郷里侑侍
古本屋の青年店主・黒盛理一の恋人の夢子さんは黒ずくめの不思議な美女。理一に降りかかる怪奇現象を、夢子さんが指差しひとつでビシッと解決します。 (無料公開分のエピソードになります。無料分が八本溜まると古い順に四本が有料マガジンとしてまとめられます)
ホラー苦手だけど観れそうなやつを観ていった感想です。
有料公開を終了した分の【ゆびさし夢子さん】をこちらにまとめています。 無料分が八本溜まると古い順から四本を有料マガジンにまとめます。
ブレーキをかけずに洋館の門扉を突き破り、そのままターンして追手のパトカーに向き合う。俺と『虎』はドアを開け、ショットガンを構えた。しかし、警官たちはなにごとか車内で会話したあと、すごすごとバックして姿を消した。 怪訝に思いつつも内心俺はほっとしていた。銃弾も残り少ない。 車を降り、札束で一杯のバッグを下ろす。『牛』と『鶏』に指定された洋館は小突けば壊れてしまいそうなほどボロボロで、不気味だ。地元の人間は近づかないという話は本当なのだろう。 俺たちは銀行を襲ったあと、こ
フォークがカフェテラスの床に落ちる音がしたかと思うと、ケーキを食べていた青年が椅子ごと倒れた。数瞬の間をおいて周囲がどよめき、同伴の女性が悲鳴をあげた。店内から幾人かの客が男に駆け寄る。 僕も彼を助けるため席を立とうとしたが、夢子さんは僕の手に触れて制した。 「無理だよ。もう手遅れ」 恐怖ではない冷たさが身体に染み入った。救急車を呼ぶ女性の姿が夢子さんの真っ黒な瞳に虚しく映っていた。 しばらくして救急車が到着した。顔面蒼白となった男がストレッチャーに乗せられ、救急車
◆はじめに 郷里侑侍です。 前回のホラー苦手記事から一年近く開いてしまいましたが、第2回のホラー苦手記事になります。 ◆今回の映画:【シャイニング】 今回観た映画は不朽の名作【シャイニング】。言わずと知れたホラー映画のマスターピースを観た結果、予想外の感想が生まれました。 ◆あらすじ ロッキー山上にあるホテル、オーバールック・ホテル。小説家志望のジャック・トランスは、雪のため冬は閉鎖されるホテルの管理人として妻のウェンディ、息子のダニーと共にやってくる。 『
眠りにつくと、魂とか心みたいなものが身体から抜け出すような感覚がある。そうしてぼくは病弱な身体から解き放たれ、夜空を飛びながら「今夜は誰の夢に入り込もうか」と物色しはじめるのだ。 あれは駄目。夢の中まで仕事漬け。 あれも駄目。ルサンチマンに過ぎる。 あれは駄目。楽しそうだけど疲れそう。 あれも駄目。淫乱なやつはちょっと。 そうこうしていると、よさそうな夢を見ている人を見つけた。少なくとも今夜は穏やかで楽しい夢を見ている様子。ぼくはその人の夢に向かって自由落下してい
郷里侑侍です。 noteでもレビューを書いたり、Twitterでもよくつぶやいてますが、僕はトランスフォーマーが大好きです。 毎年新作が出る度に「すげー!!」と言って買いあさり、すっからかんになった財布を見つめて「どうして……?」と放心状態になっています。 もちろん各種メディア展開も好きです。【ビーストウォーズ】直撃世代なのでアニメにはなじみがありますし、実写版のトランスフォームを初めて見たときのことは忘れられません。IDWのアメコミも好きで邦訳を追いかけたり原
「リヴァイアサンが死んだーっ!」 夢子さんは天を仰ぎながら絶叫した。夢子さんは息の続く限り叫び続けながらローチェストに力なく寄りかかった。 金魚鉢の中に赤い金魚が横向きに寝て浮かんでいる。水中で優雅にたゆたっていた尾ひれに生気はない。今はまだ飴細工のように澄んだ眼も次第に見る影もなく濁っていくのだろう。 「リヴァイアサン……金魚すくいでとって大事に育てた……」 「……まあ、長生きした方だと思うよ」 「リヴァイアサン……」 夢子さんは金魚鉢越しにリヴァイアサンと名
どうも、時間管理下手人(じかんかんりへたんちゅ)こと郷里侑侍です。みなさんは時間管理できてますか?僕はできません。出かける前になんとなくTwitterを開いたら30分経っていることなどザラです。 というか、時間ってわけわかんなくないですか? 今もって世界中でめちゃくちゃ頭の良い人たちが「時間とは?」を研究しているというのに、それを数字にして表示されたところで理解できるわけがないと思いませんか? 漫画とかで習い事のスケジュールがぎっしり詰まったおぼっちゃまキャラと
