振り向いてよハヤブサ
旅の行程は、天候や体調などの不確実要素に対応できるよう、ざっくり3パターンくらい考える。
でも、はやぶさとこまちが走行中に手を離してしまうなんて、想定外。
その日、17時半までには仙台へたどり着かねばならなかった。
なんで…よりによって…。
はねた髪のまま飛び出して、誰よりも速く駆け抜け、とりあえず東京駅へ。
結果、運転再開一番列車のやまびこに飛び乗って、ふつうに間に合う。
大事故にならなくてよかったし、復旧がおもいのほか早くて驚いた。
ライブハウス2階の指定席の端っこでこじんまり楽しんでいたら、すぐ横は関係者席への通路だったらしい。
出番前に他バンドの演奏を観にきたスピッツのギター三輪テツヤ氏と、ドラム崎山龍男氏を実寸で目視。
暗転のたびに、情緒がいそがしい。
朝と晩に、まったく逆のベクトルで鼓動が高鳴った。
腹ごしらえしようと思っていたプランAの店には時間がなくて行けなかったので、プランBを選択。
仙台のコッペパン専門店、《柴田パン本店》。2024年春に、仙台エスパルにもイートイン付きの店舗がオープンした。
惣菜系の他、果物やあんこ、ピーナッツバターをはさんだおやつコッペパンも。
給食の平たいパサパサコッペパンしか知らないので、このふかふかしっとり立体的なコッペパンは衝撃。
低温でじっくり焼き上げているかららしい。これは時間が経ってもやわらかそう。
斜めうしろのテーブルには、スピッツTシャツをまとったひとが。
同じことを思ってる仲間を見つけたよ。
翌日は予報以上の雨で、朝から空はあやしく光り、雷鳴がとどろいている。
伊達政宗公の騎馬像を観に行く案もあったが、草野マサムネ公なら昨夜ステージで観たし、雨だし。
仙台菓子めぐりプランに決定。
バスに揺られながら、雨の街を進む。
草野さんじゃないからバスの揺れ方で人生の意味は解からなかったけれど、イオン仙台ってふつうのビルの中に入ってるんだ、と知った。
灰色の空と、濡れた街路樹のグリーンの色合いが、妙に落ち着く。
目的地は、せんだいメディアテークのとなりの《和菓子 まめいち》。
雑居ビルの2階に、ひっそりたたずむブルーグレーのドア。和菓子屋とはおもえないたたずまいである。
豆型の看板がかわいらしい。
おそるおそるドアを開くと、やわらかな声の店員さんがにこやかに迎えてくれた。抑揚のある訛りがあたたかい。
月替わりの創作和菓子のほか、喫茶では寒天パフェをいただける。
ここにもスピッツTシャツの先客が。
同じことを思ってる仲間を見つけたよパート2。
さっそく、目当てのパフェを注文した。
政宗公の三日月かぶとのような、フリーズドライいちじく。バランスがすごい。
その下は、ワッフル風もなか、さつまいも餡、いちじくの赤ワイン煮、赤ワイン寒天、白練りごま生クリーム、ミルクジェラート、全粒粉ビスケット。
全体的に自然な甘みで、おしつけがましくなく、午前中の舌と胃に心地よい。
ほんのり緑色の部分は、パフェグラスでは味わったことのない風味で二度見した。でも、よく知っている味。
小松菜ギリシャヨーグルトオレンジソルベだという。青くささはまったくなく、あっさりしていてとても食べやすい。色もきれいだ。
パフェをいただいている間、絶え間なく和菓子テイクアウトのお客さんが入ってくる。
なかには、愛媛から来ましたという方も。
雨なのにこの客足ということは、喫茶利用には逆に雨でよかったのかもしれない。
持ち帰りに気をつかうので躊躇したが、飛ぶように売れていく創作和菓子が気になり、2個購入した。
雨が弱まってきたので、徒歩15分くらいのところにある次の目的地へむかう。
仙台も、暑すぎた夏が終わり、秋へむかっている。
方向音痴ぶりを遺憾なく発揮しながらたどり着いたのは《菓子時間ムギ》。
焼き菓子と喫茶の店である。
