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ABMがなぜ必要とされるのか?(マクロ背景&ビジネス背景)


※トップ写真:バルセロナにあるガウディの出世作と言われている街灯です。

前回は『Account Based Marketingことはじめ』という切り口で、そもそもABMってなんなんだろう、ということについてお話いたしました。今回は、なぜABMが必要とされているのかをお話したいと思います。

外的環境の変化

ABMを長く提唱しているコンサルティング会社のITSMAのDave Munn, Bev Burgessの著書、『A Practitioner's Guide to Account-Based Marketing: Accelerating Growth in Strategic Accounts』では、ABMが必要とされる社会的な背景(原文では”Driving Forces”と表現されている)として、以下の6つの要素をあげています。

● Commoditization (汎用化)
● Competitive Disruption (競合による市場破壊)
● Globalization and Expansion(グローバルなどの拡張)
● Buyer Expectation(購買者の期待値)
● Widening Decision-making units(意思決定部門の幅が広がっている)
● Customization and Personalization(カスタマイズ、パーソナライズ)

インターネットが一般的になったことで、誰でも情報に触れることが可能になり、販売者と購買者の間の情報格差は過去に比べて少なくなってきています。

例えば、旧来は、営業からの情報が購買者にとって唯一の情報源だったこともあったことでしょう。現在は、購買者がインターネットで自身の課題を元に検索し、複数の販売者の情報を見つけ出し、比較し、購買するという流れになっています。

インターネットにより、販売者はより競争にさらされ、それを対処するために、顧客との接点を効率化し、適切な意思決定者に対して適切なタイミングで提案を行うということをしなければいけない時代になっています。

また、B2Bにおいては特に、顧客によって状況が異なり、それに合わせたメッセージがなければ、自分ごととして扱ってくれないことも多々あります。顧客となる企業にパーソナライズされた情報が必要とされている状況にますますなっているでしょう。

B2Bにおける複雑な意思決定プロセスにスケーラブルに対応する

上記の社会的な背景(Driving Forces)のうち僕が最も大きな要因だと思うのは、”意思決定部門の幅が広がっている”で、個人的にはこれに追加して”意思決定のプロセスが複雑”ということも含めたいと考えています。

まず「意思決定部門の幅が広がっている」という点ですが、デジタルトランスフォーメーション(DX)が語られて久しいですが、DXは、デジタルを駆使して新しい顧客体験を作るスタートアップなどの脅威に対応するため、またユーザーの行動がデジタルベースになっている時代において、デジタルを駆使することは必須の条件になってきているという社会現象を表現する言葉です(かなり端折ってると思いますが)。

ビジネスとしてデジタルを活用する、という時代になったので、昔まではIT部門だけが購買していたようなテクノロジーを、営業部門や製品開発部門が購入するなどという現象が起きていると思います。

どの部署が製品に興味があるのか、その状況は各社異なります(が似ている点もある)。これに対応すべく、ABMを設計する必要が出てきます。

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また、「意思決定のプロセスが複雑」というポイントについては、B2Bの営業経験のある人であればよく知っているかと思いますが、ある金額を超えた場合には、その製品を購入するためには稟議を上げる必要があります。これは日本特有の文化でありますが、稟議を書く人、稟議を上司に説明する人、承認する上司、そのまた上司…のように関係者が多岐に渡ります。また、競合が多かっったり、複雑な製品の場合には、誰かに紹介をするインフルエンサーのような存在も見逃せません。さらには、製品を導入しようとしていたら止めるような人もいるかもしれません。

このように複数の利害関係が内部で働くのが組織です。その複雑な状況を解決するために、個社・あるいは業界クラスタにカスタマイズされた戦略を企画し、戦術の実行をしていく必要があります。ABMの考え方はこれを解決するためのものでもあります。

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B2Bにおいては利用者が購買者ではない

上記では意思決定のプロセスが複雑ということを説明しましたが、以下の図のように表現することも可能です。B2Cでは、ほとんどの場合、利用者が購買者です。そのため、その人が気づいたら、その気づきを実際に購買欲求に変えさせるというのがマーケティングに求められることです。中堅・中小企業でいち担当が予算を持っている場合もこれに近いかたちになるでしょう。

個人や中堅・中小企業の場合には担当自身が自身の課題を解決するために購買活動を行いますが、大企業になればなるほど、実際に使う人は意思決定に参加していなかったりすることもあります

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営業だけではだめなのか

意思決定プロセスが複雑だったり、意思決定の関係者が幅広くなっているという内容は、営業であれば普通の話で、「日頃それを意識して営業活動してるよ」と思うでしょう。ABMのフレームワークは、その普通をマーケティングが積極的に関わりながら実行していくものです。

ではマーケティングが積極的に関わることで何が良いのでしょうか?

