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Bounty Dog【アグダード戦争】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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2022年8月の記事一覧

Bounty Dog 【アグダード戦争】159-160

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 執事風学芸員兼、死刑執行人兼囚人監視員兼囚人の世話係という役割がやたら多いヒシャームは、己の中では1つしか本業は無いと、ファヴィヴァバに仕えている今も強く思っていた。
 だが、其れをするのは、今はたった1人に対してだけであるとも強く心に決めていた。故に、他の役割を担う。これから担うのは新たな役割であり、ファヴィヴァバが己に課している役割でもあった。
 博物館を荒らす者や脱走者等を処分す

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Bounty Dog 【アグダード戦争】157-158

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 地になる死の牢屋からおよそビル100階分程の高さがある天井に向かって、リングは延々とヒュウラを背負って壁登りしている。物凄く長い壁なので、2回程疲れて壁に足を付けたままビル5階分程滑り落ちていた。今はビル80階に位置する所まで、猫の亜人は狼の亜人を背負いながら頑張って登り続けている。
 ヒュウラはリングに背負われながら、仏頂面で天を見上げていた。ヒュウラは背中に取っ手が沢山付いた巨大な

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Bounty Dog 【アグダード戦争】154-156

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 保護官2人の予想通り、翌朝1番初めに起きたのは、猫の亜人リングだった。朝日が出る前に本当に起きてきた猫は、スッキリした顔で清々しく起きるなり、ニャーニャー、ニャーニャー大きな声で鳴き始める。
 『頻繁に鳴くのは生理現象でどうしようも無い』のだと、かつてヒュウラはリングの群れの長だったククという老猫に教えて貰っていた。が、やはり朝の早くから耳元で頻繁に鳴かれると、物凄くうるさい。
 猫鳴

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Bounty Dog 【アグダード戦争】150-152

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 シルフィ・コルクラート保護官、ミト・ラグナル保護官、特別保護官兼超希少種ヒュウラ、特別保護官兼超過剰種リングは、全員ヒシャームによって最初に落とされた牢獄部屋に戻された。全員、抵抗は一切しなかった。死刑が執行される未来の変更を諦めていた訳では無いが、一旦従ったつもりになって、敵の目が離れた隙に行動する方が賢明だと考えた。人間も亜人も。ーー現実でも創作物語でも余りに頻繁に使われ過ぎている

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Bounty Dog 【アグダード戦争】148-149

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 軍曹は輩座りでソファーに土足で乗るという御行儀の底辺を貫いたまま、一点を凝視した。並べ置かれた剥製の列の中に、肘掛け付きの立派な椅子が一脚置かれている。
 今居るこの応接間の扉のように、金箔が貼られて宝石を散りばめられた、悪趣味の極みのような椅子は、同じく金で出来ている、何かを椅子に縛って括り付ける為の紐が5本垂れている。
 場所は丁度、座った際に両手首と両足首、首が付く所にあった。王

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Bounty Dog 【アグダード戦争】146-147

安物買いの銭失い。安物ばかりしか買わないと、時に命すらも簡単に失う。

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 四隅が何も掴むモノが一切無い壁に囲まれた超高所から転落しているというシーンは、人間の場合は地に叩き付けられて潰れた上に何度も踏み付けられたような、バラバラグチャグチャになる”全身を強く打った”状態になって漏れなく冥土に直行するだけの絶望しか無いシーンだが、亜人の、特にヒュウラにとっては寧ろ得意中の得意である脅威打開

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Bounty Dog 【アグダード戦争】144-145

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 “ガイ”は見事なステップを踏みながらパレード会場で踊り出した。スピンとドリフトを猛烈な回数で細やかに行う。神がかり的なテクニックでトラックを完全に生き物に変えたシルフィ・コルクラートの運転技術によって、地面に落ちたミサイルの衝撃波を受けてもちょっと揺れる程度でしか無い軍用トラックは、抜群に屈強な筋肉ムキムキマッチョの人間か亜人の男を彷彿とさせるモノにしか見えなくなった。
 鼻血が出る程

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Bounty Dog 【アグダード戦争】142-143

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 史上最高に屈強で良い男であるシルフィの“ガイ”が、クラクションという鼻歌を歌った。軽快なクラクションのメロディと鋼で出来たホイールという筋肉で回し続ける、爆弾を幾ら受けても全く穴が空かない強力な特殊加工が施されたタイヤの動きにギャップがあり過ぎる。
 軍用トラック・”ガイ”は、ファヴィヴァバ軍が左右から猛攻撃してくるだろう、一本道で始まるデスマーチパレードに喜んで参加した。”ガイ”が出

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Bounty Dog 【アグダード戦争】140-141

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 ミト・ラグナルは上司と未だ認めていない年上女性保護官に、素直に従った。準備の為に荷台の後方を向きながらミサイルの位置を調整していると、気配を感じて背後に振り向く。ヒュウラが荷台に初めて振り返ってきていた。シルフィが肩を掴んで無理矢理振り向かせていた。
 何時もしている仏頂面で此方を見てきた時、少女の心に怒りが焚き付けられた。焚き付けられたのは2回目だ。1度目は数ヶ月前。北西大陸の川でし

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Bounty Dog 【アグダード戦争】139

139

 ミトが荷台からヒュウラの背を見つめる。己の願望だったヘルファイア花火を見せ付ける事は成功したが、馬鹿犬が凄く花火を気に入ってしまった。通行を要望されたラストミッション地点で任務に失敗した際の全滅率は100%だろうと確信する。後悔の念を酷く感じる。
 心の中でヒュウラに話し掛けた。何時もの優しい保護官の甘やかしでは無く、至極厳しい言葉を護衛している身勝手な亜人に向かって呟く。
(ヒュウラ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】138

138

 普段は”人間専門の清掃員”をしているアグダード人のバッター選手は、世界の野球ルールなんて知ったこっちゃ無かった。先ず打ち返そうとしているミサイルはボールじゃ無い。起爆する部分に何かぶつかれば、即座に爆発して粉砕死する凶悪な兵器である。
 其れでもピッチャー兼ファヴィヴァバ軍の兵士が監視塔から見つけた軍曹に向かって発射したヘルファイア1発目に対して、彼はその無茶苦茶な命懸けの野球プレイを

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Bounty Dog 【アグダード戦争】137

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 ミトは不意に思い出した。己の近くで楽しそうに鉄パイプを振り回してケラケラ笑っているアグダード人の男の渾名は『軍曹』、そしてアグダード独自語で”アホ”という意味である『ガビー』だが、トラックの荷台と運転場所を繋いている鳥居とリアウインド越しに背を向けて座っているのが見える、助手席のヒュウラにも渾名のように言われていたものがあった。
 ーーリーダーに。時々、指示無視をして好き勝手な事をする

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Bounty Dog 【アグダード戦争】135-136

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 シルフィが運転する小さな軍用運搬トラックは、まるで生き返ったように滑らかに動き出した。だが”滑らか”は最初だけだった。ゴミ山から出た途端に、エンジン音を喚き上げて、猛スピードで砂漠の地を走り出す。
 タイヤが速攻地雷を踏んで、弾けた爆弾がタイヤを焼き焦がす。車の動きが早過ぎて、イシュダヌが撒く大半が対人用の即死爆弾の威力では、戦地を走れるよう特殊な素材と加工を施している軍用トラックのタ

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