虎という名の焼き菓子
ティグレの名を冠したものが、ファミマにあって驚いた。
ティグレ、いつの間にコンビニに並ぶほどの市民権を。
アールグレイティーの隠語っぽいし、古代文明が発展した川の支流っぽいし、くまのプーさんの仲間たちが合体した新キャラっぽい名前。
ちまたでは、カヌレが名を馳せ始めたばかりではないだろうか。
見えざる手はもう次のターゲットに息を吹きかけ始めたのか、と思い検索したら、いちばんに出てきたのは堅そうなコンサル集団だった。
百貨店の洋菓子売場でも、ティグレを大々的に扱うメーカーは数えるほどしか見かけない。
他のコンビニでは数年前からひかえめに並べていたようだが、忍びすぎていて、目にも耳にもまったく入ってきていなかった。
やはり、それそのもの、としてはまだ一般的ではないのだろう。
いらすとやさんにも、カヌレのイラストはあるが、ティグレのイラストはなかった。
正直、既視感のある見た目だし、なにをもってティグレと呼んだらいいのかわからない。
そんな疑問は想定済み、と言わんばかりに、限られたスペースで「チョコチップとチョコレートクリームのフィナンシェ」と大きめに補足説明されていた。
みずからの知名度を心得ているかのような、ていねいな自己紹介が健気。
一方で、フィナンシェは市民権を得たものとして扱われている。
それもそのはず、全部説明しようとしたら
となってしまうから、パッケージが耳なし芳一状態になる。
フィナンシェは永住権を獲得したのだ。
フィナンシェの生地にチョコチップを入れ、天面のくぼみにチョコレートクリームを流し込んだもの、が一般的なティグレだという。
本人、もとい本菓子の自己紹介に、一片のいつわりなし。
ティグレ、はフランス語で「虎」を意味する。
生地に織り込まれたチョコレートチップの模様が、虎の毛皮のようにみえることがその名前の由来だそうだ。
フィナンシェも、そのかたちから「金塊」が由来と言われている。
菓子の名前の起源は、往々にして全然甘くないし、ときどき猛々しい。
そういえば2023年は、虎が金星をあげた年だった。
このタイミングでファミマがティグレを投入してきたのは、それもうっすら関係しているのだろうか。
天面のチョコレート部分は、逃げ出さないように透明フィルムで守られている。ちょっと安心した。
ここに穴が空いてしまうと、クグロフという別の菓子が存在を主張し始めて、もうなにがなんだか分からなくなってしまう。
ファミマのティグレは、マーガレットのようなかたちをしている。
フィナンシェ生地の天面になにかが流し込まれていれば、それはティグレと呼べるらしい。
楕円形の生地にチョコレートが流し込まれたものは、さらに既視感がある。
虎というよりは、上空から見た国立競技場。
天面のチョコレートがちょっと溶け始めたので、さっそく開封した。
フィナンシェ生地は、外側が思いのほかカリッとしているので、手に油がつきにくい。
中はふかふかしっとりしていて、アーモンドプードルが香ばしく広がる。
散りばめられたチョコレートチップのカリカリつぶつぶの存在感と、甘みが心地よい。
天面のチョコレートクリームは、フィルムをはずしたら意外とマットでしっかりしていた。
ねっとり系かと思いきや、口の中の熱でなめらかに溶けていく。
これだけふんだんにチョコレートがつかわれていると、味がチョコレートに支配されそうなものだが、アーモンドプードルの香ばしさは負けていない。
ちゃんとフィナンシェ、ちゃんとチョコレート。
チョコレートフィナンシェ、とはまた異なり、フィナンシェとチョコレートがそれぞれの自我を残したまま、手を組んでいる。
これが、虎に翼というやつか。
新発売の赤丸は、印刷ではなくシールである。きっと、長く売るつもりだ。
虎視眈々とポストカヌレをねらっているのは、その名の通り、ティグレかもしれない。
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