扉の取っ手が押しても引っぱっても開かず、店員さんが窓越しに怪訝な視線を送ってきたところで、それが引き戸だと気づく。
傘をたたむのに手間取って、なかなか入れなかったフリをした。ギリセーフ。
押してダメなら引いてみな、横にも、と肝に銘じる。
2階の喫茶ではランチも提供しているとのことで、ここでお昼にしようかと考えたが、満席だった。
看板商品のマフィンをテイクアウトすることに。
関東から来たことを店員さんに告げると、「昨日は新幹線止まって大変だったんじゃないですか」という気づかいとともに、持ち帰れそうな商品をピックアップしてくれた。
焼き菓子ではあるものの、果物やバター、クリームをつかったものは長時間の持ち歩きには適さないとのこと。
いろいろ説明を聞いていて、できたてのおいしさを味わってほしい気持ちと、品質への責任感がとても伝わってきた。
安納芋とクルミのマフィン、そして、はじめましてのクランペットを購入。
クランペットは、ハチミツとバター付き。見た目パンケーキだが、ドライイーストを使っているのが特徴で、もちもちとした食感だそうだ。
ねがわくば《賣茶翁》や《森の香本舗》、ずんだ餅の《村上屋餅店》、カズノリイケダの別業態《メゾンシーラカンス》にも行きたかったのだが、雨、降り続くよあおば通りを。
それより胃袋の容量が足りないし、週末が近いからか、はやぶさの指定席がどんどん埋まっていく。
地下鉄東西線で、早々に仙台駅へ戻る。
途中、スピッツTシャツを着たひとが乗ってきた。パート3。
遠征組、おもいおもいに仙台満喫中。
仙台エスパルの東西自由通路には、なにやら長蛇の列ができている。
あ!?
あれに見えるは、《メゾンシーラカンス》のシーラカンスモナカではないか!!
なに?催事?わたしに船、違う、渡りに船!!まだ時間あるぅ~並ぶぅ~。
名前はなかなか刺激的だが、中にあんことイズニーバターが入っている和×洋のもなかである。
めぐりめぐって運がいい。
もう、前日朝のトラブルと、朝からの悪天候のマイナスは取り返した。
禍転じて福と成す。
昼ごはんはエスパル内の《イタガキ フルーツカフェ》で。
前日、本店へ行こうとして行けなかった、仙台の青果店が営むカフェ。
いたがき自体の創業は明治時代だというから、老舗中の老舗だ。
そこまではらぺこではなかったので、スモークチキンのごちそうサラダを注文したら、予想の2倍のてんこもりが出てきた。
アボカド、トマト、パプリカ、たまねぎ、ゆで卵、スモークチキンというサラダのスタメンにくわえ、オレンジ、グレープフルーツ、ルビーグレープフルーツ。
大好物の柑橘3種盛り。
も、盛りの都仙台、と思いつつも、みずみずしい野菜と果物はもりもり食べられる。チキンもやわらかい。
実はパフェの前にホテルの朝食で芋煮風スープをいただいていたので、パン2個がキツかった。
でも、新幹線まであと30分というところで完食。
あとは萩の月を買って、とアイスティーをぐびぐび飲み干していると、
「デザートのフルーツでーす」
!?!?
ひとくちサイズではあるが、マスカット、巨峰、パイナップル、オレンジなどが盛られた小鉢が登場。
お、追いフルーツ。果物屋の矜持。
この量で1200円なのが驚きである。都内のパンカフェで似たようなセットを頼んだら、2000円近かったというのに。
写真を撮る間もないまま、口に放り込む。あまい。みずみずしい。いそがしい。
もっとゆっくり味わいたかったけれど、いまは振り向かずハヤブサ。
大慌てで萩の月を買い込んで、さらば杜の都仙台。
一時はどうなることかと思ったが、満足のいく行程に仕上がり、満喫できた。
バスの揺れ方で人生の意味は解からなくても、はやぶさとこまちは運命共同体として、強く手を握っていてほしい。
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