Bounty Dog 【アグダード戦争】150-152

150

 シルフィ・コルクラート保護官、ミト・ラグナル保護官、特別保護官兼超希少種ヒュウラ、特別保護官兼超過剰種リングは、全員ヒシャームによって最初に落とされた牢獄部屋に戻された。全員、抵抗は一切しなかった。死刑が執行される未来の変更を諦めていた訳では無いが、一旦従ったつもりになって、敵の目が離れた隙に行動する方が賢明だと考えた。人間も亜人も。ーー現実でも創作物語でも余りに頻繁に使われ過ぎている、極めてベタな考え方だが。
 学芸員兼”処刑人”のヒシャームは、施錠した鉄格子に付いた電撃装置のスイッチをONにしてから、優雅だが不気味さも併せ持っている太めのオーケストラ指揮棒のような道具で左の掌を随時叩きながら、リングに床に下ろされたヒュウラに向かって言った。
「殿方。処刑は明日の予定で御座いますが、それまでは出来る限り苦痛を和らげさせて頂きます。直ぐに足の怪我に効くお薬と治療用品をーー」
「ブニャー!!こいつ、ヒュウラ!ニャー、リング!あれミト、こっちシルフィ!お前、名前覚えて呼べ、ニャー!!」
 人間が相手を己より上の存在として扱う時に使う『敬語』というモノを全く知らない猫は、名前を聞かずに覚えずに呼んでもこないヒシャームを、逆に非常に失礼な人間だと思って”叱った”。ヒシャームは猫に名前を呼ばない無礼者だと怒られて、目を丸くする。人と亜人の大きな価値観の違いを感じたヒシャームは、素直に己の完璧に等しい丁寧な対応を”無礼”だとして、猫に丁寧に詫びた。
 一度牢屋の奥に広がる闇の中に入り、5分程して、ヒシャームは牢屋に戻ってきた。大量に抱えて持っている外傷用の治療薬と医療ギプス、包帯など一式を、鉄格子の電撃装置を一度切ってから、隙間から1つずつ、中に丁寧に入れてきた。ミトとリングが受け取る。ヒシャームがヒュウラにくれた物は、ミトとシルフィも任務で怪我をしたら使っている、先進国の有名ブランドが製造して世界中の医療機関で当たり前のように処方されている、極めて真面で馴染みのある医療用道具だった。

ここから先は

5,991字

¥ 100