りんごと紅茶と無限大
「白い恋人」で有名な北海道の石屋製菓が手がける、ギフト向けスイーツブランド《ISHIYA G》が東京駅構内にある。
白い恋人ベースのさまざまなラングドシャが、華やかなパッケージに包まれ、ケース内外に並ぶ。
何気なく前を通り過ぎようとしたら、《りんごと紅茶》《コラボ》《期間限定》とかいうパワーワードが目に飛び込んできた。
《りんごと紅茶》は、《オレンジとチョコレート》、《鶏肉とトマトソース》、《椎名林檎と宮本浩次》くらい、心が躍ってしまう組み合わせだ。
しかし、ラングドシャ12枚入りで税込1,566円。
ギフト向け商品とはいえ、ハードカバーよりひとまわり小さいくらいの箱サイズ、内容量と価格のバランスにいささか逡巡する。
ラングドシャ自体、いまやそうめずらしいお菓子ではない。
正直、自社の焼菓子なら同じサイズ感で価格は半分くらいである。
店員さんが他のお客さんを接客しているのをいいことに、商品をじっと見つめる。
気になるし、ねらいは定まっているが、決め手に欠けた。
しばらくケース前でハシビロコウと化したのち、「JRのポイント貯まってたな」と思い出し購入することにした。
たまたまグレーのダウンを着ていたので、ガチビロコウだったと思う。
よくみると、箱のデザインがとても細かい。
大小のりんご、りんごの断面、むきかけのりんご各種、大小のりんごの花、大小のティーカップ、大小のティーポット、ティースプーン。
側面から裏面にいたるまで、切れ目のない総柄。
明るい赤味がかったオレンジの箱に、ラングドシャの味をイメージさせるイラストがところせましと描かれている。
ウォーリーの靴の片方とか、ステッキが紛れ込んでいそうなくらいの密度だ。
すこし凹凸のあるザラザラした素材の紙は、風合いが千代紙に似ている。
大正時代の着物の柄にもありそうで、和モダンな雰囲気。なつかしさやあたたかみを感じた。
函はビニールのフィルムで帯どめして封緘してあり、シールはとめられていない。
紙函は、どんなに息をとめてそっと剥がしてもシールの痕跡が残ってしまいがちだけれど、これならきれいなままとっておける。
印籠函にも、細かいデザインがほどこされていた。
とっておきたくなるような凝ったデザインの箱や缶だと、ちょっとくらい高くてもまあいいかと思えるからいい。
真っ赤な個包装を開けたら、手元でりんごの甘い香りが漂った。
香料かと思ったが、チョコレートに「りんご果汁パウダー」が含まれている。ルピシアコラボの紅茶は、ラングドシャ部分に使われている。
少しくらいはみ出したっていいさ oh oh 夢を描こう、と言わんばかりに、ラングドシャからホワイトチョコレートが飛び出している。
見た目は白い恋人そのものだが、甘酸っぱいりんごの華やかさと、あとからほのかに香る紅茶の香りが上品な味わいだ。薄さに反して、結構食べ応えがある。
冷えているとチョコレートの存在感がかなり強いので、室温に馴染ませてからの方がくちどけがよいかもしれない。
注意書きによると、ベスト温度は18℃とのこと。
《お菓子×紅茶》、《りんご×紅茶》、《石屋製菓×ルピシア》。
パッケージは《和×洋》、《伝統×洗練》。
ちょっと割高かも、と思ってしまったが、パッケージの総柄に負けぬ、総コラボの渾身の一品だった。
ここに期間限定という要素が加わると、付加価値はもはや無限大である。じっと見つめた甲斐があった。
食べ終えた後この函に何を入れておこうか、今は楽しげに逡巡している。
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