兵である親友には”ガビー(アホ)”と蔑んだ渾名で呼ばれてもいるが、非常に明るく情も非常に厚い純粋な性格をしている相手に己の全てを肯

もっとみる

Bounty Dog 【アグダード戦争】290-291

290

 汚い緑色をした布の中に着ている純白のドレスは、所々が血に染まって赤黒い真鱈模様が出来ていた。元々赤が混じっている長い白髪も、血に染まって所々が真鱈な赤色になっている。
 実の子が、梁の上から雨のように突撃銃から鉛玉を猛毒親に向かって撃ち続けてくる。親である麻薬奴隷商会勢力長のイシュダヌは、配偶者を殺害後に政治家にした長男経由で北東大陸の行政機関を操って親権を回収した、同じイシュダヌ姓に

もっとみる