Bounty Dog 【アグダード戦争】159-160

159

 執事風学芸員兼、死刑執行人兼囚人監視員兼囚人の世話係という役割がやたら多いヒシャームは、己の中では1つしか本業は無いと、ファヴィヴァバに仕えている今も強く思っていた。
 だが、其れをするのは、今はたった1人に対してだけであるとも強く心に決めていた。故に、他の役割を担う。これから担うのは新たな役割であり、ファヴィヴァバが己に課している役割でもあった。
 博物館を荒らす者や脱走者等を処分する、殺し屋。今のヒシャームはそれとして、”敢えて逃がした”死刑囚達に向かって地下通路の一部屋で、博物館に改造中のラドクリフ邸の屋敷全体図と地底通路が描かれた地図を見つめながら、呟いた。
「御客様方。当館で楽しめるのは展示品だけでは御座いません。今から存分に其方もお楽しみ頂きましょう。
 落とし穴は前菜(オードブル)前の小前菜(アミューズ・ブッシュ)に過ぎません。少々コストの削減をファヴィヴァバ様にされてしまっておりますが、当館は展示品と屋敷を守る為に防犯装置をふんだんに取り入れております。
 どうぞ心行くまで、心行いてもお亡くなりになるまでお召し上がり下さい。無数の罠が仕掛けられた、この『カラクリ博物館』のフルコースを」
 ヒシャームが居たのは機械の操作室だった。幾つかのスイッチを起動させる。防犯システムが作動したと伝えるアラーム音が、地下通路でやかましく鳴った。
 唯、ファヴィヴァバは地上に建つ屋敷の内部にまで警告音が響かないよう、屋敷の警報装置は全部外してしまっていた。巨大な屋敷の隅々まで装置を付けておくと、兎に角電気代が掛かる。ケチなデブは非常に大事なものにすら、支出削減を最優先していた。

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