営業によるアプローチは個別最適で、対面する顧客に合わせた超パーソナライズしたコミュニケーションになります。そのため、いくらアクティブな営業であっても、1週間、1年に対面する・コミュニケーションする顧客の数は限られます。そのため、実際には会えていない人が新たにプロジェクトを開始していて、競合に案件が取られているということもあるでしょう。もしくは、そのままプロジェクトについては忘れてしまわれ、なんの購買行動も行われないままになるケースもあると思います。

マーケティングは、包括的なコミュニケーションを行い、営業にとって未知の顧客を見つけてくることで、上記のような機会損失に対して貢献することが可能です。

昨今では、マーケティングテクノロジーもよりパーソナライズできるようになってきており、Email配信を特定のセグメントに対してのみ行うみたいなこともできるようになってきているので、ターゲットと決めた企業に属する人にのみ情報を配信することができます。これにより営業が最近コンタクトしていないような人が見込み顧客になる機会を創出します。

また、展示会などで名刺交換した情報についてもマーケティングDBに保存してあれば、そこにもメール配信なども可能なため、営業が一度もあったことがない人からの機会創出も可能になります。

このように、営業のハイタッチな活動でカバーできないところをカバーするため、対企業へのコミュニケーションをスケールさせるためにマーケティングを活用すると考えるとわかりやすいかと思います。

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コンバージョン率を上げる

アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)は、その名前に現れる通り、アカウントを特定してアプローチします。マーケティング活動を定義する前に、営業とターゲットについての議論をし、持っている情報から顧客の課題を仮説設定することになります。事前に合意された顧客に対して高度にカスタマイズされているため、マーケティング活動から営業へ案件をパスし、案件化される率(コンバージョン率)が改善されます。

前回の記事でも触れたふつうのマーケティングでは、展示会へ出展するも結局担当営業のいない企業との名刺交換だけしかできずに終わることもあります。金融業をターゲットにすると営業と予め認識合わせできていれば、その業界に特化した展示会などに出展することで、その問題は簡単に解決できます

また、マーケティング活動を決める前に、営業とのターゲティングの議論をすることで、闇雲にイベントをやっているという印象から、営業への案件供給のためにイベントなどをやっているという印象に自ずと変わってくるでしょう。そうすることで、関係者によるコラボレーションが生まれ、ビジネスを生み出すパイプライン(バリューチェーン)の最適化にも寄与することができるというメリットもあります。

ワンショットの関係性から長期的な関係性へ

最後に、ABMはターゲットとして設定したアカウントに対して長期的な関係性を作るために使われます。長期的な関係性がなぜ重要になってきているのかというと、製品ポートフォリオの拡大や継続率が重要になってきているという、主に2つの理由があります

売り手側の企業(特に大企業)は企業買収することで、製品のポートフォリオを継続的に広げビジネスの拡大を狙っています。例えば、CRMをSaaSとして提供するSalesforceは、PaaSである Force.comを展開していたり、昨年にはデータ分析プラットフォームであるTableauを買収しています。

また、SaaS系スタートアップがここ2−3年で多くユニコーン的に各業界に参入してきていると思いますが、SaaS・あるいはサブスクリプションビジネスにおいて継続率は生命線です。

このように、昨今顧客との長期的な関係性を重要視する流れはSaaS系企業に多いですが、長くB2Bの領域にいるような企業なども、サブスクリプション型のビジネスへ移行しており、Life Time Value (LTV)という指標を最も重要な経営指標にすることが増えています

『サブスクリプションマーケティング』では、ファネル型の販売プロセスは過去のものになりつつあり、ホルン型の販売プロセスを考えるべきだというように語っています。このホルン型の販売プロセスは、ABMの考え方とかぶる部分があると思います。

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まとめ

冒頭で紹介した書籍『A Practitioner's Guide to Account-Based Marketing』では以下の項目のうちいずれかに合致する組織はABMを取り入れたほうが良いと説明されています。

● クロスセル/アップセル
● 認識やポジション(立ち位置)を変えたい
● 新しい顧客を開発したい
● 特定された主要な案件を追いかける

ABMが流行っているみたいだから、ということで取り入れるのではなく、自社のビジネス状況にあわせて、今どこにボトルネックがあるのかを意識し、マーケティングプログラムを設計することが望ましいと僕は考えています。ですが、ABMのフレームワークや、事例を聞くと新たな施策を思いついたりもするでしょうから、参考にする点は非常に多くあると思います。

B2Bでは特に営業部門が強いことが多いので、営業との協業を行い、ターゲットアカウントを設定し、そのターゲットアカウントに適した目的を理解し、マーケティング施策をインストールする必要があります。そのためには、言われたことだけをやるといったスタンスではなく、どうしたらビジネス機会を増やすことができるだろう?と日々考え、議論することが重要です。

ABMを実施するにはトップダウンでの意思決定も重要だったりしますが、その後は、営業との会話からスタートし、スモールスタートでも良いので徐々に成功体験を創っていくのが良いと思います。このへんはまた別途書くかもしれません。

参考にした情報

前回参考にした情報源以外に参考にした書籍を紹介します。

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