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戦略的思考をサポートするABMの3つの形態

※写真は能登ワインのワイナリで撮ったぶどう。

前回までに、ABMのWHATとして「Account Based Marketingことはじめ(最近聞くABMってなんなんや)」、ABMのWHYとして「ABMがなぜ必要とされるのか?(マクロ背景&ビジネス背景)」を解説してきました。今回は、どのような形態があるか、種類・HOWの切り口について説明していきたいと思います。

3つの形態

そもそも、3つの種類にこだわる必要はないとはじめに伝えたいと思います。なぜなら、ABMはそもそも顧客やターゲットした業種にカスタマイズした活動を行っていくからです。しかしながら、何もヒントがないと簡単に発想に行き詰まったりするかもしれないです。以下で紹介していくABMの3つの種類は、米国で古くからABMを提唱するITSMA社によるものを参考にしているのですが、これはあくまでもフレームワークであり、これが全てではないと思います。

さて、3つの形態ですが、2017年にコンテンツマーケティングの切り口で書かれているこちらの記事にちょうどよい図がありますが、それを少し違う形で表現したのが以下の図です。前回紹介した、”A Practitioner's Guide to Account-based Marketing”という書籍もITSMA社の方が書いている本であり、ITSMA社は日本でこそビジネスをほとんどやっているように見えないのですが、欧米ではABMを牽引するリーディングカンパニーのようです。ITSMAは、Strategic ABM(戦略的ABM)、Lite ABM(軽量ABM)、Programmatic ABM(全方位的ABM)という3つのABMの形態があると定義しています

Strategic ABM

まずはじめに「戦略的ABM」を説明していきたいと思います。そもそも、ABM事態が戦略的にアプローチするもの(というかどのような施策であっても戦略なき施策は施策ではないと思いますが・・)なのですが、これは相対的に戦略的だと考えたら良いと思います。むしろ、この名称よりも補足で表現されている、One-to-One Account、つまり1顧客向けにカスタマイズしたマーケティング施策を考えていくのがStrategic ABMです。

1顧客とのパートナーシップ関係を作る:
One-to-OneのABMは、新規に開拓したい見込み顧客であっても、既存顧客であっても1社の顧客に対して、購買活動を行う関係性を構築するためのアクティビティを実施していきます。One-to-OneのABMでは、売り手と買い手のような淡白な関係性ではなく、パートナーシップを結ぶことで、顧客自体の継続的な成功はもちろんのこと、売り手もそれにより販売実績や事例を作ることを目指します。そういった意味では、顧客との戦略的な関係性を作るということになるでしょう。

社内的にも戦略的な関係性を作る:
前回なぜABMを実施するのかという記事を書きましたが、こうすることによって、1顧客あたりのLTVをあげていくことが可能です。このため、One-to-OneのABMを実施する場合には、マーケティング担当者は、営業のみならずデリバリ部門(最近ではカスタマーサクセス部門がここに当たるケースも多いと思う)と密に情報を共有し、施策を考え、実行していくことが必要になります。社内においても戦略的に関係性を作る必要があると言っても良いでしょうか。

アカウントプランが大前提:
One-to-OneのABMを実施する場合、そのアカウントが現在どういう状態で、これから売り手としてどのように開拓していきたいのか、誰がキーマン(影響度、意思決定)なのかを整理するアカウントプランが必須です。もしもアカウントプランがない場合には、会社としてそれを作り、メンテナンスをすることからはじめたほうがいいかもしれません。

マーケターが気にすべきポイント:
このアカウントプランで整理された情報をもとに、どのようなマーケティング活動ができるかをマーケティング担当者は提案していく必要があります。マーケティング担当者がアカウントプランで気にするべきポイントは以下だと思います(現時点での個人的な見解)。

・誰がキーマンであるか
・意思決定の流れ
・施策の方向性(認知?Up-sell?Cross-sell?)
・自社製品の顧客ライフサイクルの理解

これらの情報を整理した上で、さらに、クリエイティブかつ1顧客にカスタマイズされた施策を考えていきます。

ここまで書くと、イベントだけやっていた、ウェブだけをやっていた、みたいな人は戦略的ABMを実施することができないでしょう。経営サイドとしてABMを実施することを決めた場合、アカウントプランの準備はもちろんのこと、既存のマーケティングリソースを使うのではなく別のリソースを活用するなどから検討し、実施していくことが必要ではないかと思います。

Lite ABM

戦略的ABMができればLite ABMもできるのではないかと思いますが、Lite ABMでは、こちらも補足として書かれている、One-to-Fewという言葉の方がわかりやすいです。One-to-Fewということなので、数社にフォーカスし、その数社に共通の課題についてカスタマイズした施策を実施していくことになります。共通の課題を持った顧客ということで、業種の小分類でくくることが多いのではないかと思います。例えば、製造業という大分類ではなく、自動車業という小分類であったり、製造業の情報系子会社という小分類であったりです。

効率を考える:
Lite ABMでは、1社に深くに入り込むことは考えず(それは営業施策に任せるなど)、以下に効率よく引き合いを作るか、のような観点にフォーカスします。上記で示したような小分類に特化したメッセージをメール配信する、チラシを作る、といった形で効率よく情報接点を作るということになります。ここでは、売り手企業が持つマーケティングツール(テクノロジー)をうまく駆使した施策を考える必要があります。

同業種への拡張を狙う:
Lite ABMは、1社既存顧客が存在しそのユースケースを広められるという仮説を検証する活動と言ってもいいかもしれません。1社で採用された事例を、ターゲットとしてくくった企業にその価値を理解してもらうために、メディアを展開する、場を作る、といったことができます。

