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記憶がたびする美術館

AIで写真を動かす、という技術を最近よく目にする。

すごい技術なのだけれど、しばらくすると人物の顔や服装が溶けるように変わったり、背景や登場人物がグラデーションのようにすり替わったりする。

情報がない部分は、AIが想像で創り出すからいたしかたない。

あの奇妙さ、夢の中に似ているなと思う。

昨夜の夢は、TT兄弟、もとい、チョコプラのふたりが街ぶらロケしているところに出くわす、というものだった。

ところが、ふたりはいつの間にか知らないおじさんにすり替わっていて、街もちがう風景に変わっていた。

どうせ夢を見るなら、こういう色彩で、イラストタッチの夢でも見てみたい。

空想旅行案内人
ジャン=ミッシェル・フォロン
東京ステーションギャラリー
2024/07/13(土)〜2024/09/23(月)

姪のリクエストで足を運んだ展覧会。

東京駅は何百回と乗り降りしているが、東京ステーションギャラリーはわたしも初めてだ。

JR東京駅の丸の内北口改札を出たら、秒で美術館。まだ駅舎内である。

ティー!!!

東京駅のTと、東京駅の駅舎に使われているレンガの目地をモチーフにしたロゴ。

1階の入り口から、エレベーターで3階へ。

ジャン=ミッシェル・フォロンは不勉強ながらはじめて耳にする名前で、なんの前知識もないまま訪れた。

シルエットだけ描かれた人物が赤いフレームのメガネをかけていて、南キャンの山ちゃんみたいだな…などと思いながら観ていると、記憶の引き出しがカタカタ言い出す。

シルクハットのシルエットおじさん、時を止めたような静けさ、夢の中のような不思議な構図。

あれだ、マグリットっぽい。

それもそのはず、フォロンは

20世紀後半のベルギーを代表するアーティストのひとりです。若き日に偶然出会ったマグリットの壁画に感銘を受け、絵画世界に惹きつけられたフォロンは、1955年に移住したパリ近郊でドローイングを描く日々を送ります。

https://artexhibition.jp/topics/news/20240716-AEJ2199547/

だった。

水彩画や版画がメインなので、マグリットに比べ色彩はやわらかくあかるい。

そして、空気を含んだようなグラデーションはふわりとかろやかだ。

姪「このおじさん、さっきの絵にもいたよね」

よく観ると、色あざやかにみえて、使っている色数はさほど多くない。

それに、描かれたモチーフは魚雷や干からびた大地など、楽しい空想の世界とはほど遠いものも多々ある。

おどろおどろしく見えないのは、グラデーションと色彩の妙。

2000年代に制作された作品もあったため、てっきり存命なのかと思いきや、2005年に旅立たれていた。

命ある限り、現実を夢の網でつかまえる作業をされていたのだろう。

人物の目が唇で描かれている作品を観て、姪が「目は口ほどにものをいうってことかなあ?」とつぶやき、ハッとする。

宮沢賢治っぽい雰囲気

作品もさることながら、3階から2階へ降りるらせん階段と、2階展示室の壁が、赤レンガむきだしであることに驚いた。

空襲の火災で炭化した木レンガがところどころにあったり、モルタルを塗りやすくするためにわざとキズをつけた目あらしレンガがあったり。

東京駅自体が外壁を赤レンガで覆われているが、展示室の壁も、駅舎創建当時の構造をあらわにした赤レンガのまま。

美術館の壁はのっぺりと平らなものが多いから、戦争や火災の歴史を刻んできたゴツゴツしたレンガや、むき出しの鉄骨に圧倒される。

https://www.ejrcf.or.jp/gallery/institution.html

それでいて、フォロン作品の世界観をさえぎっていない。作品は作品で、赤レンガは赤レンガで、堪能できる。

「空想旅行案内人」といえど、現実を旅する空想旅行だから、さまざまな歴史が刻みこまれてきたこの赤レンガと相性がいいのかもしれない。

展示室内なので写真は撮れなかったが、墨で文字のようなものが記されたレンガもあった。

何と書いてあるかは分からない。

ただ、それがメモやいたずら書きだとしても、そこに歴史や人の息づかいが佇んでいることに、ワクワクする。

展示だけでなく、空間も楽しめる美術館だった。見どころが多い。

そういえば、レンガの目地で無限にTが存在していたし、赤レンガは板チョコレートっぽくもあった。

夢の中にTT兄弟があらわれたのは、この美術館の記憶が脳内を旅してきたからなのかもしれない。

夢はAI技術より奇なり。




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