「あれ」 買い取った本を棚に並べていると、一冊の本を持ったところで手が止まった。裏表紙にシールが貼ってあったのである。 たわんだ円から一本線が四つ伸びており、上の二本の先には手袋が、下の二本の先には簡略化されたスニーカーが描かれている。それらは手足ということだろう。円の頂点にはアーモンドのような瞳がコラージュのように配置されている。 シールの左下に『わごむマン』と印字されていた。このキャラクターの名前だろうか。イラストの雰囲気やシールの劣化具合からして四十年は前のもの
ネットフリックスのオムニバスSFショートアニメ【ラブ、デス&ロボット】のシーズン2が配信されました。 https://www.netflix.com/title/80174608 一話ごとに違うクリエイターが異なる世界観を描き出した本作はシーズン1が話題となりましたが、先日配信開始されたシーズン2も相変わらずの面白さでした。 以下各話感想。 ・自動カスタマーサービス 画面からブラックユーモアがびしびしと伝わってくる。最初は「テクノロジーは危険!」みたいなよくある風刺
バーのマスターがカウンターの壁際で縮こまっている青年を指さした。 「あいつなんですが」 マスターはかすれた、しかし魅力的な低い声で僕たちにささやいた。雰囲気を察したのか、青年がこちらを横目で見る。 「親戚の子供なんですが、昔から悪さばかりしましてね。本人に悪気があるというわけではないんですが、軽薄というか、浅慮というか……トラブルを起こしやすい性質なんです」 夢子さんは無言でうなずきながらピーナッツを一粒食べた。 「それで、この前はバイクでコケまして。運の悪いこと
「うわ、なにこれ」 僕は思わず声に出してしまった。 「なになに、どうしたの」 夢子さんが読みかけの少年漫画雑誌を椅子に置いて様子を見に来た。 「いや、これ」 僕はカウンターの上にハサミを投げるように置いた。刃と刃の間には茶色い粘液がべっとりとこびりついていた。 「うへ、なにこれ」 夢子さんはハサミをちょきちょきと動かす。粘液は湿った音をたてながら刃の間に糸を引いた。夢子さんはそのままハサミを鼻に近づけてにおいを嗅いだ。 「んー、なんだろ? 血っぽい?」 「
「あ、あれ見てよ夢子さん」 「何?」 「公園の広場のとこ」 「……砂の上に何か書いてあるね。丸がいっぱい」 「『けんけんぱ』だよ、懐かしいな。知らない?」 「知らない」 「こうやって丸がひとつのとこは一本足で、けんけん。……で、ふたつのとこは両足で、ぱ。小さいときじいちゃんとやったりしたなぁ」 「ふうん。……周りは誰もいないし、子供がしてたのかな?」 「かもね。けんけん、ぱ。けんけん、ぱ。あはは」 「なんか楽しそうでいいなあ。その先のところはどうするの?」
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「未熟な魔法は科学技術と見分けがつかない」 ──トーマス・D・ワシントン 人生は選択によって形作られる。選択を誤った人生はクソだ。両親が離婚したとき父さんについていくべきだったし、大学では哲学より経済学を専攻すべきだった。全て間違いだった。150年前に化石燃料が枯渇したとき、人類が代替エネルギーを魔法に求めたのも間違いだ。だから俺は今、薬草店に強盗に入り、銃弾から身を隠している。 武装警備員の牽制射撃が頭の上を掠める中、しびれを切らしたヨシオが制止の声も聴かずにカウンタ
「ろくろ首は?」 「こっちです」 提灯に照らされた作兵衛の顔は真っ青であった。彼が震える手で指した方を虎之介は一瞥すると、後ろに控える部下に目配せした。 「行くぞ」 虎之介は努めて平静な声で部下に号令をかける。草履が砂利を踏みしめる音だけが通りに響いた。彼らの羽織の背には「鬼」の一文字が大きく染め抜かれていた。煌々と光る提灯にも同様の一字が墨で書かれている。 同心が長屋の戸をぴしゃりと開け放つ。 「──樹羅鬼改方である!」 虎之介は叫んだ。障子には着飾った遊女