経営的観点では、まだ全くその業種に売れていないというパターンであっても、Lite ABMを実施する価値があります。どういうことかと言うと、対象を具体的かつ局所化することによって、成功すれば拡張していけるし、失敗すればその業種(大分類)にはマッチしないプロダクトだったということが明らかになるので、別業種を考えるというピボットがしやすいからです。

Programatic ABM

Programaticがプログラム的、というのはよく意味がわからない人もいそうだったので、冒頭では全方位的と意訳をしてカッコ書きしていました。プログラム的、というのは、マス・マーケティング的と言っても良いと思います。企業によっては、このようにマス・マーケティングの活動を通して需要喚起を行う人や部署をプログラム・マーケティングと呼んだりもするようです。そういう意味で、業種は特定化するけれども、マス・マーケティング的に展開するのがProgramatic ABMだと理解しています。

より効率的:
Programmatic ABMは、One-to-Manyと補足されている通り、より多くのアカウントをターゲッティングします。Lite ABMよりも多くの企業への施策となるので、業種分類は大分類となり、さらに効率良い施策を展開します。金融業といっても銀行と証券、保険それぞれ行っている業務は異なる部分もあろうかと思いますが、共通した課題を持つケースもあるでしょう。そのような課題へ効率よくメッセージをすることで、認知を作るということを行います。

未コンタクト者の発掘 ≒ 認知度向上:
また、Programmatic ABMになると、業種特化イベントへの協賛などのような、自社に名刺情報がない人を掘り起こすことを目的とした活動を行うことがあります。そのように第三者メディアを活用して、名刺情報を獲得していく、ということがこのProgramatic ABMの領域です。未コンタクト者を発掘し、そこから営業へリード(見込み案件)としてパスするということです。ただ、認知された程度であって架電してみたところ興味がなかったというケースもあり、コンバージョン率は低くなる傾向にあります。

顧客ライフサイクルという観点

上記でざっくり3つの形態があることについて紹介しました。これらの形態を意識することで、今の形態のABMをやらなくてはいけなくて、どのようなことを目的にするのが良いのかということがなんとなくわかってくると思います。ただ、顧客だけを理解していても、なかなか良い施策は思いつきません。自社製品の販売機会を作るのがマーケティングの仕事なので、製品知識は大前提だと思います。製品そのものの理解はある程度で良いかもしれませんが、顧客ライフサイクルという観点はしっかり認識して施策を検討することが必要になると思います。

顧客ライフサイクルは製品毎に異なりますが、おそらくざっくり以下のような切り口があるのではないかなと思います。これらのフェーズの中でどれを今1社向けまたは複数社に向けて展開していきたいのか、ではそれをするにはどのような働きかけをすれば実現できそうか、と考えるのです。

・初回の購入(Net-new)
・契約の拡張(Up-sell, White space開拓)
・別サービスの購入(Cross-sell)

ミックスする

上記の3つの形態については、1つだけを行うのではなく、会社としての戦略と、営業チームが作成するアカウントプランそして、それに基づくABMの目的合わせてミックスして考えることが重要です。

例えば、会社の戦略として、製造業を新たに開拓すべき業種だとピックアップしたとしましょう。製造業の中にも、自動車から電子機器、航空機まで様々な形態がありますが、まだ自社製品が製造業全体にウケるのかが分かっていない状況、既存顧客の中に1社のみ自動車系の顧客がいたため、仮説として自動車系の製造業にはウケるのではないかと考えたとします。

この場合、まず、既存顧客である自動車系企業1社にフォーカスし、戦略的にUp-sell/Cross-sellを狙いに行きます。営業活動だけではカバーしきれない部分をマーケティングのテクノロジーや予算を活用し、営業とのディスカッションによるアイデアをマーケティング施策として打っていきます。ここで目指すのは1社あたりのLTVの向上や、社内事例とすることで、別部署への適用を進めることなどになるかと思います。

ただ、自動車系の製造業も国内には限られた数しかありませんので、より広く電子機器系のメーカーなどにも広げていきたい。1−2年でビジネスをより成長するものにしていきたい、ということで、全製造業にマーケティング施策を打つことで、新規顧客獲得を狙う活動をしていく必要も出てくるでしょう。この際に、上述の既存顧客をフィーチャーし、その他の製造業と接点を持ってもらうことで、製造業という似たように文脈をもつ見込み顧客に気づきや検討意欲をもたせることができるかもしれません。また、既存顧客自身の認知度向上や成果を既存顧客内にアピールすることも可能となり、更に購買が検討されるといったこともあるでしょう。


まとめ

このように、ビジネス戦略に基づいて、ターゲット業種、ターゲット顧客に、顧客ライフサイクルを意識しながら、打ち手を考え、実行していくということが重要だと考えます。そして、全てを行うのではなく、Strategic、Lite、Programmaticの優先順位を明確にして、ワークロードや予算配分のバランスを意識することも重要となります。配分バランスを意識することで、何かに失敗した際にその比率を変えるということもできますし、全てを100%でやることはできないので、経営層・マネジメント層にフォーカスポイントを理解させるためにマーケティング担当者はある程度数値的に管理する必要があると思います。

また、冒頭に記述したとおり、ABMはツールではありません。したがって、マネジメント層として今ビジネスをどのように変化させたくて、それに合わせた営業戦略とマーケティング戦略をしっかり考える必要がまず大前提で必要となります。

参考情報

前回までの情報源に追加して以下のサイトもみて作成しました。ちなみに、英語ではありますが、『A Practitioner's Guide to Account-Based Marketing』は細かくABMの歴史やその種類についての記述がありますので、一読の価値はあるかと思います。

前回までの記事

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